優しくない過去
竜介の墓(笑)に戻ってきて手早く小屋を建てた。皆はさっさと中に入ってしまったが、俺はそういう気になれず外をブラブラ歩いていた。
竜介がユートねぇ…で、姉小路さんがディナで御字さんって子がユーカ。今日は色々ありすぎたが、これだけは素直に受け入れられない。リーゼアリアとアリエルアには3人の事は伝えてあるし、イリーナも伝えるだろう。友人だからこそ語り合う事は多すぎるはずだし。
ディナとユートユーカの兄妹と出会ったのはアレクの母親を殺すずっと前だ。幼なじみとしてパーティを組んで冒険者をしていた。助けた事がきっかけで親しくなり友人と呼べる相手だった…
一方、竜介たちは大切な後輩だ。あいつらの転生が竜介たち…だからといって特に思うところはない。竜介の悩みは知らないし、御字さんとは面識もない。だが、姉小路さんの悩みを聞いた事があった。
姉小路さんは灯里と同じ弓道部に所属していた名家のお嬢様だ。とはいっても気さくで面倒見の良い子だった。だから姐御なんて呼ばれていた。そんな彼女が弓を射てなくなった。夢で人を射つ光景を見たからと相談された。慰めるしか出来なかったが、どうして俺に話したのかと不思議にも思っていた。
ディナに左肩と背中、右太腿を矢で傷付けられた。既に回復して傷痕は無いが、あの時の痛みは忘れる事は出来ない。3人を殺した時の感触と共に…
そこまでする必要があったのかと思うが、全ては過ぎた事だ。少なくとも俺にとっては。割り切れはしないが、割り切った振りをしないとどうにかなったかもしれなかったわけだし。
とはいえ、竜介たちにすれば前世の事でも俺にとってはちょっと前の話なんだよな。もう少し上手くやっていればと考えてしまう。
『いやぁ…先輩が考えているような事態じゃなかったんだけど』
◇
遡る事、少し前…
「じゃあ、やっぱり私に召喚師のスキルがあるんだねっ!?」
小屋に入ってすぐいいんちょ…ではなくイリーナちゃんに私を鑑定してもらった。お兄ちゃんを召喚したから一時的に使えなくなっているスキルだから【ステータスモノクル】では判別出来なかったと教えてくれた。つまり、回復出来ればかなちゃんとリーシャちゃんが召喚出来る。私、要らない子じゃなかった。
「で、でもいつ回復出来るか分からないし…」
そこが問題なんだよね。お兄ちゃんが言うにはマナが大量に必要なわけだし、お兄ちゃんの時は魔法陣があったから導けたらしい。人の指定なんて出来ないだろうし…アリエルアが言う回復以外にも問題は沢山あるはず。でもね…
「大丈夫。愛は世界を越えるし奇跡だって起こせるはずだよっ!」
「根拠ないにゃん」
ミケちゃん、そこは賛同するところだよっ!
「とりあえず、わたしの【大賢者】の能力を使って魔力を補充してみるから実験してみましょ」
「いいんちょっ!」
「いいんちょ言うな。わたしとしても本郷さんには感謝しているし、リーシャさんにも借りがあるもの。兄様のためなら何だってするわ」
というわけで、皆から魔力を補充してもらって、かなちゃんを召喚っ!
◇
「で、見事に失敗したと…」
『いや、成功してますよ。ただ、俺にはちょっとやらなきゃいけない事があって合流するにはもうちょっとかかるかなって』
現れたのは奏多の幻影。曰く、小屋の中であいつらが無茶して奏多を召喚しようとして魔力切れでぶっ倒れたらしい。何やってるんだか…
「で、合流するには時間かかる理由は?」
『…先輩は気付いてるかもしれないけど、アレクとして生きた世界の人たちが先輩の知り合いとして転生したのは俺の所為です。今、その作業してるのと、後継者の選定を待ってるところです。さすがに先輩たちを見ててこれ以上あんなところに居る意味ないって気付きましたし』
「やっぱり監視してたのか…」
『俺も皆に会いたく…ううん。あたしもお兄のお嫁さんになりたいから』
久しぶりに素になるなよ…動悸がしたわ。
『えへへ…だから、待っててね。お兄好みのおめかしして行くから。あ、それと…』
◇
言いたい事言って奏多の幻影は消えていったので俺は魔力切れで倒れていた4人をベッドに寝かせた。とりあえず、闇魔法でリーゼアリアのスキル封印しておこう。負担が大きそうだし、奏多は自分の力だけでこの世界に帰ってこれるらしいし。神の力はチートだなと…俺もその神扱いらしいけど。
それに、使う必要無かったらしい。
「リーシャもこの世界に召喚されてる…ねぇ…」
奏多がはっきりそう言ったのだ。しかも、俺とは真逆の立場で。何か不穏な空気…まあ、創作物ならやっとかって気もするが、やる気無いから。リーシャなら何とかするだろ。
それよりも、先送りにしていた事があるのでこっちを片付けないといけないわけだし。