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カトリック朝石教会 3

 カトリック朝石教会の門のまえに警察車両を停め、(まこと)八十島(やそしま)は車内から敷地内をうかがった。

 庭にも建物の窓にも人が動いている気配はない。


「だれもいないか?」


 八十島がつぶやく。

 さきほどの神父のような格好をした人物と、信者らしき中年男性が車を停めていた場所にもいまは何もない。

 あらためてせまい庭を見やると、芝生を踏みつけ庭木をむりやりかき分けるようにして車を停めていたんだなと思う。

 ここの教会の関係者なら、そんな停めかたをするだろうか。


「庭に車停めて、門の反対側から出たんだよな。――あっちから出ると何ある?」


 誠は尋ねた。

 八十島が首をのばして庭木の向こう側を見る。

「何だろ。あっちにも生活道路か何かあるんだと思うけど」

「どこかの物置き? 平屋の一軒家かな。窓見える」

 誠は食べ終わった弁当のプラスチック容器と割り箸をいそいでゴミ用のポリ袋にまとめた。

 ポケットからスマホを取りだす。

 このあたりのマップを表示させた。


「……ああ、一軒家だ」

「そっちのわき出てったんか。その一軒家の敷地内と違うか? 通ったの」


 八十島がつぶやく。

 そこの家の住人に苦情は言われなかったのか、それとも。

「あの信者の人が建物の持ち主ならなにも言わないだろうけど……」

「ああ、そういうことか」

 八十島が応じる。

 

「つまりおかしいポイント何だ? ――あの厳つい男の信者がたとえばとなりの一軒家の人だとして、バザーに出すもの持ってきた、バザーに出すものの一つは黒い茶碗。シスターは人見(ひとみ)の彼女たちが来てたときは気づかなかったか修道院に帰っちまってた……」


「神父さんの格好をしている人はいるけど、ほんものの神父さんは別の人で不在、聖マリア女学園の生徒はなんどもバザーの手伝いしていて、きょうも訪ねるまえに連絡してたって言ってる」

 

 八十島が(あご)に手をあてる。

「決定的な何かってんじゃないけど、何か違和感あんな」

「それ。違和感」

 誠は答えた。



「とりこし苦労ならいいけどさ、たとえば立てこもりってこんな感じのときあるよな」



 八十島が言う。

 誠は目を合わせてうなずいた。

「修道院が近くだって言ってたよな。そっち行ってみねえ?」

 八十島が提案する。

「さっきのシスターいるかもしんねえし」

「だな」

 誠は上着のポケットからスマホをとりだした。

 修道院の場所を検索する。

 ここから徒歩で五分ほどだろうか。

「行ってみるか」


 スマホのバイブレーションが鳴る。


 メールか。

 誠は上着のポケットからスマホをとりだした。

 花織(かおり)だ。

 まだ授業中のはずだ。何をやっているんだと思いつつメールを開く。



 『ほんものの司祭さん、います。動画の冒頭で礼拝堂の窓ぎわを横切ってます』



 いたのか。

 誠はメールを閉じ、さきほど撮影した動画をあらためて見た。

「なに」

 八十島がこちらを見る。

「いや、ほんものの神父さんが冒頭で礼拝堂の窓ぎわにいるって……」

 動画の冒頭を表示させる。

 たしかに窓ぎわにスッと動く影がある。


 だが、着ている服は紺色ではないのか。


「神父さんの服って黒でねえの?」

 八十島がスマホの動画をのぞきこむ。

「たぶん黒だと思うけど……」

 誠は顔をしかめた。

「光のかげんかな?」

「黒にはちょっと見えね」

 八十島が言う。

 花織にたしかめたいが、授業中だろう。むりにこちらに協力させるわけにもいかない。


「でもほんものの神父さんがいたってことは……」


 誠は周囲を見回した。

「つかこれが神父さんて、なに情報?」

 八十島が問う。

「えと」

 誠は言葉につまった。

 八十島がふたたびスマホをのぞきこむ。

「もしかしてさっきの彼女情報? 彼女に動画送ったとか?」

「ああ……まあ」

 けっこう察しいいなと思いつつ肯定する。


「送るまえに言えばよくね?」

「いや……未成年の子だし事件と直接は関わりないし、万が一問題になった場合に悪いと思って。――俺の独断ってことで」


「責任持てない場合はそう言うし。んでもきょう一日はバディじゃん」

 八十島が眉をよせる。

「ああ、まあ」

 誠は宙を見上げた。

 言われてみればそうか。

 八十島がサイドウィンドウのほうを向き(ひたい)をつける。



「あ゙ー “バディじゃん” とか何か恥ずかし。言わせんな」

「……なら言わなきゃいいのに」



 誠は苦笑した。

「つぎ彼女に情報提供してもらうときはちゃんと相談しろ」

「分かったけど、そういう間柄の子じゃないから、ほんと」

 誠はそう答えた。


 八十島のスマホの着信音が鳴る。


 スーツのポケットをさぐりスマホを取りだすと、通話に応じた。

「──はい、八十島っす、ごくろうさまです。人見(ひとみ)もいっしょです」

 刑事課からか。

 あのニセ神父と信者の素性が分かったのか。

 誠は八十島の話す様子を横目に見ながら教会の建物のほうをながめた。



「え? 別件っすか? ──強殺?」



 八十島がそう聴き返す。

 

 礼拝堂の窓ぎわで、何かがはげしく動いた気がした。

 ガシャーン、とガラス窓の割れる音がする。

 誠と八十島はそろってそちらを見た。





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