妹たちの正妻戦争開始
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「トウマお兄さんが傍で笑ってくれる大切な人なら誰でも娶るみたいです」
マリンちゃんの発言は全員に衝撃を与えた。お兄ちゃんの大切の基準は低い。アレクやレトラとなって随分とハードル上がったけど、イリーナちゃんやサレナちゃんから聞いたアレク時代に作った村は下手をすればハーレム村になっていたかもしれないという冗談。あながち、この世界ならハーレム村どころかハーレム国を作れるのが幻の勇者という看板だ。
お兄ちゃんはこの世界の神で、信仰する人は多い。つまり、慕われてるって捉え方も出来る。お兄ちゃんはそういう人にはとことん甘い…それが悪いとは言わない。むしろ、お兄ちゃんがお兄ちゃんである理由の1つだ。だからこそ、お兄ちゃんが幻の勇者として讃えられたわけだし。
だからこそ、お兄ちゃんに近付く悪い虫の管理はしっかりしないといけない。
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「というわけで、お兄ちゃんへのラブレター統制作戦を発展させた、お兄ちゃんハーレム統制作戦をやりたいと思います」
我輩は覚えている、前世の事にゃん。あかりんが「お兄ちゃんがモテない。ラブレターをダミーで作ろう」と言い出した中学時代、かなたんと北里、竜介の5人で書いて毎日下駄箱に入れてたにゃん…日常の報告とかみたいなものになってたにゃん。でも、いつの間にか本物のラブレターが増えて、言い出しっぺのあかりんが嫉妬し出して、他人のラブレターを検閲し出したにゃん。
今回も同じにゃん…あかりんは我輩たちやご主人様が関わった人間には寛容にゃん。むしろ、血の繋がった妹だからこそ自分が一番になれない事を自覚してたにゃん。だから、ハーレムなんて言ってご主人様の周りを賑やかにして、ついでに自分もなんて考えてたはずにゃん。
でも、加減を間違えたにゃん。大森林の連中は仕方ないにゃん。琉璃ちゃんと同じで命救われたらイチコロにゃん。竜人だってあかりんの卵かけご飯から救われたからそんなものにゃん…でも、ご主人様は幻の勇者にゃん。この世界を救った我輩たちの前世のヒーローにゃん。間接的に世界救ったようなものにゃん…ついでにご主人様の前世はこの世界に裏切られたも同然らしいにゃん。更に言えば、魔王にゃん。復讐されたらこの世界おしまいにゃん…そんな事をしないのはご主人様だからにゃん。だから、憧れたり同情したり怖がったりでハーレムに加わりたい奴は今後増え続けるにゃん。
だから、統制にゃん。ラブレターの時は内容を確認して、聞き込みによる身辺調査してから渡したり処分したり返したりしてにゃん…思えば非道な事してたにゃん。でも、同性はダメにゃん。問答無用にゃん。結局、卒業するまでそれは続いたし、我輩たちは途中でメールに変えたから減ったのは確かだったにゃん。
結局、あかりんのワガママで打ち止めにゃん。ご主人様が開き直ったのは幸いにゃん…この世界は重婚出来るにゃん。異種族なんてのも関係無いにゃん…同性は知らんにゃん。むしろ、そういう法律甘々にゃん。つまり、ご主人様が昔みたいに遠慮する必要無いにゃん…
ご主人様は優し過ぎるにゃん…かなたんが好きなのに、あかりんの気持ちにも理解を示して、あたしたちの気持ちも理解して自分の気持ち抑えてたにゃん。メル友って理由つけて断った相手にも優し過ぎて、ドラゴンじゃなくて嫉妬したあかりんが刺し殺したと思ったほどにゃん。無自覚にも程があったにゃん…そんなんだから、お泊りにかこつけて布団に潜り込まれたりするにゃん。
「というわけで、まずはそれぞれを鑑定して、お兄ちゃんに相応しいかどうかを判断して嫁として受け入れてもらうか、妾で我慢してもらうかを選別して、今後は嫁に選ばれたメンバーがお兄ちゃんのハーレム追加の管理していくという事で」
あかりんの下らない話を聞いてる人は誰も居ないけど、ここらで一度全員を振り返ってみるのは悪く無いと思うにゃん。むしろ、まだステータス確認してなかったにゃん。ついででスキル付与されて寝込んだり、ご主人様から神具貰ったのも報告して欲しいところにゃん。
まあ、まだ寝込んでるのも居るから後日にゃん。かなたんが嫁か妾のどちらにするか考える時間が必要とか言ったから仕方ないにゃん…シュウちゃんも重婚の最多人数を調べる時間が欲しいとか言ったから待つにゃん。
でも、こいつら完全に間違ってるにゃん。ご主人様が全員俺の嫁って言えばそうなるし、前例なんて神の前じゃ無意味なものにゃん。ラブレターの時だって、ご主人様が選ぶ権利は最終的に残してたにゃん。これはあかりんの罠だにゃん。嫁になる気がないなら去れって事にゃん…我輩は一度振られた身だからと前世はちょっと諦めてラブレター書いた奴の説得とかしてたにゃん。あの時のご主人様はあかりんとかなたんと、ちょっとだけあたしを見てくれてたにゃん。だから、それだけで良かったにゃん。
