彼の地へ
持ってて良かった【聖竜波動】…いや、確実にイリーナのスキルに毒関係の増えてるよな。間違いなく…とりあえず、イリーナも含めて回復を済ませて低空飛行で進む事半日と少し。俺たちは都市まで徒歩約2、3時間の位置で戦艦を降りた。
「歩きは嫌にゃん…キツネ出したいにゃん」
「ホンゴウでそれやって捕まっただろうが…」
あんな未知の戦艦で都市まで乗り付けたら攻撃されるのなんか目に見えてる。それに、帝国やら城塞都市やらの問題もあるしこれで戦争でも起きるきっかけとなったりしたら…面倒くさい。よくよく考えても面倒くさい以外なかった。
「そういえば風の勇者って北里だったんだろ?」
これから向かう魔科学都市所縁とされる風の勇者、北里秀一は中学の時からの後輩でもある。出会った当時は金持ちお坊ちゃんの嫌な奴だった。まあ、ちょっと説教した後しばらくして心入れ替えたのか俺を慕ってくるようになったが…俺はその気は無い。だから奏多が北里に触発されたのか男装し出した時はかなりショックだった。俺はホモじゃない。
「あ、うん。北里くんだったけど、都市の名前はキタザトじゃないよ。本人が嫌がったって話が文献とかにあるし」
「アリエルア…タムラ村はどうなんだよ。いや、マジで」
「さあ…そこまでは」
この世界の名付け基準が分からん…分かりたいとも思わないが。
「魔科学都市の名前はトウシューです、兄様…意味はまあ…」
「言うな、それ以上言うな…」
掛けるんだろ、そうなんだろとは口にしない。
宇津木さんが腐っていたのはちゃんと墓場まで持って行ったんだから言わないでくれ。本屋に行った時にその手の本を見てた君に気付かず声をかけたら、錯乱し用語連発し説明してくれた君の誠実さは忘れた。忘れたったら忘れた。
しかし、やっぱりそうだったのかと…いや、後輩に慕われるのは嫌じゃない。限度はあるが。まあ、北里と竜介以外は灯里を手に入れようと喧嘩吹っ掛けてくる可愛がり甲斐のある後輩ばかりだったけどな…
そういう意味では転生しているかもしれない灯里の男子同級生とは出会いたくもない気がする。記憶さえ戻らなければ良いわけだがファルの時のようにならないとも限らないし。
「…あ、そういえばトウシューはきちんとした身分証明出来るものがないと入れなかった気が…」
イリーナさんよ、ここで今更それを言うな。身分証明なんてどうやってするよ…とも思ったが、ここに普段役に立たない身分の高い残念王女と残念聖女が居たなと。
◇
お兄ちゃんが私たちを頼りにしてくれている。それは素直に嬉しい…けど、帝国に追われて亡命してきた王女と聖女、その付き人をやるにはお兄ちゃんの服装が問題だった。近衛騎士って感じじゃない…いや、かっこいいんだよ。でも、ちょっと無理があると思う。
ミケちゃんとイリーナさんとファルさんにはメイド服があるから良いけど、お兄ちゃんの普通の服探さないといけないよね…メイド服になって女装すればと提案したアリエルアは殴られて叱られた。言わなくて良かった…見てみたかった気もするけど。
それはともかく、王女として演技をするのは疲れるんだよね…灯里としての私が強くなってしまった今としては王女リーゼアリアは作らなきゃなれない。礼儀作法とかはきちんと覚えているけど本来の私はそれすら捨てるつもりだった。お兄ちゃんの役に立てるなら良いけど、本来の私はお兄ちゃんの奴隷だ…あ、首輪外しておかないと怪しまれるところだった。
「お兄ちゃん、首輪外しておかないと…」
「そうだったな」
お兄ちゃんが手早く首輪を外してくれた。お兄ちゃんのものという証が無くなってちょっと寂しい。アリエルアも同じみたいだ。
お兄ちゃんはそんな気も知らずアリエルアの首輪を「もう要らないな」と魔力に戻して消し去り、私のを自分で首に着けた。
「これで俺はあかりんズの奴隷兵士とかって役にしとけばどうにかなるだろ…」
「「奴隷…」」
アリエルアの中の私の意識がリンクする。お兄ちゃんが私たちの奴隷ならあんな事やこんな事を…
「…何を考えてるかはさて置き、この程度の呪いは俺には効かないからな」
はっ…お兄ちゃんが冷めた目で私たちを見ていた。でも、そろそろお兄ちゃんも覚悟決めて手を出したら良いのに…
やっぱりかなちゃんとリーシャちゃんが必要なんだろうなぁ…
◇
トウシューの入り口である正門に着いて兵士たちに亡命を訴え信用してもらったまでは良かった。が、念のため鑑定して身分を確認すると言われたのだ…称号で。
リーゼアリアとアリエルアは何とか通れた。残念なのは見過ごされて。イリーナは見抜かれたわけだが適当に嘘をついてファルと一緒に入れた…ここまではいい。
「また牢屋にゃん…」
「俺は初めてだよ…」
俺たちだけは連行されて牢屋にぶち込まれた。称号が猫耳魔王に幻の勇者じゃこうなるよな。まあ、高精度の【ステータスモノクル】だったらしく爆発しなかっただけでも幸いか。
幻の勇者を偽る云々言われてちょっと傷ついた。自称した事は無いというのに…まあ、イリーナが話をつけて助けに行くというので大人しく待っている事にしよう。後、首輪外しとこ…
「ご主人様、それ欲しいにゃん」
「あー…ミケ、意味分かってるか?」
「猫耳魔王を従える幻の勇者と分かればご主人様に逆らう者は居ないにゃん。それに昨日のご褒美欲しいにゃん」
この首輪をご褒美って…まあ、リーゼアリアには効果無いし、最近危険だと思うのは足元から徐々に上へと頭の位置を変えて来てるこいつなんだよな。
かといって、これを着けたところで何が変わるのか。添い寝と称して皆と一緒に寝てる時点で…小夏が寝ぼけて俺の横で寝ていた時とは状況すら違うわけだし。
まあ、【七大罪処刑】を取り上げられている時点で俺の貞操を守るには実力かこれしかないわけだし…というか、せめて男女別に牢屋入れろと。そういうわけで【隷属の首輪】をミケに着けた…ら、砕け散った。【猫魔王研鑽】の所為か。押さえ込んどけよ…とりあえず、リーゼアリアには兵士に壊されたと言っておこう。後で何を要求されるかたまったものじゃないが。




