ハンバーガーと森の人
リーゼアリアが殺してでも奪い取る作戦を始める前に殴って気絶させといた。突然召喚された女の子は驚きのあまり呆然としているし。
とはいえ、異世界召喚するほどの力はリーゼアリアにはないから少なくともここの世界の住人であろうから事情説明すれば納得するだろう。
「あ…イリーナさん」
と、召喚された女の子がイリーナに気付いて安堵の表情を見せた。うん、この先の展開が見えた。姉小路さんの転生した女の子なんだろ、この子。
◇
ファル・エラーシャ。大森林の東部に居を構える長耳族の1人。それがウチの名前だ。
長耳族は狩りや装飾品の作成、調合作業を生業にしていて…ウチは狩り担当班の後方支援という雑用をしていた。【弓使い】のスキルがあるのに、ろくに弓を使えない穀潰し…ウチはそういう扱いだった。言い訳はしない…初めて弓を持った時から手が震えて弓を構える事も出来ないのだから。
今日は戻ってくる狩り班の差し入れを準備し運んでいた。そうしたら、突然光に包まれ気付けば何人かが目の前に居た。何が起こったのか分からなかったけど、その中に見知った人が居た。
昔、視察にやってきたホンゴウの領主代行のイリーナさん…ウチは視察団の人たちを案内するメンバーの中では末端の末端で荷物持ちしかさせてもらえなかったけど、そんなウチに優しい対応をしてくれた。だからこそ、よく分からなかったけど安心する事が出来た。
◇
とりあえず、イリーナが事情説明する横でファルという少女から買い取ったハンバーガーを食べるリーゼアリア…まあ、パシリにされていた上に金は自腹とか言っていたのを考えると定価以上で買ったリーゼアリアの方がまともに見えてくるから不思議だ。
で、イリーナが俺に耳打ちしてきたが、やはり彼女が姉小路さんの転生体のようだ。弓の使えない落ちこぼれ…こちらに来て姉小路さんは歯を食いしばりながら弓を使っていたらしい。前世を克服出来ないまま、ただ友達を守りたいからと無理をした…その反動なのかもしれないとも思うが真相は分からない。
前世の彼女からは想像出来ないほどオドオドとした姿はちょっと見るに堪えない。嫌悪しているとかではなく痛々しく見えるのだ…パシリにさせられて自信さえ持てず虐げられる。俺が保護していた人たちのようで守りたいなんて思ってしまうわけだ。
かといって、その根本的原因を解決するにはディナという前々世を思い出す必要があると考えるわけだ…それでアレクという俺そのものが目の前に居ればどうなるか。まず間違いなく殺した俺をどうにかするだろう。罵倒なら甘んじて受けれるが、それ以上となると無抵抗ではいられない。
このままという手もあるのだ。目の前のファルという少女からの悪意は感じられないし、今ディナとしての記憶を思い出して協力してもらえなかったとしたら迷い続けるままという可能性が高い。少なくとも、森は出るまでは…
「どうしてフィッシュバーガー食べるにゃん、返せにゃん。【時戻】発動にゃんっ!」
そう考えていたのに魚好きのダメネコがリーゼアリアが1つしかなかったフィッシュバーガーを食べたから返せと…こいつに【魔王研鑽】を少しでも教えた俺がバカだった。フィッシュバーガーがどうなったかは説明する必要ないだろ。俺も見たくなかったから後ろ向いてたし。
というより、これからの展開も見たくないんだけど、どうなる事やら…とりあえず、倒れた彼女を介抱するために小屋作るか。後、フィッシュバーガーは焼却してしまおう。




