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3-3 神の出陣

神サイド。


 神の御座。そこは大天狗や宇迦のように個々が過ごしやすいように建てる社もあれば、大勢の神が集まるような大広間もあれば、娯楽のための施設もある。

 この世全ての贅を集めた楽園。そう言っても過言ではない、地上とは隔絶した最後の、人を超えた次元に棲む安住の地。

 その大広間には大天狗とその眷属たる天狗たちの姿が。他にも長身で顎からは長い白い髭を生やした老人や、真っ白な毛並みを揃えた馬、天女のような格好をした女など様々な存在が集まっていた。

 この場にいるのは全員神かその眷属である。


「大天狗。一番槍は貴様に任せるが、もし苦戦するようであればすぐに増援を送るぞ?」


「心配はいらん。見定めるのにそう何柱もいらぬだろう。それに、晴明が少しはあの時代に世界の在り方(テクスチャ)を変えている。日ノ本建国時と比べれば大分心もとないが、今の人間どもなら余裕で屠れるだろう」


「神としての威光を見せよ。今の人間は神の奇跡も存在も信じない愚か者ばかりだ。ついでに選民を施しても構わん」


「暇があればな」


 神と軽口を叩いてから、大天狗の集団が下へ続く道を下っていく。その総数百二十以上。大小様々な天狗がいて、小さい者は人間の掌に乗るサイズから、大きい者は大天狗と変わらないサイズ。

 服装は統一されていて全員山伏のような格好をしていたが、武器はそれぞれ違っていた。その体躯を超える三叉鉾に、刀や太刀、弓を背に矢が入った鏑を腰に下げた者もいれば、明らかに日本が産み出した物ではないクロスボウや両刃剣、ヌンチャクや三節棍を手に持つ者もいる。

 日本の鬼が持っているとされるような大きな金棒や大鎌、忍者が使ったとされる手裏剣や苦無を持つ者もいる。木刀やメリケンサックを嵌めているヤンキーかぶれの天狗までいた。


 まだ中国大陸伝統の物であれば理解できるが、刺突剣(レイピア)やギロチンの刃、ハンマーやトマホークにモーニングスターなど、どこから日本の神の御座に持ってきたのかと首を傾げかねないような武器を携えた者までいた。

 もちろんこれは神の御座で産み出したものだ。神の御座とは日本の神が住む場所ではあるが、海外にも精通している。信仰などは日本の中で完結しているが、日本以外のことを知ることはできる。

 そこで知った知識を交換したり、鍛冶の神が試し打ちと言って製造したり、美食の神が実際に海外に赴いてその国の御馳走を食べてきたりと、国外でもかなり自由奔放に活動している。


 その結果が、この統一感のない天狗の軍団だ。失敗作と鍛冶の神が言うような武器をもらい受けて天狗たちは得物としていたが、地上の人間が見ればまさしく神が創りたもうた物として価値がわかる人間は卒倒するような代物ばかり。

 真作と呼ばれるような代物は、眷属の天狗如きに渡される物ではないからだ。

 そんな不出来とされた武器とはいえ、曲がりなりにも鍛冶の神が用意した逸品を装備した天狗の軍団が浮かべるのは人間に対する怒りだったり、ようやく動けるといった喜びの表情だったり、暴れられることを純粋に楽しもうとしている戦闘狂としての恐怖を誘う笑みだったり。

 一つ言えることは、どの天狗も今回の襲撃を心待ちにしていたということ。一千年前は人間に価値なしとして、手も出さず神の御座へ引きこもった。


 人間は神が手を出さずとも、自滅したからだ。

 その後神の気まぐれや妖という恐怖がなくなれば、人間は人間たちで争った。日本の中でもそうだが、海を渡って他国へ侵攻した。他国からも攻められた。そうやって勝手に傷付いていき、日本が汚れていく様を見て完全に見限った。

 大きな争いを経て、人間は景観を変えながらもおとなしく暮らしていると思えば、地上に残った数少ない、慈悲深い土地神を殺した。そこからは本意ではなくてもAと協力しつつ人間を再び管理することにした。


 管理しなければ、愚かすぎて見ていられなかった。あれがかなり薄まったとはいえ、同じ血を流していることに耐えられなかった。だからこそ、増えすぎた人類を間引く。

 今回はその第一陣に過ぎない。この結果を踏まえて今後どうするのか本格決定するのだ。

 天狗の軍団は白い道を下っていき、大きな鳥居に着いた。そこをくぐるともう下界、地上だ。そこをくぐる前に例の扇を紐で括り付けた大天狗が号令を発する。


「では征くぞ。進軍だ!」


『『『おおおおおおおおおおおおっ!』』』


 一斉に鳥居を抜けると、そこはすでに京都の上空だった。本来神の御座はその神を信仰する神社のどこかと繋がっているのが通例だ。宇迦の社がそうだった。

 だが、最近の神々はその神社から寄せられる信仰すら受け取らずに外界と関わりを絶つ神も多くなっている。そのためか、どんな神でも利用する大広間から下界へ繋がっている鳥居は下界の神社とは繋がらず、京都の上空へと繋がっている。


 そこへ全員移動が終わると、誰も勝手な行動はせずに主たる大天狗の推参を待った。その間に三百六十度何か警戒すべき存在がいないのか哨戒を始める。結果として雑魚の魑魅魍魎は浮かんでいたが、警戒するような存在は近くにいなかった。

 大天狗が一番最後に移動してきて、京都の街を眺める。ビル群もそうだが、人工的な光が増えたかつての都を見て、眉間の皺が深くなっていく。


「これが都だと……?本当に汚らわしくなったな。霊気も神気も少なく、空気が汚い。雑多なものも多く、人間の雑念ばかりではないか。神など信じず、自分たちの生活に手一杯。封鎖的なその日暮らししか映っておらん」


『大天狗様。晴明から聞いていた呪術省なる建物を発見しました。それと、晴明一味も』


「ふん。どうせあ奴も儂らが移動してきたことに気付いているだろう。神気に鋭い者ならこれくらい離れていても察することができる。……反応を確かめるか。皆の者、雑に行くのはやめよう。風を巻き起こして更地にするなどいつでもできるが故に、現れた儂らをどう思うか、まずは何もしない。向こうから攻めてきても、危険がない限り儂らは手加減をしようではないか。それが超越者としての役目であろう」


『仰せのままに』


「では降りるぞ」


 今度は来る時とは異なり、大天狗を先頭として降りていく。こうして近寄っても気付く者は少数。神気がある程度広がったというのに、それを感じ取れる人間はまだまだ少ないということだ。

 まだ上空に留まっていたが、その姿は人間の肉眼ではっきりと見える位置まで降下した。そして辺りを見回して大天狗はこう宣言した。


「──告げる。今の世に、人間に誅罰を下そう」



次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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