仲間として、人として
◇
アレクの告白を聞いてあたしたちは思い悩んでいた。
アレクがセイントドラゴンの弟子?
セイントドラゴンを殺したのは貴族?
アレクの母親が魔族?
アレクもこの村の人たちも魔族とのハーフ?
正直、頭が追いつかなかった。更に、トドメにアレクが望んでるのは魔王との停戦と聞いて目眩がした。
アレクは言いたい事だけ言って部屋に戻っていった。あたしたちだから話したんだと言い残して。
アレクは強い。あたしたちは何度も助けてもらった…だからこそ、今回は恩返ししようと着いてきた。なんて建前は言わない。あたしはアレクに誰もが認める勇者になって欲しかった。
アレクはリーシャっていう貴族のお嬢様が好きだ。それは仕方ない。聞いただけでも相思相愛だって誰でも思ってる。お姫様の求婚を断った事だって巷では噂になってる。でも、あたしだって…
だから、アレクには勇者になってもらいたかった。2番でもそれより下でもいいからアレクと一緒にずっと居られるように。それはユーカも同じだった。ユートはアレクみたいに強くなって認めてもらいたかった。それぞれの身勝手な理由であたしたちは着いてきた。
でも、このままじゃダメだと思った。そもそも今回の魔王討伐の理由は神の加護が無くなって僧侶たちが回復魔法を使えなくなった事が原因だ。神の名前はセイントドラゴン…アレクの師匠で貴族が殺した。でも、巷ではアレクがドラゴンを討伐したって事になってる。
アレクが殺したのがセイントドラゴン…そう噂になれば彼は自らそう言うだろう。リーシャって子を守るために。今回魔王を倒したところでアレクは勇者になれないと思う。むしろ、魔王と話し合った結果、停戦になったとしてアレクが無事でいられるだろうか。あたしたちの後ろには100を超える猛者が居るのだ…納得して終わりに出来るはずがない。
「アレクがセイントドラゴンの弟子って言うんなら、回復魔法の加護とか出来るんじゃないのか?」
ユートが珍しく良い事を言った。別にアレクが勇者である必要なんてないんだ。アレクを連れ帰ってセイントドラゴンの代わりとすればあたしたちだって傍に居られる機会があるかもしれない。それにそうなったアレクが頼めばこの村の人たちや魔法が使えるってだけで処刑される人たちを助ける事だって出来る。そして何より、アレクがこれ以上誰かを傷付ける必要だって…
だから、あたしたちは村から少し離れた場所に野営をしていた将軍のところまで頼みに行った。アレクがこれ以上苦しまないために、生きて帰るために。
◇
その日はとても寒い夜だった。将軍たちを連れ戻った時、それは起きた。番をしていた村の人が暖を取るために魔法で枯れ木を燃やした。それが悲劇の始まりだった。
あたしたちの制止を聞かず、虐殺が始まってしまった。時間は深夜…寝静まった村人たちの家へ次々と兵士が押し入った。あたしたちはそれを見て震えるしか出来なかった。
あたしたちの村も魔族にこんな風にして襲われユートたちの両親を始めとした沢山の人が殺された。
それを知ってか知らずか兵士たちは言っていた。「こいつらは人間じゃない」「殺されたくなければ戦え」「俺たちは勇者に騙され殺されたかもしれない」…そうなのか、アレクは騙そうとしていたんだ。彼も魔族なんだ…セイントドラゴンを殺し人間を滅ぼす手先なんだと何故か受け入れられた。そして、あたしたちも村人を殺して回った。
そんな中、あいつが現れた。あたしたちを騙そうとしていたアレクが。怒りに震え、兵士を次々と殺して回っていた。だから、矢を放って足止めをしようと考えた。最初に放った弓はアレクの足元に刺さり動きが止まった。
「「「「信じていたのに…」」」」
あたしたちとあいつの言葉が重なる。裏切ろうとしたのはお前だ。あたしの放った矢が次々刺さり、ユートの槍が貫き、ユーカの短剣が切り裂く…でも、アレクの傷はすぐに消えた。
「化け物が…」
そう、アレクは化け物だ……どうしてそう思えたの?
あたしを助けてくれたのは誰?
