過去と向き合い乗り越える時
猫とドラゴンに指輪を与えたら自慢し出した…いや、フローラは純粋に言ってるだけだし、アクアはマリンに報告しただけだ。半分煽りつつと後押ししてるミケは考えているのだろうか駄女神の逆鱗に触れないようにしている。で、セーラはリーシャを完全に煽ってる。
今夜は2人だけにしようと思ったが昼寝した影響…というより、きちんと向き合わないといけないんだよな。俺が何をしたのか理解はしている…完全に抉った。トラウマを再燃させたとも言える。現にその4人は少し遠い目をしていた…
俺が…というより首から下が暴れて押し潰されかけたのは同じような事を過去に経験したファルとサレナ、リーシャとマリンだ。どうやってもその過去は変えられない。ディナとユーカ、リーシャは俺を殺そうとした。マリンは2度も…いや、体を含めたら3度も俺の死を目にしている。この前は殺す気で向かってきたのは事実だが、実際に殺すつもりは皆無だった…とはいえ、思い出させた。それに全員に死の恐怖を与えた事も事実だ。
何度言葉で互いに謝り許し合う事が出来たとしても綺麗さっぱり忘れられるほどの関係ではない。そんじょそこらの斬り捨てて構わない賊を相手に行動したものではないし、ファルとサレナには前の世界の倫理観だってある。それに、2人は俺に殺された側だ。俺やリーシャみたいな殺そうとした側ではない。マリンはそのどちらですらない。
奪ったから奪われたからという問題ではない。そんな感情で渡すものでもない。そう誤解されない方法を考えないと…駄女神の呪いが無く、抑圧しすぎてた欲望があれば解決してたんだがな…
◇
「はぁ……」
激しい戦いだった。風呂に入っていたら雰囲気良ければくれると焚きつけられた数名が乱入してこようとした。浴室まで指輪を持ち込むわけないだろうとどうして気付かない。お陰で色々大変だった…主に抜け出すのが。まあ、どうにかしたけど拒否したとか思われない配慮に骨が折れた。ミケは後始末として、他の面々は俺の対策講座を開いて落とし方を教えるんだとか…もう落ちてるから指輪渡してるんだが。
それは任すとして、部屋に呼んでおいた4人と向き合わないといけない。明らかに人数過多だが分けて同じ事を繰り返すのは悪手だ…イリーナたちの時みたいに納得してくれるだろう。幸い、少なからず繋がりがある面々だし。
「トウマくん。ちゃんと理解はしてる。灯里ちゃんを喜ばせるためにボクたちでいっぱい練習して」
「全然理解してないだろ」
4人で良かったかもしれないと考えを改めた。よくよく考えれば回数は灯里だが深度はユーカの方が上だったのだ。ましてや、体としては…いや、余計な事は考えるな。
「灯里ちゃんは初めてに拘り過ぎ。一番大切なのは誰とするか…だから、まずはトウマくんと結婚するための指輪を頂戴」
「まあ、渡すけどさ…戦いで傷付いたとか無いのか。心身的に」
「衝撃波には耐えられなかったですけど、剣は防いでましたし」
ファルが盾で防ぎつつサレナが攻撃という連携で相対していたとは聞いたが、よくやるよと思う。むしろ、逃げても責める状況ではなかっただろうと…灯里とかは責めるか。
「よく逃げなかったな…」
「逃げたら、後悔する。ユーカの敗北条件もしのぶの敗北条件も死だった。でも、あの戦いの敗北条件は死だけじゃなかった。トウマくんが居なくなる事はあそこに居た全員の敗北条件だった」
「トウマさんが魔物として解き放たれる…それで大虐殺が起きて人々から嫌われる。そんな事になるのが嫌だったんです」
「……別に見ず知らずの他人から嫌われるのは気にしないんだが」
「ボクたちが嫌だっただけ。トウマくんを嫌う世界なんて悲しいだけだから」
「トウマさんが無闇に人を殺す姿をもう見たくないって人も居るんですよ…」
ファルはそう言ってリーシャの方へ視線を向けた。
まあ、結界の加護があって何とかという状態ならそう思うのも当然か。こいつら全員で止められないなら誰も止められないだろうし…創造神もだろうけど。
「…リーシャは、俺を殺したかったか?」
「そ、そんなわけっ…」
何言ってるんだという視線が他の3人から突き刺さってくるが、気にしない。もし、素直に…いや、リーシャを連れ去っていたら俺が魔王になっても虐殺を繰り返す必要すら無かった。だが、仲間を殺した俺が幸せになるなんて考えられなかった。もしもなんて存在する余裕は無かった。
