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第3章 ―力が出せない―

次の日も、ミッチに叩き起こされた。


  「行くぞ」


「……どこに」


  「草原」


I am strong. I am quick.

 昨日の感触が、まだ手に残っていた。


言えば、力が出る。

勝てる気しかない。


熱が、胸の奥に残っていた。



街を出る。風が強い。

 草原が、波みたいに揺れていた。


「昨日みたいなの、また出ますか」


  「出る」


「じゃあ、今日も僕の番ですね」


ミッチは振り向きもしない。


  「同じだと思うな」


「……わかってますよ」


草むらの向こうに、人影が見えた。

 同時に、地面が低く揺れる。


  「待て」


ミッチの声。

 でも、体が先に動いていた。


草を掻き分ける。

 女の子だった。


銀色の髪。泥で汚れた白い服。


「大丈夫ですか!」


肩に触れた、その瞬間だった。


草むらが、爆発したみたいに弾けた。

巨大な影。灰色。岩みたいな腕。

 でかい。


枝を並べる。

 怖くはなかった。


【 = 】


「I am strong!」


光が走る。

 昨日と同じ感覚。力が湧く。


魔物が突っ込んできた。


「I am quick!」


避ける。

 軽い。


いける。


「遅い!」


拳を突き出す。

 でも。手応えがない。


光が、岩の肌に弾かれた。


「……え?」


止まらない。

 巨大な拳が、目の前まで迫った。


次の瞬間。

 視界が、激しく回った。


地面。痛み。息が詰まる。


「――ぐっ……!」


土の味がした。


「ミッチさん!」


  「言っただろ」


声が冷たい。


  「同じだと思うな」


「じゃあどうすれば――!」


  「知らん」


「は!?」


立ち上がる。

 もう一度。


「I am strong!」


光る。

 でも、止まらない。


枝を振る。

 硬い。力が出せない。


  「あっちから回れ!」


ミッチの声。

 反射で走る。回り込む。


その先。

 もう一匹いた。


「えっ」


背後で、ミッチが小さく舌打ちした。

 挟まれた。


  「……違う」


声がした。足元から。

 銀髪の少女が、うっすら目を開けていた。


水色の瞳。静かな目だった。


  「形」


「……え?」


少女が、僕の枝を指差す。


  「一本」


=じゃない。

 慌てて、枝を重ねる。

 一本にする。


「I am ……fight!」


光らない。

 魔物の拳が、高く振り上がった。


  「違う」

  「動いて」


少女の声が、少しだけ強くなる。


頭が真っ白になる。 

 枝を握り直し、前へ踏み出した。


「I fight!」


光が走った。

 今までと違う。


細い。鋭い。一直線の光。

 巨体が、草原の向こうまで吹き飛んだ。


風の音だけが、耳を抜けていく。

 静かだった。



「……ミッチさん」


  「なんだ」


「僕、ちょっと調子にのってました」


  「知ってる」


「全然ダメでした」


  「そうだな」


少しだけ、笑いそうになる。


「あと」


  「……なんだ」


「さっき、二匹目いましたよね」


ミッチが、ふいと視線を逸らす。


  「……読み違えた」


小さい声。

 完璧じゃないんだ。

 この人も。



  「回復してやれ」


ミッチが、顎で少女を示す。


  「昨日のやつでいい」


枝を並べる。

【 = 】


「I am fine!」


光る。


「あれ?」


僕の擦り傷が、消えていく。


  「誰が回復した」


「……僕です」


  「誰を回復したかった」


「……あ」


少女。

 慌てて、枝を向けた。


「You am fine!」


光らない。

 ミッチが、深いため息をついた。


少女が、小さく口を開く。


  「……are」


「え?」


  「You, are」


言い直す。


「You are fine.」


枝が光る。

 やわらかい光だった。


朝日みたいな、温かい光。

 少女の傷が、少しずつ消えていく。


  「……あたたかい」


小さな声。

 僕は、自分の枝と、彼女を見た。



  「名前は」


ミッチが聞く。

 少女は、少し黙った。

 それから、空を見上げた。


  「……アリア」


名前とともに、風が吹く。

 銀色の髪が、静かに揺れた。


  「アリア・インフィニティ。」

  「それしか、覚えてない」


ミッチは何も言わなかった。

 アリアが、僕の枝を見る。


  「さっきの」


「え?」


  「もう一回」


一本の枝を握る。

 まだ、少し震えていた。


「I fight.」


光が走る。

 アリアの目が、少しだけ細くなった。


  「……正しい」


空を見上げる。

 どこまでも、青かった。


こうして、三人になった。


この世界で今日。

 僕は、力を出せた。


でも。

 強いだけじゃ、届かない場所があった。

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