定期航路にありがちなもの
3日が過ぎ、定期航路の【魔空船】がこの人里に立ち寄る日が来た。どうせ何もない人里なので名前は出さない。覚えるつもりも無い…どうして名字を村の名前にするんだとかツッコミは繰り返したくない。
「タムラ村とはこれでお別れだね、お兄ちゃん」
「タムラ村なのに田んぼ無かったね…」
この残念妹はこの残念ネーミングを言わまいとしていたというのに…それにお前らの同級生に田村なんて名字の人居なかっただろうと。志村なら居た気がするが…
「そんな事より、【まくーせん】が着陸するの見に行きたいにゃん」
村の外れに簡易空港があって、既にチケットは購入済みだ。着陸してから荷物の搬入搬出とか整備で出発までには半日以上あるがこの中で【魔空船】に乗った事あるのはイリーナだけなので珍しいという事もあるのだろう。口では言わないがミケ以外もその姿を見てみたいと目で語っていた。
「まあ、【転移】で移動すればすぐだからな。パッと行って見て戻るか」
◇
というわけで、パッと来たにゃん。さすがご主人様にゃん。話分かるにゃん。
空を見上げると大きなクジラみたいなのが飛んで来たにゃん。小夏の知ってる飛行船にヒレが付いたような感じにゃん…何となく美味しそうな気がするにゃん。だから、ドラゴンが狙うのも分かるにゃん。
「…ドラゴンって、マジかよ」
そうだったにゃん、ご主人様はドラゴンに殺されたんだったにゃん。つまり我輩たちにとってドラゴンは敵にゃん。一瞬でも従えたいなんて考えた我輩は愚か者にゃん。だから、ドラゴン倒してドラゴンステーキにするにゃん。
◇
【魔空船】の後ろから巨大なドラゴンがやってきた。どうやら、【魔空船】を追ってきたのだろう、炎のブレスを吐き攻撃を加えているから。そんなの引き連れて人里にくるなと。しかも、着陸しようとしてるし…バカしか居ないのかこの世界?
「ご主人様、ちょっと殺ってくるにゃん」
俺らの一番バカがそう言って飛んで行った。いや、マジでジャンプして…
「覚悟するにゃん、【流星ネコキックぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!!!!】」
いやぁ…マジですかと。高度数百メートルまで飛んでいって、蹴りだけでドラゴンの鱗貫通して一撃で仕留めたよ、あのネコ…伊達に魔王名乗ってないわ。
でも、ドラゴンの血でドロドロなんだわ、ウチの魔王様。風呂行きだな…
◇
とりあえず、ミケは宿屋へ送り返した。アリエルアが洗うし治療すると言っていたが無傷だったよ、あいつは…
ドラゴンステーキが食べたいと言っていたが、さすがに哀れだから俺がドラゴンを治療した。ドラゴンだって無闇に人を襲ったりはしない。召喚させられてパニックになったとか害を与えられない限り…というわけで話を聞く事にした。といっても、言葉が通じるわけでもないからドラゴンは俺の威圧で動けなくしてリーゼアリアたちに【魔空船】の乗組員たちに話を聞いてきてもらうわけだ。
で、3人が話を聞いた結果…
「ドラゴンの卵を盗んだ冒険者たちねぇ…」
この村を経由して風の渓谷という場所を都市と結ぶこの定期航路の【魔空船】の中に卵泥棒が乗っていて、それを追いかけてきたのがこのドラゴン…普通に必死な母親だったわけだ。ミケのやった事を否定はしないが、悪いのそいつらじゃないか。既に卵は乗組員や善良な冒険者が取り上げてリーゼアリアが受け取り目の前にある。
返せば終わりなんだが、功労者の判断無しにどうこうして良いものかと悩む。冒険者の一部はドラゴン倒して素材を手に入れようと俺たちを遠巻きに見てるわけだし、返した途端に襲ったりする心配があるわけだ。無論、人間側が…
「ドラゴンの卵かけごはん…」
後、早くしないと残念王女が手に持った卵を割りそうで怖い…よだれ流れてるぞ、おい。
「【魔空船】もこのドラゴンの影響で大規模な修理が必要ですし…兄様、ミケさんにこのドラゴンを飼い慣らしてもらって風の渓谷経由で魔科学都市へ向かうというのは…」
「それだと遠回りじゃないですか?」
「いえ、確か別ルートがあったはず…」
イリーナとファルがそう話すが、定期航路なんて知らない俺は好きにしてくれと思うわけだ。口に出さないのは卵かけごはんを作りそうなのが居るからだ。
ドラゴンの背に乗るのは構わないのだが…【時戻】で直せるんだよな、これが。助けたのと直した恩を売ったらチケット返金してくれるんではないかと打算的な事を考えていたりもする。
結局、さっぱりして戻ってきたミケにドラゴンステーキを諦めさせて使役させた後、卵を返してドラゴンを送り出した。狙ってた冒険者たち?
眠ってるよ、俺の足元でな。そうしたのはミケとリーゼアリアなわけだけど。昼はステーキと卵かけごはんにするか…




