墓参り終了のお知らせ
◇
私はこの世界に飽きていた。吸血鬼の始祖として死する事も出来ず気付けば神として世界を支配出来る立場になっていた。だが、そんな事をする気もなく送られてくるマナを定期的に放出していた。
それを見かねたのか、いつしかマナの他に魔物が送られてくるようになり、更には異世界人が送られてきた。そして、魔物と戦い出した。私はそれを観戦していた…そのうち、死んでいく者たちが羨ましくなった。そして、異世界人のお気に入りが死んだ。死んだ兄を皆の支えに仕立て上げていた女だ…実に滑稽で、そんな女のために死んでいく者たちも滑稽で。最期も滑稽な死に方だった。
そして、滑稽な理由で私は恨まれその女によって死を与えられた。だが、魂を取り込まれ転生の輪の中で私は消えず眠りについた。時折、力を強制的に使われ目覚めかける事もあったがそこまでには至らなかった。
だが、今回はそれに至った。更には完全に分離し昔の姿と混ざり合ったような姿となった。いや、外見はカティナという娘のものに似ておるが吸血鬼としての牙もあるしそうなのだろう。
男に裸を見られ気絶するという失態を犯したが、目覚めた後は久しぶりの吸血衝動に体が疼いた。その時、運良く私に屈辱を与えた男が部屋に入ってきた。ちょうどいい…此奴の血を吸い尽くしてやるわ。
◇
帰ってきたら真夜中だった。まあ、それは仕方ない。部屋に戻ると熱烈な歓迎を受け…
「マズっ…くっそマズっ!?」
首元にガブっとされて血を吸われたわけだが、その反応はどうだろう…まあ、わざと吸わせたわけなんだが。神の血を飲んだらどうなるかって実験を兼ねて。でも、その反応は予想外だった。
まあ、俺が帰ってくるのを待っていた超残念真剣【駄女神】たちから色々と聞いた。ついでに聞いた話だが、灯里にリーゼアリアとアリエルアが治療を施したが無理だったらしい…真性ならぬ神性の残念妹だったらしい。知ってた…
とりあえず、いきなり襲ってくる事は予想していた。奏多がこいつだけ俺の部屋に隔離したのも他の皆が襲われないための配慮だ。まだ付与の効果で眠ってるのも居るし。
「おかしい…昔もそんなに美味しいとは感じなかったのに、これほどまでマズいのは初めてだ。やはり体が変わったからなのか…あるいはこの男がよほど体調管理を疎かにしているのか」
吸血鬼に血液検査されている気がしてならない。確かにここのところあまり睡眠取れてないしストレスは溜まりっぱなしで疲労感あるけどさ…
「とりあえず…カティナと呼ぶぞ。お前は敵対する意思があるのかどうか問いたい」
「…ふむ。まあ、真名は私も知らぬからそれで構わぬ…」
そう話を切り出したカティナは己の出自を語り出した。
少なくとも400年より以前に存在していた事。気が付いた時には吸血鬼でキジトラのラボがあった場所より奥の山の中で1人生きていた事。吸血鬼として時折人里に下りて死に至るまで吸血をし、眷属は作らなかった事。だからこそ真祖ではなく始祖であり唯一の存在ではないかという事。いつしか神扱いされていた事。灯里に殺されて安らかに眠っていたのに気付けばこうなっていた事…
余計な事をすると、本当にろくな事にならない。しかも、裸を見た俺を初めての眷属にするつもりだったが効果無いし吸血鬼としてのプライドを粉々にされたから責任取れと言われた。
いったい、何人に責任取らされるんだろう。俺…
◇
「名前が無い?」
「大森林ではよくある事ですよ。きちんと考えてあげないといけませんね」
目覚めると兄様を慕う女の子が増えていた。けど、大森林から来た子には名前が無いという…集落の風習とか親が名付ける前に死んでしまったとかで名前が無く一生を終える子も居るとファルさんから説明してもらった。
ややこしい風習だ。一応、呼ばれていたのを聞いたけど差別的なのもあった。普通の価値観を持つなら使えない…
