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白い衣装と式と思いと

大森林に行ってから8日目、目的を達成したのでトウシューへ帰ってきた。駄女神とYesしか書かれていない人数分の枕と一緒に。Noが足りないのか脳が足りないのかは各自の判断で理解してもらうとしよう。


ちなみに俺の土産は大森林の果物と動物の肉とかだ。オークとかに聞いて、求婚とかに使わないものを選んで持って帰ってきた。そういう事は気を付けなければいけないと思っていたのに…



「では、採寸を行います」



帰ってきた早々、タコ足に四肢を絡め取られそんな事を言われた…無理に逃げる事も可能なんだが、そこまでするつもりは無い。というより、話してもいないのに考えが伝わっているのならそれに従おう。式の手配も既にしてあるらしい。覚悟出来てるんだなと思う事に………出来るわけないだろ。



「言っておくが、生前葬するのにわざわざ作る必要無いからな」








皆を集めたお兄がトチ狂った事を言い出した。


あかりん菌の感染源は俺だったかもしれないから、サナトリウム建設して保菌者を隔離しようとか、その際には死んだ者として戸籍を抜いてアレクトラ姓で纏めて管理しておこうとか、生前葬をしてこの世界とお別れしておこうとか…


ワザとなのは分かってる。灯里ちゃんをダシに適当な事を言ってはぐらかそうとしているのも分かってる…


あたしたちは、その可能性を考えなかったわけじゃない。あたしたちは過去を克服したり、乗り越えたりしてスキルを1つに纏めた。でも、目の前のトウマ・アレクトラと名乗るお兄の魂を宿した彼は乗り越えていないのだと…


琉璃ちゃんを庇って死んだ偽善者なお兄と、極悪人と言われたであろうアレクの混ざり合ったもの…それが今の彼なのだと。でも、それはお兄の詭弁だという事もあたしは理解している。アレクの魂は死んだ…魔王がそう仕向けた。操り人形にするためにしようとしたけど、アレクが抗って失敗した。その事実をお兄に伝えた。



「と言われてもな…俺はもう何者でもないわけだ。それがアレクの体を使って生きている。レトラになった時点で俺の結末はほぼ決まっていたが、墓参りも終えたしこの世界にこれ以上関わるのもな…」






学校に行っても迷惑になる。とはいえ、他の世界の神の事とかあるので積極的とは言えないまでも関わらないといけない。この世界に来た本来の目的は終えた。リーゼアリアの依頼も果たした。救わなきゃいけない皆も助けた。何より、俺は変わり過ぎていた…


確かに俺は藤島燈真だった。が、今は親や仲間をも平気で殺すアレクの姿をした外道そのものだ。決して、勇敢な死を遂げて神格化された藤島燈真だったものであって藤島燈真ではないのだ。灯里や奏多に兄と言われる立場も誇りも無い、ただの人殺しだ。


そう言ったら、叩かれた…灯里や奏多にだったなら理解出来る。イリーナやファル、サレナやシュウでも分かる…



「何でフローラに叩かれなきゃならない…」


「ガウガウ」



そんな事より遊べと言われた気がする。シリアス返せ…



「フローラちゃんが正しいよ。人殺しでも人間を滅ぼした魔王でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。体なんかかなちゃん以外は全員違うんだよ…むしろ、お兄ちゃんが気にする事だよ。どうして猫耳なんだとか、耳長いんだとか、角あるんだとか…」


「猫耳で悪かったにゃん。でも、我輩は前世とかそんな些細な事は知らんにゃん。ご主人様と子作りして幸せになるだけにゃん」


「ウチは、前世もその前も引っくるめて今があるって思ってます。藤島燈真という人も、アレクという人も引っくるめて今のトウマさんが好きなんです」


「ボクは藤島燈真という人の事はよく分からない。けど、今のトウマくんはアレクくんと何も違わないから傍に居たい。それだけ」



灯里にミケ、ファルとサレナがそれぞれの気持ちを改めて口にした。分かってはいた…そう言われる事は。だからこそ、半端な自分が嫌に感じてしまう。2回あるいは3回目も俺を選ぼうとしている気持ちに応えられるほど立派な存在じゃない。



「兄様。それでもわたしは傍に居るとメアの時に決めたんです。今更試すような事は言わないでください。それに、数こそ違えど人を殺したのは同じじゃないですか…誰かは世界丸ごとですけど」


「うっ…」



イリーナはまだリーシャを許しきれてないのか?


まあ、そういう接し方しか出来ないんだろうけど…それは俺も同じようなものか。



「お兄だって、何人かは本気で面倒見なきゃって思ってるんだよね?」


「まあ、それはな…」



灯里は当然として、奏多はマナの女神に本採用されないために引き取るとして…そう言い出したら少なくとも半数は面倒見る状況を回避出来ない。するつもりも無くなってるが。



「だったら、全員が面倒見なきゃって思えるチャンスをあげないと不公平だよ。お兄が好きって気持ちは全員同じなんだよ」


「奏多…面白がってるだけじゃないのか?」


「一番変わったのはかなたんだと思うにゃん。ダメな方向に変わったにゃん…」


「まあ、400年の間に俺たちの知る奏多は居なくなったんだよ…むしろ、それが普通なんだ。灯里がおかしいんだよ…」



どうして、灯里だけが改悪してしまったのか…まあ、兄妹揃って悪くなったとも言えるが。あかりん菌というか、ふじしま菌の恐ろしさなのかもしれない。国が滅んだくらいだし。



「とりあえず、生前葬だろうが結婚式だろうが延期にしておいてくれ。今のところ、俺が引き取るだけが方法ではないし…落ち着いて考える時間が必要だ。今、目の前に居るのは藤島燈真でもアレクでもレトラでも、ましてやカインでもない得体の知れない生き物だ。必要であれば記憶だって決して構わない。わざわざまた人生を狂わせる必要も無いだろう…幻は幻だし、勇者は死に魔王は討たれた。今の俺は人間でも神でも魔王でもないただのトウマ・アレクトラだ」



自分が思っている以上に俺の闇は深いようだ…抑えつけていた感情が弾けたら、俺は間違いなく全員の記憶を改竄するだろう。最悪、世界を滅ぼす魔王にして同じ事を繰り返すかもしれない。カインがマリンを悲劇の勇者にしたような事を燈真は繰り返した。アレクとレトラも繰り返した。なら、今の俺はまた…


ダメだな。少しだけ大罪で抑えていたものを解き放っただけでこれだ。頭の中では色欲を解き放ってそういう事を受け入れてしまえとも思っているのに、ありのままを知られるのが怖いと思っている俺が居る。


燈真というメッキ、アレクというロールプレイング、レトラという仮面にカインという記憶…それらが取り払われた時、どうなってしまうのかと思う。


というより…



「そろそろ躾けるべきだろうか、これ…」



ずっと叩いてくる竜娘が鬱陶しい。試しに一瞬だけ憤怒を解放してみた…壁に亀裂走って全員が気絶した。展開が支離滅裂過ぎる。

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