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2-2-2 五神会議

マユの目的。


「あの人は本物だよ。……死者を式神にする方法はあるとされてきたけれど、人間での実例はないはずよね?動物や鬼が精々で、人間を式神にするという行為は生きた人間にしか適応されていないはず」


「その通りだ。そもそもとして、人間の降霊がかなりの高難易度ということ。人間を式神にした程度では戦力にならないということ。この二つから実例がないな」


「可能性があるとしたら晴明様の泰山府君祭?死者をも復活させる大儀式。その辺りは呪術省が門外不出にしてるからボクたちは詳しくないんだけど、どうなの?」


 泰山府君祭という名前は残っていてもどのような儀式だったかは伝えられていないというあやふやさ。一度だけ行われたその儀式は、陰陽術を用いた儀式だとはわかっていても、いつどのような目的で用いられたものなのか一般には知らされていない。

 そのために死者復活のための儀式とさえ噂されている。殺された母親を蘇らせるためのものだとも。


「泰山府君祭は我々も何も資料を得ていない。戦中になくしたのか、そもそも記載できないような術式だったのか。そこまではわからないが、君たちと情報量は変わらない」


「隠してないッスか?」


「隠してないとも、白虎。禁術指定されているが、その詳細がわからないから何故禁術なのかもわからない。名前だけで、どのような術式なのか、どういう効果があるのか、儀式に何が必要なのか、それすらわかっていない」


「無能だな。呪術省の名が呆れるのである」


「本土まで攻撃された第二次世界大戦で全て守り切れるはずがなかろう。日本の呪術は他国からも摩訶不思議な力として警戒されていたのだから」


 青竜の言葉に晴道は反論していたが、開き直っていいことではない。頼れることとして情報は大事であるのに、その情報も得られないのでは。


「それに呪術省以外も賀茂や我が土御門は戦中からあの天海内裏に襲われていたという記録も残っている。戦争をしながら国内に裏切り者がいて、しかも重要な資料ばかり狙われていたのだから仕方がなかろう」


「それってつまり、泰山府君祭を行うためにあの男が襲撃したって可能性もあるわよね?もしかしたら一千年前から蓄積された秘術もあの男は知っているんじゃない?」


「その可能性はある。我々が失ったものを、向こうは平然と使ってくるわけだ。その対策も何もわからないままな」


「あの男に襲われたら防げないのも頷ける。特に戦中であればなおさらだろうね。では何か?私たちが敵対する男は強力な平安の鬼を二匹連れていて、先々代の麒麟を従えていて、それらを使役することに余りある霊気を所持していて、その上で私たちの知らない技術も知識も得ていると?まさしく化け物ではないか」


 朱雀のまとめに全員してため息をつく。その相手をできるのはここにいる面子のみだ。彼の手下である鬼一匹に何十人という優秀な陰陽師が殺された。青竜ですら敗れたのだ。相対できる人間が限られている。

 そんな中、マユ以外に気付かれることなく玄武はため息をついていた。Aが何のために過去呪術省を襲ったのか、当時式神になっていなくても理由に勘付いていたからだ。

 戦中に呪術省を襲って得た知識や技術などありはしない。一千年前から生き続けて知識も技術も集積し続けているだけなのだから。それでも呪術省を襲った理由は、裏側の住人としての警告。ただそれだけ。


「天海内裏は置いておこう。先々代の麒麟と対峙した大峰君と玄武に聞きたいのだが、一人だけで彼女と相対して互角まで持っていけるかな?」


「不可能よ。ボクじゃ瑞穂さんには何一つ敵わない。映像見たから知ってるでしょ?あの人は麒麟も従えてるの。しかもボクたちのように呪符を用いずに。この時点で互角だと思う?」


「わたしも多分無理です……。瑞穂さん本人と戦ったわけではないので断言はできませんが、彼女が詠んだ黄龍とは互角でした。そこに瑞穂さん本人が加わったら互角とはいかないと思います」