だがそのもしもが今、目の前にある。全てではないが望んだものがある…やり直しというには微妙ではあるが、俺がレトラだった事実は消えない。リーシャの気持ちを知っていても、俺はあの世界で最後までレトラだった。
「なら、次は殺してでも止められるようにしてくれ」
サレナが言った敗北条件を俺に当て嵌めたら、それしか無かった。アレクは自ら敗北条件を満たした…それが魔王の策略も含めたものだとしても。レトラだって同じだ。簡単な理屈だ…俺は泣かれる方がまだマシだった。燈真として死んだ時、満足していた。琉璃という少女を守れたから。それはカインがマリンを庇った時も同じだ。本質は同じ…
俺の敗北条件は、大切な人を失う事だ。
「今回は結界があった。でも、この指輪をすれば結界は俺の攻撃を貫通する。そうなったら、俺はあの悲劇を繰り返すだろう…そんな事になりかけたら、躊躇せずに殺せ」
「トウマお兄さん…そんな事言わないでください。トウマお兄さんを殺すくらいなら…」
マリンは涙目でそう訴えてくる。だが、引くわけにはいかない。そんな覚悟は要らない。何が言いたいのかは分かる。カインがそうだった。狂うくらいなら殺して欲しいなんて考えも、殺すくらいなら殺して欲しいという願いも理解出来る。
だからこそ、ケジメなんだ。いつか俺が狂った時にこの4人ならやれると思うなんて身勝手な事は言わない。ただの押し付けでしかない。死が2人を別つまで…その死を俺が与えないために。もっとも、奏多が言うなら俺さえ殺さなければ神化したら不老不死みたいなものらしいし。
「トウマくん…その指輪の能力って消せないの?」
サレナの至極当然な疑問を俺は否定する。
「脅威と感じたら、俺にまた触れるなんて出来なくなるが…それで構わないのなら消すが」
ちょっとハッタリも入れた。というか、この4人には有効な手だと思う方法だ。前世にしろ今にしろ、あかりん菌ならぬ欲情させた原因である俺自身の言動を間近で見てきた4人ならそれがどういう事か理解出来るはずだ。
「…お兄ちゃん。私たちの事、嫌いですか…」
「別に嫌いだからとか意地悪で言ってるんじゃない。ただ、お前たちには力がある…守る力も倒す力も。だから、間違った事を俺がした時に止めて欲しいだけだ。それで俺が死ぬ事になっても」
我ながら酷な事を言っていると思う。俺にそれが出来ないのに押し付けているわけだからな…
「……お兄ちゃん。今度はそうならないよう努力してくれますか…間違った私が言える立場じゃないけど、もうあんなのは嫌だから…」
「ボクたちが間違った時も、トウマくんがそうしてくれるなら構わない。あの時もこれからも、トウマくんが正しいと思う事をして」
「矛盾してるな、それは…」
俺が狂ったとしても正しいと思うなら…いや、正しい事なんて何も無いと理解しているからこそ素直に頷けない。
でも、まあ構わないかと思う事にした。これ以上は互いに納得なんて出来ない。狂った時に考えれば良い。だいたい、俺のスキルがあれば抑え込む事も可能だ…いや、何故か抑え込むのが難しいものもあるが無意識に望んでいるんだろうか…
これ以上4人を苦しめるのは趣味ですらない。終わらない問答を続ける必要なんて無いんだ。己にそう言い聞かせた…
「矛盾しているからこそ、今があるんだよな…俺が正しい事をするために努力するとしたら、さっさと左手出して俺を受け入れろとしか今は言えないか」
我ながらメチャクチャ言ってる自覚は…まあ、その言葉に笑いながら左手を差し出す4人を見ればどうでもいい事だ。そう思う一方で、もう少し欲望のままに生きていれば違った未来があったのかもしれないと思う。
「じゃあ、せめてBまではしないと」
それぞれに指輪をした途端、サレナが獲物を見る目でそう言ってきた。
「いや、それはちょっと…」
「トウマお兄さん…惑わそうとしたバツです」
「お兄ちゃん…私たちだって我慢して…」
「ほぅ…我慢して、何かな?」
この後、盗聴魔駄女神の説教をサレナたちが受ける事になったのは言うまでもない。俺はファルと一緒にさっさと寝たからいつまで説教されたかは知らんけど…




