美しい世界-目覚め-
世界はこんなに儚くも美しい──。
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始めに目に見えてきた景色は硝子で包まれた揺りかごのような──。
(……いや、揺りかご?)
鈍い頭をもたげながらも思考するがどうも要領を得ない。
『ここは……?』
視界に捉えられていた硝子のような薄い膜は自分の覚醒に合わせてだろうか、役目を終えたかのように消えていく。
『どこだ……ここは?』
そして身体を起こした自分は改めて周囲を見回すのだった。
(『何もない?』)
そう、心の中で現状を把握していると──。
(「シエル様……」)
(「シエ……」)
何処かから声が聞こえて来るのだった。
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(『……?』)
改めて、周囲を見回すが声の主は確認出来ない。
『いや、けれどもこの声は──どこかで、特に最近聞いたような気が……』
直近の記憶を呼び起こしていると不自然な事にも気付き始める。
そう言えば、あの電光掲示板の案内を見た時に自然と脳内に声で再生されていたような……。
まるで、小説や本を読んでいる時に心の声として感じる時と似ている感じ──でも、そうなるとおかしな点も浮上する。
この声はいったいどこから聞こえて来ているのだろうかと。
(「シエル……さま?」)
先程の声だ。
それに先程よりもどこか不安なような寂しさも感じる声が聞こえた気がし──いや、現に聞こえている。
『ナビ……なのか?』
そうだ、最後にブラックアウトする最後の瞬間にサポートすると言っていた存在に思い当たる。
自然と自分の口からその名前を告げていた。
(「はい!」)
その存在の名を出したら案の定当たったようだった。
それに先と違って嬉しそうな声である。
確かに聞こえて──それに返答まであると来た。
これは間違いなく居ると自分にとっての確定情報になっていく。
『どこに……居るんだ?』
そう、それでも一番の疑問はここに辿り着く。
意図せず自分の口から率直な疑問が零れているのだった。
(「えっと、ここに……居ますよ?」)
やはり近い場所から声が聞こえて来ている。
自分は周囲を見回すが該当するような存在は見当たらない。
ただ分かるのは視界に収まる──どこかの施設なのか、ホワイトな室内だった。
『病院か?』
とりあえず、自分自身を落ち着けるためにも手短な情報を口に出す。
(「シエルさま……?」)
けれども、そんな不安な自分自身を誤魔化すような行動を心配したような声が再度、自分に聞こえて来るのだった。
(『……脳内?』)
今の声の出所を探るように考える──そして一番腑に落ちそうな解答を思考する。
(『ナビ……お前は脳内に居るのか?』)
自分でも突拍子も無い発想だと笑いそうになる解答に思い当たる。
そして、それが届くのならばと心の中でその存在──ナビに問いかけるのだった。
(「えっと……はい! あっ、いえ……厳密には違いますが。そうですね……、正確にはシエル様の魔力回路へと魔力ネットワークを駆使くししつつ、私自身を一緒に合わさって居る感じですね。えぇ、そうです! 私は……シエル様が望んで、そして、シエル様によって生み出された……シエル様だけのオリジナルの存在です!!」)
えっへん! と鼻息が聞こえて来そうな感じで情報過多の言葉が返って来る。
えっと──待て。
魔力回路?
魔力ネットワーク……? はギリギリ分かりそうな……。
それにしても、気になるのはシエル様──きっと自分の事だろう。
そして、そんな自分自身が生み出したとナビは今言った気がする。
(「私は……シエル様をサポートします! その為に今まで一緒に居ました! シエル様が目覚めるのに耐えられると判断した際に、シエル様を覚さまそうと自己判断し、シエル様を此処へ……導びきました!」)
おぉ──ナビの嬉しそうな声が更に一段階上がったようで脳内に声が聞こえてくる。
『ごめん、けれども──その自分は良く分からない状況なんだ』
むしろ、分からなくて当然だろう。
そんな直ぐに順応出来たら自分自身でさえ怖い。
嬉しそうなナビの声とは裏腹に自分の声は申し訳なさと、どこか困惑した声になっていた。
とりあえず、少しでも状況を──と思ったけれども、この身体は起こすのだけで精一杯だったのかそれ以上動かそうと思っても動かないようだった。
諦めて、自分は再度ベッドだと今は把握した場所へと身体を沈めるのだった。
(「シエル様……今は少しでもお休みください。そろそろ担当医がシエル様の目覚めに気づいて来られるはずです」)
(『担当医……?』)
(「あと……今は事情が分からないかも知れませんが、私のことは秘密にしてください。どうか、お願いします──シエル様」)
どこか切羽詰まったようなナビの声である。
秘密? と言われて疑問に思う自分が居たが悪意を感じる訳でも無かったので分かったと返事を返すのだった。
