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Season 3 プロローグ ―消えた剣―

夜が明けようとしていた。


東の空が、白い。

冷たい風が吹き抜ける。


誰も喋らなかった。


ミッチも。

アリアも。

ツクヨ・ミも。

ザ・ハクも。


砕けた剣だけがそこにあった。


地面に散らばる金属片。

欠けた刀身。

折れた柄。


さっきまで形を持っていたもの。

今はもう、ただの残骸だった。


僕は黙って、それを見る。

不思議だった。


悔しくない。

悲しくもない。


むしろ。

少しだけ肩の力が抜けていた。


あの剣は重かった。

最初に見た時から。


あの日。

草原で。


強くなりたかった僕。

変わりたかった僕。


強さに手を伸ばした。

 でも持ち上がらなかった。


重すぎた。


そして。

 僕はミッチを傷つけた。


静かに目を閉じる。


あれから。

本当にたくさんのことがあった。


言葉が通じなかった。


負けた。

逃げた。


僕は傷ついた。

人を傷つけた。


泣いた。

立ち上がった。


また失敗した。

そして、立ち上がった。


その全て。

 昨日のことみたいに浮かんでくる。


その時だった。

 掌の中が、温かくなる。


小さな光。

 砕けた柄に残っていた宝玉。


淡く。

静かに。


呼吸するみたいに光り出す。


そして。

 声が聞こえた。


男でもない。

女でもない。


遠くでもない。

近くでもない。


自分の心の奥から。

心の奥が語りかけてくるような声。


  『あなたは、何を経験した』


最初にたどりついた草原。

初めて戦った森。

アリアと出会った草原。

仲間から逃げた野球グラウンド。


景色が次々に浮かぶ。


  『あなたは、何を乗り越えた』


言えない自分。

立てない自分。

仲間を信じられない自分。


元谷先生の背中。

おばあちゃんの笑顔。

亜里沙の言葉。

ミッチの拳。

アリアの瞳。


消えない。

どれも消えない。


  『あなたは、何から逃げなかった』


胸の奥が少しだけ痛む。

僕は逃げてばかりだった。


現実から。

野球から。

失敗から。

自分自身から。


でも。


野球を続けた。

仲間を見捨てなかった。

アリアを忘れなかった。


向き合った。


怖かった。


小さく息を吐く。

 そして答えた。


「……諦めなかった」


宝玉が強く光った。


初めて。

少しだけ優しく見えた。


  『そう』


光が脈打つ。


  『あなたが、経験したこと』

  『あなたが、苦しんだこと』

  『あなたが、失敗したこと』

  『あなたが、逃げたこと』

  『それでも前へ進み続けたこと』


  『その全てが、あなた』


宝玉は最後の問いを落とした。


  『なら』

  『あなたは、誰』


答えようとして。

 ふと、ひとつの景色が浮かんだ。


幼い頃。

家族で行った旅行。

大きな湖、五大湖の一つ。


ほとんど覚えていない。


でも。

 湖だけは覚えていた。


どこまでも広くて。

どこまでも青かった。


最近になって見つけた古い写真。

母が教えてくれた。


  「あそこ、Traverse Cityっていう場所だったのよ」

  「昔、みんなこの湖を渡ったの」


その時は何も思わなかった。

でも、後で調べた。


Traverse


渡る。


長く険しい道のり。

遥か遠く、そこを目指して。


その言葉を見た時。

少しだけ笑った。


自分の名前みたいだと思った。


渡来。

 渡って来る。


現実。

 異世界。


弱かった自分。

 今の自分。


支えられる側。

 支える側。


僕はずっと。

渡り続けてきた。


胸の奥で。

ひとつの言葉が静かに形になる。


僕は静かに口を開いた。


「――Traverse」


長い旅路の果て。


ようやく僕は。

自分の名前へ辿り着いた。



夜明けの光が世界を包む。


砕けた剣の破片が宙に浮かび上がる。

宝玉が脈打って、動き出す。


二本の枝に、白銀の輝きが宿った。


そして――

形を変えていく。


一本の枝。

 深く沈むような銀。


これまでの「過去」と「経験」を束ねた刃。


もう一本の枝。

 鋭く閃くような白。


これからの「意志」と「継続」を宿した刃。


落ちていた木の枝。

ミッチが拾った、ただの木切れ。


握り続けた木の枝。

泥と汗を吸い込み、積み重ねてきた僕の歴史。


光の中。

一対の双剣へと成長した。


そして。


二つの柄が噛み合う。

一本の巨大な大剣へと重なった。


「過去」が「現在」と繋がった。

一つの意味を成す。


積み上げたすべて。

今、この瞬間の力に変わる。


この剣の名は。

――Traverse

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