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職場の先輩は素敵な人でした。  作者: まるねこ


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7

 翌日、浮足立つ気持ちを抑えつつ、就業時間までにしっかりと仕事を終わらせ、会社を出て駅前で勇気さんを待った。


 彼も仕事が終わったようだ。


「彩さん、お待たせ。どこへ行こうか」

「隣駅に新しくお店が出来たらしいんでそこはどうですか?」

「ああ、俺はそこでいいよ」


 二人で電車に乗り込み、目的のお店へと到着した。


 久しぶりに勇気さんと一緒に話をしながら食事を楽しむ。諦めようとしていた心がまたひょっこりと顔を出してくる。


 嬉しい、もっと話したい、もっと彼に近づきたい。


 でも拒否されたらどうしよう。


 そんな考えが心の中を行き来する。


「彩さん、この後どうする? この前美沙に邪魔されたからな」

「勇気さん、あの、美沙さんって仲がいいんですか?」


「いや? どちらかと言えばあいつが俺に執着している感じだよ。昔からああやって俺が誰かと話していると決まって割り込んでくる」

「え、でも。この前は一緒に帰ったんじゃ?」


「ああ、あれか。あの時は彼女の家に行って彼女の家族に『俺には彼女がいるから迷惑だ。もう関わらないでくれ』って話をしてきたんだ」

「……えっ?」


 私は勇気さんのその言葉にドキリとした。


 トクトクと鼓動が速くなる。


 勇気さんは真剣な表情で私を見つめている。


「彩さん、俺は彩さんのことが好きだし大切にしたいと思っている。君と一緒に過ごす時間を誰にも邪魔されたくない」


 ―ドクンッ。


 大きく鼓動が跳ねた。


 勇気さんの言葉が私の心をふわりと包んでいく。


「彩さん……? 迷惑だったかな?」

「いえっ!! 全然! わ、私……ずっと」


 自分の気持ちを伝えるのなら今しかない。


 高ぶる気持ちが言葉を詰まらせる。


 ちゃんと伝えないと。


「勇気さんのことが好きです。こ、告白よりも先に体の関係になっちゃって、勇気さんはなんでもないのかなって思って……」


 感情が高ぶりすぎて涙が溢れてくる。私の言葉を聞いた勇気さんの顔は優しい。


「それは問題ないよ。彩さんのことは身体の関係よりも前から好きだったから」


 これって、つまり、両想いってことだよね。


 ……嬉しい。


 少しずつ勇気さんの言葉を噛みしめていく。


「食事も終わったし、行こうか」

「はい」


 会社を出た時は違って、勇気さんの手が私の手を包んでいる。温もりを意識しながら私たちは最寄り駅で降りて歩き始めた。


「少し歩こうか」

「……そうですね」


 ふわふわと柔らかな気持ちのまま、また川沿いの土手を歩き始めた。


 前回は邪魔が入ったけど、今回は大丈夫。


 彼の気持ちを聞いた私は今、無敵じゃないかな。


 そう思っていると――彼女が私たちの前に現れた。


 彼女はずっと勇気さんが来るのを待っていたの?


 考えるだけでちょっと怖い。


 私の気持ちを察したのか彼は私の手をキュッと握った。


「ちょっと勇気。なんで? 彼女はただの会社の後輩なんでしょ?」


 美沙は私を睨みつけ、勇気さんの手を取ろうとしている。


「美沙、お前は何を考えているんだ? お前はずっと俺を追いかけてくるけど、俺はお前に興味はないって言っているはずだ。お前と付き合ったこともないし、これからもない。いい加減にしてくれ」


「だって。勇気は私のことが好きなんでしょう? 彼女の前だから照れて言えないだけよ」

「……はぁ。お前には俺がどう見えているんだ? 話にならない」


 彼女は勇気さんが自分を好きだということを信じて疑っていない様子だ。


 勇気さんは呆れたように息を吐いた後、スマホを取り出し、どこかへメールを送っている。


 どうなるんだろう。


 美沙って人はこの間、会ったときにかなり強引な人だって思ったけど、今の彼女の行動や言葉には恐怖しかない。


「勇気さんっ!」


「ああ、健君。突然呼び出してすまない」

「いえ、僕の方こそ姉を抑えられず、すみませんでした」


 健君と呼ばれた男の人は私と同じくらいの年のように見える。


「もう勇気さんに迷惑をかけるのはよすんだ」

「健、何よ! 邪魔しないで」


「勇気さんの彼女さん、姉が邪魔をしてすみません。昔っから姉貴は気に入った物や人に執着を始めると抑制が効かなくなるんです。勇気さんは俺からみてもいい男です。彼女さんは見る目がありますね。ようやく勇気さんが幸せになろうとしているんで俺、応援しているんです。二人ともお幸せに。ほらっ、姉貴。帰るぞ」


「嫌よ! 嫌っ! 勇気! 助けてっ」

「はいはい。姉貴うるさいよ。黙って。また警察呼ばれるよ?」

「私は何にも悪いことなんてしてないんだから!!!」


 彼女は大声で喚いているけれど、健君は構うことなく美沙の腕を引っ張りながら歩いて去っていく。


 ただ、ただ私はその様子を見守るしかなかった。


「なんだか、凄かったですね」

「ああ、もう大丈夫だと思う」

「美沙さんっていつもああなんですか?」

「いつも、だな。年々酷くなっている気もするが。彼女の家族も手を焼いているらしい」


 勇気さんがそう言った時、彼は私をぎゅっと抱きしめた。


「俺は君と会ったあの頃からも、これからもずっと彩さんのことしか見てないから」

「……勇気さん」


 私は彼の言葉にそっと抱きしめ返した。


【完】


最後までお読みいただきありがとうございました☆

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