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妹ではないものたちへ

奏多の「じゃあ、灯里ちゃんが居ないし皆も気を遣って来ないはずだからしよ」という残念発言に、思いっきり浄化の光をぶち当てたら別の光が飛び去っていった昨夜。あかりん菌の感染力怖すぎワラエナイ…翌朝、全員に浄化の光を施したが殺菌出来たかは不明だ。


朝食後、当面の方針を改めて話し合った。この大所帯は強弱が激しすぎるから、せめて最低ラインの引き上げは必要だ。ミケが言うには「クソ兄貴なんて雑魚にゃん。あいつはただのダメネコにゃん」というが、ミケの基準は当てにはならない。


このメンバーでレベルを基準に考えると痛い目に会う。昨日がそうだった…フレアはミケより強いのに対策された国王に手も足も出なかった。もっとも、【炎の真聖剣】状態なら対抗出来たと本人は言うが…そういえば、ステータスを詳しく聞いてなかったなと思い至る。と同時に致命的なミスを犯していたのだと気付いた。把握していれば助かった前例が目の前にあるのに、繰り返してしまったのだと。


俺は訓練内容を奏多に一任して風に当たりたくなって部屋を出て中庭へと向かった。








「情けないな…」


「泣かないだけ強い…と思いますよ。トウマ様は」



中庭の階段へ腰掛け、しばらく風に当たっているとリーゼアリアに声をかけられた。



「トウマ様…か」


「お兄ちゃんとは呼びません…呼べません。私はもう藤島さんではなく、穢され犯される事に快感を覚えて狂って死んだ女の生まれ変わりですから」


「そういう事を言うな…」



輪島さんは見た目はああだったが、純粋な女の子だった。だが、姉小路さんと比較されたりして軽い女だと思われていたと悩んでいた…少なくとも、残念妹のようではなかったと俺は思っている。大切な後輩の1人…まあ、きちんと俺への気持ちを割り切れていない上にスライムの犠牲になっていた事を俺は知らされていなかった。奏多や宇津木さんも、北里や沖田でさえ知らないところで穢され犯されていたのだから隠されていたのだろう。保護という名目で…


俺はリーゼアリアの頭を撫でる。



「慰めに来たのに、慰めないでください…藤島さんでなくなった私はトウマ様の奴隷なんですから」


「輪島さんとして、それで良いのか?」


「…むしろ、本意なんですよね。私としては…藤島さんが使ってくれるならって思ってました。リーゼアリアとしての私はトウマ様に情けを貰えれば良かった。それだけで十分でした…輪島莉瀬というバカな女は藤島さんの優しさを踏み躙った。快楽の中で大好きな人にされている夢だけを見続ける事しか無かった無能な女です。【模倣】という使えないスキルしか持たないで役にも立たない、大好きな人の大切な人も守れない役立たずなんです…」



泣きながらそんな事を言うな…そんな事、誰が言ったのだろうと腹立たしくなる。俺がこの世界で最初に出会った少女はこの子なのに…この子が俺をここへ呼んでくれた。それは間違いない事実で、この子の事も俺は大切な人と思っている。輪島さんとしてもリーゼアリアとしても。



「俺は、正直言ってリーゼアリアの中から灯里が居なくなって安心してる。どうしようもなくあいつは灯里だった。リーゼアリアの今までを壊すほどにな…だから、今のリーゼアリアで俺は良いと思ってる。奴隷でもなく、灯里の代わりでもない1人の女の子として傍に居てくれ」



そう告げて俺はリーゼアリアを抱き締めた。輪島さんとしての無念さも灯里に切り捨てられた悲しさも俺が忘れさせてやるなんて傲慢な事は言わないが、最初に戻るだけだ。見届けると…とはいえ、本当にさっさと灯里を助けないといけないと改めて思った。土下座させて謝らせないといけないだろ。








泣き疲れて眠ったリーゼアリアを部屋まで運び、もう1人の事が気になり彼女を捜してトウシューの教会へとやってきた。


女神の像に祈る彼女…アリエルアは、泣いているのだろう。背中側しか見えないが肩を震わせていた。だから、駄女神にはちょっと退場してもらおうと爆破した。



「トウマ様、何をなさるんですかっ!?」


「アリエルアを泣かせる駄女神を躾けただけだ」



目を真っ赤にさせながらも俺に怒鳴る元気はあるだけマシか。最初に会った時は弱りきっていた。中野さんも同じようなものだったか。



「そんな事はありません。わた…僕はただ、もっと考えるべきだった。【偽造】のスキルで聖女というものを作っていたにすぎない。灯里さんのようになりたかったと。せめて癒しの力だけでもと。僕は聖女でも何でも無かった…前世と同じ、どうしようもない人間だったんです」


「中野さんはどうしようもない人間じゃなかっただろ。俺は彼女の優しさを知ってる。だから、リーゼアリアと仲良くなる事がまた出来たんじゃないか。生まれ変わっても姉妹だったとしても」


「それは…思い込みすぎです。莉瀬ちゃんが、リーゼアリア姉様が優しかったからこそで…」



それを否定するつもりは無い。輪島さんに頼みはしたが動いたのは彼女自身で、リーゼアリアがアリエルアを助けたかったのも彼女自身の優しさからだ。だが…



「優しくない人間に優しく出来るほど俺たちは立派な存在じゃないよ…」



アリエルアは偽物の癒しの力で沢山の人を癒してきた。だが、それで救われた人がどれだけ居ただろうか…それを偽善と言うのは簡単だ。だが、優しさじゃないと言う奴が居るだろうか?


居たら消し炭にしてやるが。目の前の駄女神像みたく。


それにこの子は…中野さんは謝ってきた。俺に告白して嫌な思いをさせたと。もし、俺がもっと単純な男で好きな人が居なければ…なんて思った事だってある。少なくとも俺にとって彼女は大切な存在である。


そしてアリエルアも同じだ。中身が変わったからと、偽りの聖女だったからという理由だけで切り捨てるつもりは無い。仲間としても、魔王としても。



「たとえ優しくなくても偽物でも、お前はアリエルアだ。クソッタレな魔王に誘拐された女の子だ…だから、そのクソッタレな魔王が聖女だと、優しいと言い続ける限りはそれを鵜呑みにしてろ。そしていつか魔王から助け出されて偽物だと知られた時は全部魔王と言われたからそうしていたと言えば良い。まあ、そのクソッタレな魔王はそう簡単には負けるつもり無いけどな」



魔王を倒して彼女を助け、連れ去った。中身が灯里だったからだけじゃない。既に決めていた事だった。なら、アリエルアを助けるナイトが現れるまでは俺が笑顔を独り占めするために行動しないといけない。それだけの話だ。



「いいんですか…灯里さんじゃないのに、傍に居ても…」


「灯里じゃなくても傍に居て欲しいのは俺には大勢居るだろ。それに残念な妹が願った事を叶えないと俺の願いも叶わないみたいだからな」



藤島燈真の願いもアレクの願いもレトラの願いも…全部纏めて叶えようと思う。そのためにはハーレムなんてものを叶えないといけないのは癪だが…まあ、魔王らしくやるか。というか、妹じゃないから安心してる俺が居るのは否めない。

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