お嬢様と地下迷宮
悪事千里を走る…いや、悪い事してないっての。釈放要求すらしてないし。
何が言いたいかと言うと、リーゼアリアたちと合流した俺はイリーナの住む領主の館にやってきた。宿の提供をすると言ってくれたし親に紹介したいというイリーナの言葉があったからだ。まあ、俺の中ではイリーナと一緒に旅をするのは確定してたわけだし、状況によっては攫うつもりだった。
決して、「殺してでも奪い取るだね、お兄ちゃん」などと言う展開は無かったはずだ。リーゼアリアの言うような可能性は考えてすらいなかった。という事でまずは話し合いして父親に理解をしてもらう事から始めるつもりだった。
その結果、地下迷宮に居る。え、言ってる意味が分からないだって…俺も分かってない。イリーナの父親の部屋に入った途端に床が開いて落ちた。どんなからくり屋敷だよと。
それで娘まで巻き込んで落とすとか、この世界の父親はバカしか居ないのかと。
「やっぱり、ここは使用していない区間みたいです」
イリーナがそう呟く。観光都市ホンゴウはテーマパークだ。テーマパークには迷路が付き物かどうかはさて置き、利用しない手はないらしかった。幸い、宝石なんかも採掘し尽くし利用価値が無かったのもあったそうな。
で、地下迷宮を5つのブロックに分けて初心者用、中級者用、上級者用、超級という迷路を作った。が、残り1つはあまりにも危険で封鎖するしかなかったらしい。致死性の高い罠が多すぎ解除は困難だったようだ。
「殺す気満々にゃん」
「ですよねー」
ミケとアリエルアが遠い目をしていた。気持ちは分かる。でも、お前らはわざわざ飛び込んできたんだろうが。
「この地下迷宮で何人か死んでるんだよ…同級生が」
不意にリーゼアリアがそう言ってきた。奏多から話を聞いてはいた。だけど、誰がどんな状況でとまでは聞いていない。奏多の目の前で死んでいったのだから無理に聞くつもりは無かった。ただ、間違いなく奏多は1人で帰ってきたと言っていた。悲しげに…
「墓参りってのになるのか。一応…」
そう考えると落とされたのも悪い気が…しないわけないだろ、バカ野郎。ちょっと本気で殺してでも奪い取る気になってきたわ。4人とも微妙な顔になってるじゃないか。墓参りなんて言った俺が悪いんだけどもさ?
「もし、同じような構造だったら聖剣置いてた場所から脱出出来るはずです」
「スイッチは嫌だにゃん…」
致死性の高い罠だらけの場所を進めと言うのか…奏多に出来たんだから俺たちにもなんて考えは無い。無いが、ちょっと気になっている事が1つある。宝石だ…別に金儲けがしたいわけじゃない。【勇者の秘石】の在り方なここじゃないかと思うわけだが…
「兄様、【勇者の秘石】なんて存在しませんよ。あれはただ魔力入れたら光るだけの大きな宝石です。そんな召喚アイテムがあるなら何度も召喚されていますし、わたしたちが兄様を召喚してますよ」
イリーナさんに俺の考えを話したら全否定されたの巻。宇津木さんが鑑定した【勇者の秘石】はただの宝石だったそうな。1年とか時間が経てば願い叶うみたいなのは無かったらしい。イリーナが文献で調べたらしいが、その宝石は散々解析されたが宝石でしかなかったと。おい奏多、話が違うぞ?
「わたしたちが召喚された時、儀式に居た人の中に【召喚師】が居たんでしょう。その人の影響かもしれません。【召喚師】は非常にレアなスキルですし使用後は一定時間ステータスからは消えてしまいます。そうなれば鑑定では判別出来ません」
思い当たるのが約1名…俺はリーゼアリアを見てみた。
「お兄ちゃん、そんなに見ちゃ嫌だよ…見るなら夜の暗がりの中で。でも、お兄ちゃんが望むなら…」
クネクネしながら脱ごうとするな。イリーナが止めなきゃ殴ってたわ。
「まあ、どのみちここを進む理由は無いって事か」
わざわざ危険だと分かっているし何処で死んだかも分からないのだから、ここで手を合わせておけば十分だろう。というか、奏多が呟いていたの思い出した。「どうして男の子って考えなしに突っ走るんだろうね」と…きっと、ろくな死に方してない気がする。
第一、奏多に何かしてないだろうなと考えると逆にムカムカしてきた。いや、考えすぎだな。という事でさっさと手を合わせ、帰ろうか。
「階段作って上まで戻るのと、【転移】使ってナシビトの森まで移動するのどっちがいい?」
帰るとなればわざわざ出口に向かう必要は無い。入り口に戻るか別の方法で脱出するかだ。地下でなければ壊して脱出という手もあるが埋もれるか地上まで巨大な穴をよじ登るのだから面倒なだげだ。
「【転移】でお願いします。地下迷宮でイリーナは死亡したと思わせれば良いです」
「それだと観光出来ないですよね…」
アリエルア、捕まった時点で観光は無理じゃないかと俺は思うんだが。それにどのみち戻ったところでろくな展開にならないと思う。とりあえず、死体工作というか、複製した衣類を細工しボロボロなものにして放置しておこう。万が一捜索に来られた時に死んだという判断材料になるだろう。
メアの衣類はコピー済みなわけだしイリーナにも使えるだろう。いや、変な趣味を持っていたわけではなくドジメイドがよく転んで水を被るから着替えを手早くさせる為で他意はなかった。
こうして、俺たちは迷宮と観光都市を後にする事となった。
え、主人公らしく地下迷宮探索しろだって…何それおいしいの?