兄様にも手伝ってもらって考えよう。
◇
名付けなんてものまで頼まれた。マリンに勉強教えてるというのに。もう宝石から取って名付けろと言っておいた。イリーナが上手くやってくれるだろう。
今の問題はマリンの学力だ。シュウが全員同じクラスにするにはある程度の学力が必要という…が、年齢に合わせなきゃいけない上にマリンの前世である琉璃ちゃんは小学生だったので予備知識も無い。マリンに勉強を教えた記憶も無い。というか、リーシャの方がダメな気がするんだが。読み書きからして…
「トウマお兄さんは、次から次に増やしてますけど…どうするんですか?」
「何でも聞いてくれとは言ったが、その質問には答えにくい」
マリンからの痛恨の一撃に耐えて、間違ってるところを指摘する。というより、この参考書からして適当なのとか誤字とか脱字あるからなぁ…それがまかり通る程度の高校生の知識を元に作られたこの世界の教育環境が心配だ。
マリンの質問には適当に答えておいた。マリンを捨てるつもりは無いし、他の連中も捨てようとは思わない。ついでに言えば、シュウに灯里の同級生が埋葬されたところ出身の学生とかに話を聞いてもらったら、かなり年数が経った墓なんて勇者や女神ならまだしもその仲間では粗末だったり風化によりボロボロとなっていて見れたものではなかった。むしろ、灯里以外の小夏たちの墓があまりにも悲惨な事になっていたから魔法で作り直しました。きっと本人たちが見たら悶えるだろうが知った事ではない。ついでに奏多の分も作ったとかは言わない…モニュメント化したのも言わない。
さすがに灯里のクラス全員までは覚えてないし、北里の墓はかなりきちんと管理してあるし竜介のもそうだろうから…これ以上フラグ増やしたくないから墓参りはもう十分だ。
ならば、何をするか。学生をするのも悪くないが、確実にそういうのはフラグが立つ。ましてや、幻の勇者としての実力を知るやら貴族として婚姻やら…マリンがまた暴れてはいけないから学校の先生も用務員とかもダメだろうな。
「…トウマお兄さん、何か余計な事考えてませんか?」
「まあ、色々と…」
さっきからずっと保健体育をやってる君の思惑から逃げたくてとは言わない。あかりん菌で学説論文でも作ろうかなぁ…
「…トウマお兄さんは、生まれ変わっても変わらないですね。ちゃんと言いたい事言わないとダメですよ」
「…それで相手を傷付けてもな」
マリンにはすぐに追い抜かれ、教える事なんて何も無くなって、それでも下らないプライドとか年上の威厳とかで縛り付けていた。きっと、あの時だって庇う必要なんて無かったほどで…でも、そうしなかったら藤島燈真という男が松木琉璃という少女を助ける事も無かった気がする。なんて考えすぎではあるのだけど…
「トウマお兄さん。嫌なら嫌だって言わないとダメですよ…マリンはそう言ってもらいたかった。『お前の所為で傷付いて殺された。なのにまだ生き返らせようとしてたのか』って…」
そういえば、あまりフォローしてなかったなと気付く。許したし過ぎた事と割り切れないものがあるわけだ…それは全員になのだろう。とりあえず、マリンの頭を撫でてやる。
「そうだな…マリンの所為で前世の俺の墓は無いんだよな。作らないといけないか」
「いえ、そういう意味じゃ…」
「前世思い出したからトウマ・アゲート・アレクトラに改名しなきゃいけないかな…」
「いえ、そういう事でも…」
「傍で笑ってくれるなら、大切だと思う奴は全員アレクトラ姓に改名しなきゃいけないのか。もう少し捻れば良かったかな…」
「そういうの…えっ?」
まあ、今すぐというわけにはいかないし、全員そうすべきとは思わないが何人かはそうしなきゃいけないとは思っている。色んな意味で俺が妹扱いしたのは狂った人生観を持ったわけだし…責任の取り方は考えておこう。