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不死を知らずは火の如く



ユーカと俺は同い年で、ウマが合った。いつもとは言わないが槍を使うユートや弓を使うディナとは違い、短剣を使うユーカとは連携して戦う機会も多く背中を預けた事も1度や2度ではない。


とはいえ、異性を感じさせるような事はあまりないし仲の良い友人といったところがあった。まあ、それで気付けば何処ぞの妹のように俺の寝ている間に色々やられていたわけだが…


それはともかく。あの瞬間まで間違いなく俺はユーカを大切に思っていたのは間違いない。御字しのぶという少女の事を俺はよく知らない…死後の面識はあるが、それだけ。姉小路さんから少し聞いた気もするが、気がする程度の認識でしか覚えていない。


灯里たちの友人で、姉小路さんの妹みたいなもの…それだけで信用するには十分だ。それに謝ってもらえたし、魔王が洗脳したという事もはっきりしてる。許してはいるし終わった事と割り切れる…ただ、御字しのぶという少女を知らないからか、あるいはディナとユートの転生した姉小路さんや竜介を知りすぎているためか、違和感とは呼べないまでもモヤモヤした気持ちが俺の中にはある。







城塞都市・シラヌイ…ファルたちを送った場所からではさほど中は分からなかったが門に近付いてもそれは変わらない。



「サレナ様、この牡たちは?」



さすが城主ともなれば顔パスで入れるのだが、連れが居てはままならない。俺とブチは【隷属の首輪】のダブルタイプを着けられ自由意志の無い奴隷となっている。もっとも俺は演技なわけだが。



「猫耳族の方は偶然手に入れたから売るつもりで持って帰ってきた。そっちの格好良い方はボク専用の牡」



まあ、専用かどうかはともかく、そう言わないと通れないのだから仕方ない。



「さ、サレナ様が遂に…伝令。今すぐに都市の皆に知らせろ。サレナ様が本懐を遂げて戻られた。宴の用意だっ!」



何その展開、聞いてない。本当に何も考えたくなくなってきたわー…というわけにもいかず、まずはブチの里親探しならぬ買取先探しだ。








猫耳大魔王ブチ…そのお値段28,912円(税、手数料込み)



「安いな、おい…」



思わずトウマくんも演技を忘れてそう言ってしまうほどだった。うん、せめてもう一桁欲しかった。


でも、きちんと鑑定して算出された結果の売却価格だった。ちなみにこっそりトウマくんも鑑定したら非売品扱いになってた。うん、それで良い。



「ここから吾輩は成り上がってやるにゃん。見てるがいいにゃん」



そう捨てゼリフを吐いて職員に連れて行かれたブチ。良いところへの売り込みに失敗したり、あまりにも問題があるのはオークションに掛けられる。あの値段なら最下層の男娼館で鎖に四肢を繋がれて死ぬまで搾り取られるコースだろう。気に入られれば買い取られるかもしれないけど、その前に加虐嗜好の犠牲になるはず。



「…手を合わせて見送るって事は死出の旅か、あいつ」


「うん。南無三」



むしろ、種無しの三毛系猫耳族がこれだけの値段で売れた方を喜ぶべきかもしれない。









猫耳大魔王のお金はミケに託すとしよう。猫耳族のところへ行く時の土産代にでもすれば良いや。まあ、そんな事はどうでもいい。ブチの記憶は戻さなかったし、もう2度と会う事もないだろう。


会うとすれば、俺も同じところへ放り込まれた時だけだろう。そうならないよう気をつけて生きよう…あるいは滅ぼそう。


それにしても、魔族と一口に言っても街を行き来するのは多種多様だ。アレクの世界では滅亡の一途を辿ったのもあるからか魔族の数も少なかった。翼を持ち、角を生やし、爪は長く牙は鋭い。そして、肌の色は人とは異なる。


まあ、世界が違えば魔族も異なる。サレナだって角さえ無ければ人間と変わらない…むしろ、そういう点では人間と同じに見える俺の方がよっぽどバケモノだ。


ある意味、ここは俺が目指した場所に近いのかもしれない。魔族と魔法が使えるから迫害された人たちの村…俺はその将来をどうしたかったのだろうと思う。時に、あれで良かったのではないかとも。


描いた理想は魔王の洗脳と人間たちの思い上がりで崩れた。そして、俺の消失であの世界に魔族は居なくなった…結果、破滅の未来だとしても、多くの犠牲を出したとしても平和にはなったのだ。



「不知火…この都市は、『不死を知らない火の如く』っていう言葉からつけられた。人が点けた火は消える事を考えずにその瞬間までただ燃え盛る…でも、消えた火は人がまた点けて燃え盛って消える。どんな火でもいつかは消える。そしてまた燃やされるために点けられる…この都市の、魔族の火は何度も消えた。でも、点け直して今がある…」



この鬼娘さんは何を急にぶつくさ言ってるのか…とも思ったが、明らかに俺を見て言ってる。ユーカも急に変な事を言う奴だったな、そういえば。



「でも…トウマくんの火はボクが消してしまった。絶対に消しちゃいけなかったのに、守らなきゃいけなかったのに…」


「…はぁ…」



俺の気持ちを察して、そんな事言ってきたのか。サレナにも言いたい事はあるんだろう…確かに腹を割って話し合ったというわけじゃない。だからこそ深いんだろうな、こいつの傷は。



「それを言うなら、俺は消しただろ。お前たちの命を…お互い様だ」


「それは違う。ボクは、自分の手で消してしまった。だから、欠けたものがずっとあった…」

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