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4・はなよめさまとおうひさま

 むかーしむかし、とある国の王様は、一人の女の子に恋をしたそうな。しかし相手は息子の婚約者で、それなりの年齢差もあってそっと諦めることにしたそうな。

 しかし少女もまた彼に恋をして、婚約者を捨てて王様の側室に名乗りをあげたそうな。

 つかの間の幸せの後、王様は身ごもって間もない彼女を残し、死んでしまった。

 そして息子が即位するとなった時、それに異を唱えるものがたくさんたくさん現れて、国中が大混乱になったそうな。そこには少女の実家も含まれて、彼女は悲しみにくれたそうな。

 もうすぐ生まれる、という時期に、彼女は失踪してしまって。

 少しして、それらしい少女の死が確認されたそうな。

 生まれたらしい女の子の、行方は知れず。

 国をまとめた若き王様は配下に、妹の行方を探らせたとか。



   ■  □  ■



 ……で、それがどうかしたのかな。

 がったんごっとんゆれる馬車、その中で聞かされたのは魔王様の身の上話。なんだか愛蔵渦巻きそうな話にしては、ずいぶんと待ったりした雰囲気の話だった、ような気がする。

「単刀直入に言えば、その生まれた女の子が、あなたです」

 またまたご冗談をと言いたいところだったけど、相手の目がそれを許さない。あれは本気で言っている目だ。つまり、それ相応の証拠などを元に、私がそうだと断定しているわけだ。

 ならば、きっと本当のことなんだろう。

 わざわざ他国に潜入してまで調べた内容が、ここに至って間違ってました、じゃ笑い話にもなりゃしない。それにこの男がどういうやつなのか、私はそこそこ知っているんだから。

 本当なんだろう。

 私が、あの魔王の妹であることは。

「んーと、だから私はダメだったわけなんだね、納得」

「そういうことです。さすがに妹に手を出すことは、あの方でもできませんから。よってあなたは臣下の元に、嫁がれることになりました。あちこちに広まっている、噂のとおりに」

 ふむ、と考えて気づく。

 まさかその臣下というのは、目の前にいるこの男なのだろうか、と。確かに魔王には年の離れた妹がいて、信頼の置ける部下の下に嫁に出されたって話を聞いたけれども。

 時期、前後してない?

「いいのですよ。あの離れにいた聖女は死んだ。ここにいるのは魔王を兄とする、いえ兄としていた私の妻ですから、問題はありません。心置きなく、我が屋敷に住まわれるといい」

 涼しい顔で、淡々と告げられる言葉。

 そこは、普通こう、もっとムードとかないんだろうか。別にほしくないけど、無いなら無いできになるわけ。まぁ……求める相手を間違えているのだと思う、悲しいことだけど。

 しかし、これからどうしようか。

 先のことなど考えたことがないから、迷ってしまう。

 どうあがいても、私はこの男の妻になってしまうらしいけれど、やっぱり素直にわかりましたと言うのは気に入らない感じだ。だって相手は、私の護衛役だった男なのだから。


 迷っているうちに馬車は進み、そしてとまる。

 どうやらここが、彼の『お屋敷』らしい。

 おかえりなさいませ、と響く声にひるみそうになったけれど、こらえる。この程度でおびえるほど私は、腰抜けなんかじゃないんだ。一応は姫としての教育も受けたし、大丈夫。

 呼吸を整え、前を見て。

 私はその外套を掴んで引き寄せ、言った。

「下僕でいいなら、傍にいてやらないこともないけど」

「……では、そのように」

 恭しく跪いて、私の手をとる元護衛役で、旦那様。じゃなかった、下僕。

 だけど、いつもと違ったかっこいいといえる姿や立ち振る舞いを前にして、私が白旗を振ってちゃんとした奥さんになるのは、きっとそう遠くない気がする。

 ……むしろ、今すぐそうなってもいいかなぁ、なんて。



 ちなみに、例の王女様はそれなりに大事にされているらしい。じゃじゃ馬っぷりが魔王改めお兄様にウケたらしく、昼夜を問わずかわいがってもらっているそうだ、いろんな意味で。

 いつの間にか王女様改め王妃様の侍女達が、若い少女から年配のおばさまになって、王妃様がなかなか部屋から出られなくなって、出てきても老人のようによろよろしていたりとか。

 そんな話を聞いている。


 まぁ、幸せならいいんじゃないだろうか。

 私もぼちぼち、幸せだから。

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