猫耳魔王VS風の勇者。但し茶番劇
どうしてこうなった…というか、こんな近代的な都市にもコロシアムあるんだなと。
うちの猫耳魔王がシュウが風の勇者と知り喧嘩を売ったらしい。これだから魔王って奴は…あ、俺も魔王だった。
「とりあえず、殺し合い禁止だからな」
とは言っても、ミケは強い。更に…
シュウ・キタザト(北里秀一)
レベル:1
種族:ホムンクルス
称号:風の勇者
所持スキル:【風魔法】【魔科学者】【賢者】
レベルが1だから勝てるわけないのだ。レベルは数字でしかないし、北里の経験があるとしても…ミケからペンダントは預かっているが、更に呪詛でもかけて能力落とすべきかとも思う。
勇者だから平気などとリーゼアリアは言うが、庇って死んだダメ勇者が何を言う。それにシュウは勇者とはいえ聖剣は最後の戦いで紛失し、手には普通の刃を潰した剣に対し猫耳魔王ミケは素手…ドラゴンの鱗を貫通させる奴に武器は要らないわけがない。手加減しろよと思う。
そうやって心配してる時点で敗北してるんだろうなと思う。シュウが男だったらそこまでは考えてないだろうし。
◇
「我輩が負けたら、ご主人様に口添えしてやるにゃん。でも、勝ったら自力で頑張れにゃん」
皆に聞こえないよう山根…ミケさんが耳元で言ってきた。「魔王だから勇者と戦うのは当然」って言ってたけど、本心は別のところにあるみたいだ。俺だって同級生と戦うのは2度とごめんだし…半分遊びみたいなものだと思って精一杯頑張ろう。
「とりあえず、わたしとファルさんがあなたのセコンドするから。勝負は5分間の3ラウンド。ギブアップありで兄様が止めても終了…というか絶対に止めにくるから一撃入れた方が勝ちって事に向こうのセコンドと取り決めたから」
ミケさんと離れて体を動かしているとイリーナさんがそう言ってきてくれた。確かにそうでもしないと今の俺では勝てない。いくら【ホムンクルス】の最終完成版なんて言っても、俺は北里秀一の記憶を持ちスキルを受け継いだ子孫みたいなものでしかない。自分自身でも先輩の膝の上に乗ったのはやり過ぎと思うし、秀一だった頃は同性が好きとかではなかった。確かに女の子だったら先輩となんて考えた事はあるけど。
まあ、それが叶ったんだと思うし、あの頃に記憶は鮮明でも、都市を作った時の記憶なんて曖昧だ。
「そろそろ始めるか?」
先輩がそう聞いてくる。やるしかないか…負けたとしても諦めろなんて言われないだけマシだし。
◇
開始の合図と共にミケが仕掛けた。
「くらえにゃん、連続ネコパンチ」
そのネーミングはさておき、連続して拳を叩き込もうとする…しかし、それは届かない。
「【風の障壁】、【風の加護】」
風属性に詳しいわけではないが、ミケのパンチのスピードが若干弱まると同時にシュウの動作が良くなり辛うじて避ける事に成功した。というか、ミケが手加減してない。
「やるにゃん、さすが勇者だにゃん」
確かにレベルだけ見ればミケが優勢なんだが、小夏と北里を比較したら北里の方が長く多くの戦いをしたわけだから一筋縄ではいかないか。
単に弱いから連れて行けないとも言えなくなった。何度も繰り返しパンチを放つが避けるか剣で受け止めているのだ。
「さすが魔王って言うだけは…っ…【飛翔の風】っ」
新たな魔法でシュウが高く飛ぶ。それを狙ってミケが飛び上がる…って、ヤバい。
「【流星ネコキック】くらえにゃんっ!」
ドラゴンを貫通させた時ほど威力はなさそうだが、その蹴りはアウトだろ…
俺はミケの蹴りを障壁で受け止めようとした。その瞬間…
「えっ…」
シュウの胸を閃光が貫いた。