「であろうな。今回の麒麟も我々の中では最年少ながら、術式の腕前は当代一だ。その麒麟が敵わないとなると、修業あるのみ!」


 敵わないから努力する。それは正しいが、ここにいるのは間違いなく日本の頂点。そんな存在たちが今までも努力してきた上で更に努力したところで伸びしろはあるのか。

 五神という力だとしか思っていない存在と心を通わせるということができれば戦力増強間違いなしだが、その可能性にはマユを除いて誰も気付いていない。そして世界も変革して神気が溢れ始めているので、それを身体に纏い始めて適応を始めたとなると伸びしろと呼ばれるものは限りなく小さい。

 上限いっぱいまで上がりきって、その上で外的理由も済んでしまっている。あの事件の日から実力が伸びたのはマユだけであり、他の人間はほぼ横ばい。となると、残念ながら青竜の発言は終着点として正しくなかった。

 それがわかっていないながらも、似たような感想を覚えたのは朱雀。


「努力はすべきだが、私たちはこれ以上強くなれるのかい?考え付く努力という物を全てこなしてきたから私たちは今の立場にいるのだろう?」


「努力は無駄だと?朱雀」


「何か画期的な発見があれば別だろうけど。例えば晴明が残した修行法や、五神以外の式神とかさ。正直総合力ならば私は大峰君に負けないと自負している。適していたのが朱雀というだけで」


「あんたらはお互いにないものをそれぞれ身に着けたらいいんじゃないッスか?朱雀さんは近接戦が、青竜さんは呪術戦が苦手でしょ」


「戦術のレパートリーを増やすという意味では歓迎だが、伸ばすと言っても限度があるだろう」


 その言葉でマユは朱雀を相談持ちかけるパートナーから外した。どこかひょうひょうとしていて自分より強い存在が現れても自信ありげにどうにかできると信じ込んでいる。自分が確立されてしまっている。

 そういう人に話しても意味がないと、見切りをつけた。


「白虎の言うことも最もだな。我は他の五神に比べて呪術戦は苦手だが、欠点をのさばらせておくつもりはない。対抗手段は増やすべきだ。そういう白虎はどう力を伸ばす?」


「オレは色々と情報を集めてみて、後は師匠の所に顔を出そうかと思ってるッス。槍の腕が鈍くなってる気がするし、封印してた弓も使えるようにしないといけないんで」


 そういう白虎は武芸百般で、陰陽術も得意不得意なく器用に使える高水準に纏まった陰陽師だった。彼の場合は実力をつけるのではなく、取り戻すだったり備えるということが正しい。大峰や朱雀には呪術の腕では敵わないが、戦闘能力という意味ではずば抜けている。

 大峰も朱雀も陰陽師としては総合的にこの中でもトップだったが、戦闘力という意味では白虎が適応能力も込みでトップで、式神に関してはマユが一番。近接戦は青竜がトップで、陰陽術に関しては皆得手不得手はあってもどっこいどっこい。

 正確には神気を多大に用いれることから接近戦を除けば総合力でもトップはマユなのだが。


「あとは各地の状況をウチのツテで調べさせることッスかね。呪術省からも情報提供は受けてますけど、一つの情報源に頼らずに複数の視点持っておきたいんで。明らかあの日から日本は変わったッスからね。状況の把握はマジで大切ッスよ。情報一つで命の天秤は簡単に傾きますからね」


「じゃあその情報を纏めたら私たちにも伝えてくれ。呪術省ではない民草の意見や情報から何か得られるかもしれない。そちらは白虎に任せよう」


「へーい」


(白虎さんです!白虎さんに相談するのが一番良いと思うのです!青竜さんは強くなれるなら歓迎だろうけど、この人も結局自分が強くなることや朱雀さんに負けたくないって想いが強すぎて話聞いてくれないこともありますから……。ゲンちゃんにも確認取って、その上で話しましょう)