あたしがやりたかった事は…
あたしが居たかった場所は…
あたしが大好きだった人は…
目の前にその人が現れる。ユートとユーカを葬った剣を持って、あたしをそれで貫くために…
どうしてこうなったの…理由なんて簡単だ。あたしたちはアレクの守りたかったものを壊した。あの時あたしたちはの村を襲った魔族のように…信じていたのに裏切ったのはあたしたち。だから、アレクに殺されるんだ。
アレクの剣があたしを貫く…あたしは、アレクの守りたかったものになりたかった。何番目でもいいから好きだと言ってもらいたかった。でも、それはもう無理だ。きっと嫌われた。許してなんてもらえない。だから、これで良かったんだと思う。
アレクに殺されるのに、あたしは満足している。魂だけの存在になれば、アレクに嫌われず傍に居られるはずだから…
それがあたしの最後の思い。そうして、あたしの人生は終わった。
◇
あたし、姉小路沙耶は幼い頃から日々を弓道に捧げ過ごしていた。だから、弓道は上手だしそれなりに良い成績は残してきた。かといって、別に誰かを見下しているつもりなんてない。そう思ってきた。
高校に入って初めての試合があった。本来なら出場しないはずの1年であるあたしが選手の1人として選ばれた。正直、居心地が悪すぎた…出れなかった先輩たちの視線や見るだけしか出来ないのにわざわざ足を運ばざるを得なかった同級生の皆の中で射つ罪悪感や恐怖は失敗出来ないという気持ちを更に追い詰めるものでしかなかった。
なんとか予選を勝ち抜いて、お昼を食べる事になった。お母さんたちが友達と一緒に食べなさいと渡してくれた大きなお弁当箱 。そんなものを一緒に食べる人なんと居なかった…しのぶも家族との旅行で居ない中であたしは多すぎる量を隠れて1人で食べるはずだった。でも、そうはならなかった。同じクラスの藤島さんと男の人があたしを捜しに来てくれた。それが燈真さんとの出会いだった。
一緒にお弁当を食べた縁で灯里ちゃんたちと学校でも一緒に過ごすようになった。弓道だけしか取り柄のないあたしに友達が出来た。弓道以外に楽しいと思える事が沢山増えた。そして、好きな人が出来た。
意識し出したのは初めて出会った日の最後の一射。優しい目であたしを見ていてくれたのに気付いて、罪悪感や恐怖や緊張以外で初めて射ち損じた。でも、悔いは無かった。「頑張ったな」と優しく慰められてもっと頑張りたいと心から思えた。
時たま一緒に過ごせると胸の高鳴りが抑えられなかった。でも、知っていた…あたしの友達は全員燈真さんの事が好きなんだって。だから、告白なんて出来なかった。壊したくないと思ったから。
そんな折、不思議な夢を見るようになった。あたしが燈真さんによく似た男の人に矢を放つ光景…最初は変な夢だと思うだけだった。でも、繰り返し見るうちに怖くなった。知らない人を射ち殺し、燈真さんに矢を放つ光景がより鮮明に感じられたから。
だから、あまりにも怖くて弓を持てなくなった。持つと手が震えて臭うはずのない血の生臭さを覚えて吐く事すらあった。誰にも言えない悩みになった。ただ手首の調子が悪いからと嘘をつき、弓道部から遠ざかる理由を隠しながら家で必死にリハビリと称して弓を持ち続けた。神経をすり減らしながら。
そんな愚かな行為を燈真さんは見抜いてくれた。また、優しい言葉をかけてくれた。だから、皆に打ち明ける勇気を与えてもらった。
皆に打ち明けて、気持ちが楽になったその矢先だった…燈真さんが居なくなってしまった。永遠に居なくなってしまった…
あの夢はこれを暗示していたのだと思うしかなかった。あたしは言わなかったのだ。夢の内容を…嫌われるのが怖かったから当たり障りのない言葉で誤魔化した。きちんと言えていたら変わっていたかもしれないのに。
あたしがもっと考えて行動していたら燈真さんが死ぬ事なんで無かったばずと思うしかなかった…そう思って責める事しか出来なかった。じゃないとあたしは皆の姐御じゃなくなるから。
燈真さんが居なくなって、夢は見なくなった。でも、弓は持てなかった…だけど、あたしは弓を持ち続けた。乗り越えるなんて理由じゃなかった。神経をすり減らして何も考えたく無かった。何も楽しくなかった…それでもあたしは姐御であり続けたかった。
異世界に来た後もあたしは弓を持ち続けた。皆が心配してくれていたのは知っている。きっと、燈真さんだってこんな姿は望んでないと思う。だけど、あたしは守りたかった。
でも、結局守れなかった。結局は独りよがりな人生だったのだ。しのぶも満ちゃんも助けられなかった。いや、助けるなんてあたしのワガママだった。助けられていたのはいつもあたしだった。
しのぶが先に水底へ沈んでいった…あたしも限界だった。
「…あたしもダメみたい。いいんちょ…ごめん」
最後くらい満ちゃんって呼んであげるべきだったかなと思う。でも、口に出来たのは呼び慣れた方だった…笑顔でさよならしたかったから。
水底に沈む中であたしは泣いた。燈真さん、会いたいよ…もう頑張りたくないよ。「頑張ったな」って褒めてよ…
こうしてあたしは燈真さんのところへ旅立った。




