怨霊魔王の再魔王譚(笑)
そういうわけで、最深部の1つ上の研究部屋にやってきて、サクッと【氷の聖剣】を【水の聖剣】で砕いたマリンさん…ラトの意見は「心の中で聞いたよ。大丈夫」と電波な事を言ってきた。そうだ、この子思い込み激しくって皆の優しさ誤解して自殺したんだったと今気付いた。
「…仕方ないみゃん。君がマリンたちのお兄さんみゃんね。結果良ければ全て良しみゃん」
さっさと馴染んでフレアたちに似たアクアという姿で現れ納得した魔王キジトラ…ちなみに、知り合いの前世ではないようだった。
「それより、この男はどうするみゃん…中に魔王が潜んでるみゃん。すぐに復活して世界を破壊しかねないみゃん。我は撤退をお勧めするみゃん」
「はっはっは。大丈夫だよ、ラトちゃん改めニューアクアちゃん。ここにお兄ちゃんがいる限り、そんな事は出来ないから」
根拠ないぞ、駄女神よ。ニューかどうかはともかく、アクアの言う事は至極真っ当なわけだ。この洞窟がどうなるか分からないわけだし…まあ、4人なら脱出は簡単だ。これを全員で来てやってたらちょっと危なかっただろうけど。
そうこうしている間にも氷は砕け散り、前世の俺、カイン・アゲートの体が出てきた。
「ふふふ…あっはっはっは。順序が逆になってしまったが、まさか貴様が私を復活させてくれるとはな。勇者アレクよ」
あーやっぱりあの時のクソ魔王だった。白けるなぁ…
「はいはい、ダメダメ魔王。さっさと消えろ…あ、武器が灯里になってたんだった」
前と同じように一刀両断しようとしたが、誰も武器持ってなかった。まあ、作ろうと思えば作れるし、それ以前に必要なさそうだし聞きたい事もあった。
「…お前、あの村で俺の仲間に【七大罪処刑】使ったな?」
「ふっ…懐かしい事を今更持ち出すか。ああ、使ったさ。面白い見ものだったぞ…だが、あそこでお前が死んでくれていればもっと面白かったがな」
こいつ、魂さえも消し去るの決定。マジ許さねぇ…と思う反面、そのお陰で今があるなんて思える自分が居るのがちょっと腹立たしい。
「まあいい。お前に殺され魂だけ転移した私はお前と同じ体を手に入れる事が出来た…しかも、内に多くの呪いを秘めた体をな。これを解き放てば世界は歪み、私はまた魔王として君臨出来るだろう。しかも、ただの魔王ではない…大魔王を従えた真の魔王としてだ」
灯里たちは驚愕しているが、その大魔王は入り口で倒した雑魚以外に見当たらなかったわけだが気付いてるのかと。ここに居ない時点でよくそんな演説出来るなと…
「さあ、特等席で見せてやろう。この世界が呪われる瞬間をなっ!」
そう告げて両手を高らかに掲げる魔王…名前は聞いてないしメアたちも知らなかったので分からない。というか、こいつの行動からして分からない。
「止めといた方が良いと思うぞ」
一応、忠告はしてやる。その呪いを生み出した張本人として。
「ふっ…命乞いなどする必要の無い苦しみを味合わせてやるから待てば………な、何故だ……ぐはっ…」
目の前の俺の面したアホ魔王が吐血した。あーあ…ちゃんと忠告をしたのに。
「な、何故だ。何をした、アレクっ!」
「何もしてねぇよ。ただ、その呪いをお前が解き放って自爆しただけだろ…妹みたいに可愛がっていた大切な女の子を自分の所為で魔王たちとの戦いに送られ、助かった後も自分の所為で望まぬ未来へ歩ませなければならない事態にさせてしまい、彼女の気持ちに応える事も出来ず死んでしまい、それによってその子を憎悪の復讐鬼へと変えてしまったクソッタレで惨めで何度殺しても恨んでも絶対に許せない最低最悪の己自身への呪いをな」
マリンの幸せを願って死ねたらどれだけ楽だっただろう。だが、その幸せが俺の傍にしか残されていなかったと知らないほどカインという男は愚かではなかった。【水の聖剣】の事をキジトラに謝って何処か静かな場所で暮らそうとあの夜告げるつもりだった。だが、それは叶わなかった。
殺された事を恨むより、助けてくれなかったマリンを恨むなんて論外で…ただただカインという俺は大切な女の子を深く傷付けてしまう事を悔やみ、己の弱さを憎み、生まれてきた事を恥じ、あの時すぐ死ななかった事を呪った。
もし、仮に復活の秘薬や魔法が出来てカインが生き返っていたら…間違いなく、俺は死を選んだ。今度は復活すら出来ないほどの死を…魂さえも消し去るほどの死を。
本当に本質というものは変わらない。目の前の俺だったものが発火し始める。
「な…何故だ…私は……魔王で…」
「そうだな。他人の人生を奪って生きていくのがそういうものなんだろ…罪も思いも何もかも背負って、昔も今もこれからも2人分も3人分も重荷に耐えながら生きていく。その重荷に潰されたんだよ、お前は…」
沢山の人を傷付けたからでも、殺したからでもない。目の前の魔王はただ…臭い事を言えば叶わなかった愛なんてものに殺されるんだよ。あの時、俺に殺された母みたいに…
「安心して先に死んでろ。俺もそのうちそうなるんだから、今度は地獄で殺し合えば済む話だ…いや、無理か。きっと魂さえ消え去るだろうからな」
「お…おの…れ…」
やがて、俺だったものはただの黒い塊へと変わった…別にアホ魔王に同情するつもりは無い。むしろ、恨みが増えたし死んでくれて清々している。
ただ、灯里とマリンが俺に縋り付いて泣いているんだ。こんな死に方はしないで欲しいと…
「まあ、安心しろ。アレクやレトラならこうなっていただろうけど…今の俺はそれなりに割り切れている。死んで生まれ変わったと考える程度にはな」
さあ、さっさと帰って皆を安心させよう。