仕方ないにゃん。裏で暗躍するにゃん…
◇
マリンに余計な事を言った翌日…何故か余所余所しい皆の対応に疑問を抱くまでも無く裏で何かしてるんだろうと割り切って、共同で焼き鳥の研究をしている施設へと足を運んだ。
「不死鳥のエキスがあればとも思ったけど、死者蘇生の薬は無理そうみゃん」
アクアが中心に死者蘇生の薬を試行錯誤しながら作っているが、やはり難しいみたいだ。まあ、不死鳥とはいえ完全に死なないわけではなく転生と同じような理屈で復活する程度だからな。
「それは仕方ないけど、この神と同じ連中がまだ居るわけだから強力な回復薬は出来るだろ…死にかけの奴が助かるほどのは。仮にも神の体から抽出したんだし」
「何とも罰当たりな話みゃん」
そうは言うが、肝食った奴が居るから俺には今更な話だ。それに、どうにかしてでも薬を使わないと浮かばれない奴も居る。
「まあ、作ってくれ。お前の…キジトラの仲間に言われたからな。灯里を見殺しにして悪かったって…」
「仲間みゃん?」
「ああ…」
何の因果か、奏多の代行をしていたのはタマだった。そう、灯里が助けた猫耳族のお姫様だ…とはいっても、奏多も知らない程の転生を繰り返していたが。
そのタマ曰く、猫耳族に【水の聖剣】を守るようには言ったが薬の事は言ってないそうだ。キジトラは自分の研究がしたいためにバカネコ王の戯言「不老不死になって可愛い飼い主に耳を撫でられるのが2代目からの悲願だにゃん」を都合良く解釈したのだろうと…無論、フジシマに行って盛大に浄化魔法ぶっ放してきたとも。
まあ、その研究が噂を呼びマリンの助けになったまでは構わない。が、そこからだ…キジトラは薬を使う気など無かったから不要なのに余計な事を言った。マリンに気兼ねなく薬を渡すためにそう言ったのだろう…それがどんな結末を呼ぶかなんて考える気もなく。
「…違うか?」
そう告げるとアクアは柄にもなく俯き、ポツリポツリと話し始めた。
「…我は猫耳魔王だみゃん。マリンはそんなのの言う事を信じて頑張ったみゃん…どうせ作れない。材料も手に入るか分からない。なのに、マリンは信じたみゃん。でも、作った薬が効果あるかなんて分からなかったみゃん。きっと【水の聖剣】の…このアクアの力が助けたんだみゃん。我はマリンを騙したみゃん…きっと手に入らないから助からない。だから諦めろと。でも、マリンは素直すぎたみゃん…結果、起きた奇跡みゃん。そして、我のバカな一言がマリンを壊したみゃん。でも、頼ってくれたみゃん。お兄さんを治して欲しいと、生き返らせて欲しいと頼られたみゃん。でも、無理だったみゃん…マリンを眠らせてもらって、前のアクアである灯里の力も借りたけど傷を塞ぐのと氷漬けして腐敗しないようにするので精一杯だったみゃん。そして、生き返らせる事もままならず我は【氷の聖剣】に魂を残して体は朽ちた。我は魔王だみゃん。奏多たちが追ってる連中と同じだみゃん…何も出来ない間抜けな王だみゃん」
「…それは…」
さすがにそれは予想外だった。アクアが話すには、魂だけの存在となった神や王が姿を偽り潜伏している可能性があるという事らしい。そもそも、時間と空間の流れがメチャクチャなこの世界において神や王が姿を変えたりしているのは当たり前らしい。でなければ元の姿のまま焼き鳥になっていたり使役されたり…ん?
「…つまり、ミケが使役している魔物の中にも神やら王が居ると?」
「そうみゃん。だから、ミケは魔神扱いみゃん…まあ、あいつらは人畜無害みゃん。奏多の言う世界接着はしてないみゃん。我の世界は手遅れみたいみゃん…神がお前だから構わないらしいみゃん」
「マジか…」
アレクの世界の関係者かよ、お前…とはいえ、俺が居なくなってリーシャも居なくなってからの何者かなんだろうが遠い目をしているから今は聞かないでおこう。
「まあ、前世の事はどうでもいいみゃん。マリンの事は許してもらうみゃん…ただ、繰り返したくはないから我はこんな事をしているみゃん。トウマの周りには死なすには惜しい奴らばかりだから回復薬は大量生産するみゃん」
「そうか…まあ、それは構わないんだが。前世の俺に飲ませた薬って結局何だったんだ?」
「鬼花の蜜、奇跡のキノコ、ドラゴンの卵、地下迷宮の水…ただの栄養ドリンクみゃん。魔力加えてあるから体力と魔力回復はするみゃん」
「そうかい…」
ドラゴンの卵以外は今では簡単に手に入るし、全部代用可能で今では市販されてる栄養ドリンクと大差ないとか。まあ、頑張って集めて作ってくれたし変なものじゃなくて良かったと思おう。
「ところで、あかりん菌の殺菌、除菌薬は作れないか…アンチ惚れ薬でも構わないが」
「そんなの無理みゃん。そもそも魂にそんな事やったら始末に負えないみゃん」
「…だよなぁ…」
やはり、覚悟を決めなきゃいけないか。シュウゾウに相談してこよう。




