ネコとドラゴンのひなたぼっこ
翌日、何事も無く退院した。誰かと違って理性ある3人で良かった…という事にしておいてくれ。スキル使わずよく耐えられたと思う…一方で、どんどん先輩やら魔王らしく振る舞えないただの男に成り下がっていってるのを感じる今日この頃。まあ、なんか本性見せたら嫌われるって展開にはならないと願いたい。
でだ。イリーナたちは学校の準備に忙しいので館に戻ってすぐに勉強へ行かせた。アベルティアやホンゴウでは教えていない事も編入試験に出るのだから覚えなきゃいけない事は多いらしい。実際、通用する学力あるなはシュウくらいなものだとか…当然だろうけど。それより、編入試験のための勉強かが怪しいところだ。灯里が教えるとかまずありえないし…
それはさて置き。俺は当面安静にしていろとアクアに指示された。とどのつまり、自宅ならぬ館療養だ。勉強を教えるとかは構わないし戦闘しないなら多少出歩くのも構わないのだが、出歩くのは無理そうだ。
「やっぱり、ひなたぼっこが一番だみゃん」
「縁側で飲む茶は最高なのじゃ」
暇を作った主治医と暇でしかない師匠が監視するそうな。ついでに、俺の膝を枕にしてミケとフローラが寝てる。ミケは単なるサボりだが生後間も無いフローラには勉強を詰め込むなんて出来ないから休み休みしているようだ。
「あー…何かこう、強敵が現れて戦うとかないかのぉ…」
ダメドラゴンがダメな事を言い出した。そんな身の程知らずが居たらお目にかかりたいものだ。むしろ、俺より強かったらこの世界を支配とかしてるだろ。
こうやって、洋風な館に何故かわざわざ作られた縁側でのんびり過ごしている方が幸せというものだ。居候がこうしている罪悪感はあるが。
「……で、わらわたちにはいつくれるのじゃ。それ」
セーラはミケの左手を見て、そう言ってきた。耳を撫でているうちに眠ったミケの指に指輪をしておいた。さすがに起きてる時に渡して「子作りするにゃん」と押し倒されたら抵抗出来ないから仕方ない。数少ない癒しを卑しい灯里に奪われたくはないし…そんな事になったら怪獣大戦争にしかならない。
「順番的には後の方にしたい…奏多から色々聞いたし」
俺を育てて伴侶にしようとしたとか聞いたら渡すのは抵抗ありすぎる。まあ、渡さないつもりは無いが。ミケ以外の3人より先に渡さなきゃいけないのが居ると思う…順番をつける事はしたくないが、待たせ続けた人にはと心情的に思うわけだ。それに…
「…お前の力なら、あんな貴族に勝つ事だって出来ただろ。それに死ぬ事だってなかったはずだ…」
どうして俺に殺させたのだ…そう言葉は続かなかった。【竜殺しの剣】の威力を知らないわけではない。だが、セイントドラゴンを…神を殺したその剣は【神殺しの剣】にはならなかった。それがどういう事かなんて少し考えれば誰だって分かる。
あの直前、俺はこいつから全てを渡された。【聖竜波動】の仕上げだと称して、神にされたのだ。人間を辞めたのはそれ以外にあり得ない。だから、神で無くなり弱ったセイントドラゴンはたかが貴族の、たかが【竜殺しの剣】の狂気に負け、俺に殺された。
俺はその事実に目を背けてきていた。気付いたのは【竜殺しの剣】を手離した時だ…竜殺し程度では魔王を倒せないと直感で理解出来た瞬間だ。
もし、あの時俺がこいつの言葉に逆らって回復させていれば助かったのではないか?
ずっと、そう思い続けていた。
「わらわはな、愚かなドラゴンだった。まだただのドラゴンであった時に利用されてある場所へと送られた。見もしない建物や地面…見慣れぬ服を着ていた人間の前に飛ばされ錯乱したわらわは1人の人間を裂いた。それを見た女神の逆鱗に触れたわらわは身を失い、ただの魔物になり別の場所へ飛ばされた。そこで先程襲いかかってしまった少女に再会した。謝ろうと近付いたら、勢い余って庇った青年を貫いてしまった。そして、わらわは魂も真っ二つにされてセイントドラゴンと竜人になった…」
実行犯が自白しやがった。というか、もう1つの癒しと卑しいのが元は同じだったと聞かされた。そういえば、異なる世界の俺はドラゴンを嫁にする可能性もあったとか言ってた逆鱗の女神が居たな。その影響が丸々あるという事か…そういえば、先にこの世界に来て先駆の勇者として灯里たちを引っ張るとかも言ってなかったか。影響してるんだろうなぁ…
「いつ思い出した?」
肝心なのはそこだ。最初からとか言われたら撤回もあるし。
「お前をマリンたちと連携して戦った時、ミケとフローラが合体した時の戦い方…何より、お前をまた貫いて斬り裂いた瞬間だ。【竜殺しの剣】の時には微塵も思い出せなかったのに、お前に害なすこの体になって思い出したのじゃ…あいこなのじゃ。だから思い悩むでない」
なら良いんだが、こっちにだって割り切れないものはある。殺された事は構わない…殺されかけた事もだ。だが、殺した事は割り切れない…そうするしかリーシャを救えなかったかも疑問だ。
「今、わらわは幸せじゃ。神などと崇められ癒しの力を人々に与え続け傲慢にした…それが使命だと、役目だと思い込んで。その力を使わなければならなかった者を2度も傷付け、命を奪っていたわらわがようやく救えたのじゃからな」
「それは我も同感みゃん。この体で救えたみゃん…カインは無理だったけど、トウマは救えた。もし救えなければあの苦さをまた感じ続けたみゃん…我も指輪を受け取るみゃん。その覚悟は出来たみゃん」
アクアまでそんな事を言ってきた。そこまで言われて渡さないという選択肢は無い…剣だからと割り切るつもりも無いが、セーラに渡したら押し倒される気がする。
「分かった。だが、渡したからといって襲いかかってくるなよ…ミケとフローラが起きて4人がかりになったら勝ち目無い」
「それで灯里が襲うの分かってるからしないみゃん」
「リーシャを通してあいつの恐ろしさを体で感じたのじゃ…そんな無謀はせぬ」
灯里が抑止力になっているのを喜ぶべきだろうか、最初に指輪を渡していた事に安堵すべきだろうか。
まあ、ムードもへったくれも無いがいつまでも左手を差し出している2人を放置するのも気が引けるのでさっさと嵌めた。フローラはたまに秘石も食べようとしているから起きた時に渡そう。
「…セーラ、フローラと1つに戻るとかってないだろうな?」
「一時的な合体は可能じゃの。しかし、永続は不可能じゃな…灯里みたいな菌類じゃないと」
「やっぱりあいつは菌類か」
そんなわけないだろという目でアクアがこっちを見ている。まあ、ミケに多少汚されたとはいえ素直に俺を慕ってくる中身子どもの打算的でない子は少ないからな。外見はミケより少し大きくなった気もするが…
深く考えても無駄だ。ひなたぼっこしつつ寝よう…