 マユは確信を持っていた。呪術省を完全には信用しないような物言いと独自の情報網。そしてこの場を諫められるような判断力などから相談すべきなのは白虎だと決めた。

 他の人は話を信じてくれるかわからなかったので保留。


「呪術大臣。裏・天海家から今回の件について公式発表は?」


「ないな。麒麟がいるから不要と考えたのだろう。麒麟は何か聞いているかね?」


「本人と確証が取れたくらいで、後は何も。他のことも今まで通りですって」


「協力するつもりがないということか……。裏側の住民というのはそういうものなのか?」


「あの人たちは表側には出てきませんよ。自分たちが天海家の分家であることも、陰陽師であることも隠している一族なんだから。当主になっても概要なんて知らないし、今は麒麟としての業務を優先しているからあっちは他の人に任せているし。普段やっていることは農業よ?一般人と何も変わらない生活しかしていないわ」


「それが本当ならいいが」


 晴道は麒麟を二人も輩出している、天海の名を冠する家が普通なわけがないと睨んでいる。それだけ瑞穂は規格外だったことを覚えているからだ。先代麒麟もかなり特異な家系だったが、調べただけで長野の天海家の方が特異だ。

 なにせ天海という江戸で大成した陰陽大家の分家だというのに、陰陽師としての実績が全くなく、まさしく存在するだけなのだ。

 そして大峰も瑞穂も自分の家について多く語らなかった。呪術省へコンタクトがあったのは後にも先にも瑞穂が亡くなって呪符を送りつけてきた一度だけ。それ以上の接触は一切ない。


「鬼の方は?片方は外道丸と名乗っていたそうだが」


「酒吞童子の容姿が書かれた文献はなかった。ただ残っていた動画から戦中に攻めてきた鬼と変わらないのは事実だ。青竜に勝つ強さから、平安のネームドの鬼で間違いないだろう。対峙した玄武は?」


「それ以上のことは聞けなかったので……。ただ玄武と協力してようやくだったので、酒吞童子に近しい実力を持つ鬼だとは思います」


「かの鬼には平安の頃も苦労したというからな。もう一匹の鬼は学生が足止めをできたということだからそこまでではないのだろう。つまり警戒するのは酒吞童子の方だけでいい」


 こう言ったのは晴道が自分の息子と懇意にしている賀茂の御令嬢からの報告を鵜呑みにしているためだった。天狐と難波最強の式神二匹がかりで足止めをしたのだが、自分以外の学生で足止めできたためにそこまで脅威ではないと報告したからだ。

 これには光陰のプライドと賀茂の絶望が関係していた。光陰は同年代で誰にも負けないと自負していたし、賀茂は正門の辺りで行われていた外道丸の虐殺とマユとの戦闘に力の差を思い知ったからだ。それと比べれば、光陰の言う通り学生で止められるのであれば大したことないと見たこともないのに断言してしまったため。


「ああ、もう一つ確認しておくことがあった。大峰君。あの男が言っていた裏・天海家十二代当主というのは本当なのか?」


「いいえ?十二代当主は瑞穂さん。十三代当主はボク。あの男がボクの家の当主だったという記録はないよ。大方瑞穂さんが教えたんでしょう」


「あの物言いはそれっぽいものであった。あれは攪乱としては十分な効力であっただろう」


「ではやはり、出自はわからないままか。これ以上は推論しか出ないな」


 この中で玄武だけがその男の正体を知っていたが、ただの式神のフリを続ける。実態は裏・天海家の当主ではなく創始者なのだが、それはマユにも教えていなかったのでこの場で誰からもその答えは出ない。

 それからも確認事項はいくつか話されたが、有意義だったかと言われると微妙な会議だったと言える。大峰が求める情報は呪術省にはなく、その他の人間が求めるものを大峰が持っていなかったためだ。


次も三日後に投稿します。

感想などお待ちしております。

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