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Season 2 プロローグ つながる言葉

6月。


グラウンドの土。

 少し柔らかい。


  「ナイスボール!」


声が飛ぶ。


白球がミットに吸い込まれる。

 重く乾いた音が響いた。


  「もう一本!」


元谷先生の声。


僕は細く息を吐いた。


ロジンバッグを軽く叩く。

白い粉を指に馴染ませる。


セットポジション。

足を上げる。

腕を振る.


乾いた、いい音だった。


  「よし!」


キャッチャーからの力強い返球。


僕はそれを受け取る。

 少しだけ空を見上げた。


去年とは、違う。


あの日。


逃げ出した七回裏。

試合から逃げた僕。


あの頃の僕なら、

マウンドで足が震えていた。


今は違う。

もちろん、まだ怖い。


打たれるかもしれない。

また失敗するかもしれない。


それでも——


『逃げたい』


もう思わなくなっていた。


  「翔登」


元谷先生がネット裏から歩いてくる。


  「球、強くなったな」


「……ありがとうございます」


  「まだ力んでる。もっと抜け」


それだけ言う。

先生はまた別の部員の方へ向かった。


僕は少しだけ笑った。


元谷先生は変わらない。

 褒めるのが下手だ。


でも、わかる。

ちゃんと見てくれている。


そのことが、

今の僕の足場になっていた。



午後。

英語の授業。


黒板に、チョークの音が走る。


to play

to study

to win


  「はい、今日は不定詞と動名詞ね」


山田先生が振り返る。


  「to+動詞の原形。これは"これから"のイメージだ」

  「未来」

  「目的」

  「〜するために」


未来。

目的。


僕は、黒板の文字を見つめた。


to win——勝つために。

to study——学ぶために。


  「例えば」


先生が続ける。


  「Why do you study English?」


教室が静かになる.


  「Becauseでも答えられる。」

  「でも、to不定詞を使えば"目的"を一発で表せる」


先生は黒板に書いた。


I study English to communicate with people.

(人と話すために、英語を勉強する)


  「つまり、"何のためにそれをするのか"だな」


僕のシャーペンが止まった。


目的。

 僕の目的って、何だろう。


野球。

勉強

受験。


少し前の僕。

 その全部から逃げ出したかった。


今は違う。


野球も、ちゃんと頑張りたい。

受験も、投げ出したくない。


このまま努力する。

 野球も続けられる。

 受験も、きっと大丈夫だ。


もう、

逃げる理由なんてない。


……なのに。


その瞬間。


頭の奥。

 銀色の髪が浮かんだ。


アリア。


僕の手が止まる。


あの世界。

ミッチ。

二本の枝。


アリアは歩き始めた。

自分の足で、未来を選んだ。


たった一人で。


胸の奥。

 ぎゅっと締め付けられる。


  「渡来?」


山田先生の声。


「え?」


  「どうした、止まってるぞ」


「あ……すみません」


教室に小さな笑いが起こる。

 前みたいに顔が熱くなることはなかった。


僕はもう一度、黒板を見た。


to + 動詞。


目的。

何のために。


その瞬間つながる。

バラバラな思考が、一本の線になった。


僕は——

 あの世界へ行きたい。


目的。

 逃げるため、じゃない。


目的。

 アリアを助けるために。


自分の意志で。

彼女の隣に立つために。


to help Aria.

 心臓が、強く脈打った。



窓の外。


熱を持った風。

青いグラウンドを吹き抜けていく。


ノートの隅に書いたその言葉。

静かに見つめた。


そして——

机の下で、そっと拳を握る。


もう一度、行こう。

 なぜって?


To help Aria.

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