そう返しながらも、思考は鈍くなってきて──抗えない瞼の重みが自分に襲い掛かって来るのだった。
そんな瞼の重みをどこか受け入れつつも自分はきっと本当の夢というのを見ることになるのだった。
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「────か?」
「き──え────か?」
ぼんやりと浮上しつつある意識がかすれるような音を拾う。
声に導かれるように瞼を開けたら、こちらを見てくる白衣の人物が目に映る。
「聞こえますか?」
『は、はい』
やっと、耳にしっかりと白衣の中年男性の声が届いて言葉を認識する。
それに合わせて自分も返事を返す。
「おぉ……」
目の前に見える中年男性の背後に控えていたナースさんだろうか? 女性の方も目を丸くして驚いているように反応をしていた。
「シエルさん? すみません、その──どの程度まで、ご自身の事を覚えていますでしょうか?」
こちらを気遣ってだろうか、不安を与えないようにと優しく──でも、しっかりと聞き取る為に中年男性は自分へと質問を投げ掛けて来ていた。
『えっと……』
それは──と言葉を続けようとしたところで、自身の置かれた状況に気付く。
今にして思えば、あの現実? の世界での自分しか覚えていなさそうだという事と──あんなに慣れ親しんでいたであろう世界での自分自身の名前さえも覚えていなかったのだった。
(『本当に夢? だったのだろうか……』)
所々、虫食いに食われたように記憶の抜けや混濁しているような気がする。
「シエルさん……?」
中年男性の方がこちらへと心配そうに再度、声を掛けて来ていた。
背後のナースさんも自分へと心配そうに視線を投げ掛けて来ていた。
(出来るだけ──情報をまとめよう)
今の置かれた状況は自分だけでは何も分からない状況だ。
第三者の視点の情報は必要だろうと自身でも早急に判断する。
『すみません、正直──自分の名前……シエル以外、思い出せないようです。そのシエルという名前もしっくり来るという感覚で未だに実感が湧かないような感じです』
自分の名前と言われているシエル──確かに自分の名前なのだろうという漠然とした確信があった。
それ以外に関しては本当に分からない状況が多く、ありのままを中年男性へと言葉を返すのだった。
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(『あれ……そう言えば、ナビは自分の状況は把握しているのだろうか?』)
サポートをすると言っていた存在を思い出す。
返答があるかは分からないけれども、自然とナビへと意識を向けるように心の中で問いかけてみる。
(「えっと、はい! あの今は──上手く説明出来ないですけれども……。で、でも……これからそれに関しての深刻な説明があると思います。きっと、今のシエル様なら受け止められるとナビは信じています。折を見て、夢の話も疑問を含めて説明しようと思っています。なので──」)
自分と話せることが嬉しいのだろうか?
嬉しさと、自分への心配な気持ちも合わさったような──そんな曖昧な感情を混ぜたような声で返答があるのだった。
「シエルさん? シエル……さん?」
そんなナビの声も途中から耳に入って来た中年男性の声で遮られる。
顔を上げて見たら、尚更心配そうに自分を見る中年男性とナースの方が視界に入って来るのだった。
『すみません、良く考えていたら……色々と分からない事に──』
「いえ、大丈夫です。大丈夫ですよ──シエルさんは目覚めました。それに私達が知り得る情報なら話そうと思っています。シエルさんのタイミングが良ければ、いつでも話しますよ」
自分を落ち着かせるように優しい目、暖かい声で労るように対応を中年男性の方はしてくれる。
今はその好意に純粋に助けられていると自身でも分かる。
『ありがとうございます。……大丈夫です、その──情報を教えて貰えないでしょうか?』
感謝の言葉を告げつつ──一拍置いて勇気を持って問い掛ける。
今の自分は分からない事ばかりだ。
ナビの方もこれを予期していたのだろうか? そんなニュアンスを持って先程言葉を返して来ていたように思う。
大丈夫、しっかり聞きとめられる。
自分へと自信を投げ掛けて、瞳を真っ直ぐに中年男性の方へと向ける。
その瞳を受けた中年男性の方も自分の覚悟を見て取ったのだろうか──一拍置いて彼自身の知り得る情報を話し始めるのだった。
※ベッド:薄い膜=外気から保護する技術=寝たきりだったので免疫力が落ちていた?
※ナビ:シエルの魔力回路と繋がっているサポートする存在? ネットワークにも繋がりがあるらしい
※魔力回路:魂とも言われる? 同じ人は居ない、皆違う。
※魔力ネットワーク:魔力とネットワークを繋いでいる。 魔力の続くところ、それを遮るものはない
※魔力:夢の世界には無かった概念。 この世界では一般的?
※夢:それはあの世界の事? 本当の夢とは真実の夢ということ?
※ホワイトな空間:ある施設の病室の一室




