本当の悪人 3/3
この王宮に来てから1ヶ月、私に初給金が支払われた。
勿体なきこと、そもそも衣食住を完全保証されているのに更にお金を貰えるなんて。
このお金は大事に使おう。
私は黒いドレスを買った。
黒く染色した綺麗な絹材質、艶のある玲子さんの髪の色の様だ。
フリルでフリフリ、私には全然似合わない黒いドレス。
「ぐきゅうううう」
「やってしまった」
やってしまった、何を? 決まってる。
顔だけ可愛いクソガキを絞め落として好き放題出来る状態にした。
この黒いドレスは私のサイズには大きい、男の子用だ。
「何も考えず当然の様に王子を私の部屋に呼んでアホ面の王子を締め落としてしまった! そして私のベッドにはシワ伸ばしした黒いドレス!!」
据え膳着せねば女の恥!!
何で王子のサイズを知っているかって? 何回このアホの襲撃にあったと思ってる? この時のためにサイズチェックしながら何回もセクハラしてたからさ!!!
「って! ちがぁあああああああうっ!!」
何をしてる??! せっかくの初給金で何をしてる! 私はレズ!
ショタじゃない! 女を落とすなら良し! しかしこのクソガキは顔だけの男畜生!
男は汚い! 汚れてる! でも、でもでも、でも。
コイツは綺麗だ。
男のくせになんて綺麗なんだ。
侵し難く犯したい。
もったいなくてムカつく。
私は男に生まれたコイツが嫌いだ。
「なんで女に生まれなかった」
「し、師匠ぉ……」
うわごと、気を完全に失っている。
完全に女の子、髪の毛の短い女の子、伸ばせば良いのに勿体ない。
コイツは悪魔だ、レズの私を狂わせる悪魔。
悪魔の甘い囁きに負けるわけにはいかない。
「んっ…………ふぅ」
ヘタレな私は結局何も出来なかった。
起きた王子を私は教育に利用した。
「襲撃していいのは襲撃される覚悟のある者です」
「流石師匠!! それもスラム流なのか! カッケェ!!」
アホの子でよかった。
「あの、その、王子。少し気になったのですがその手は?」
獣に噛まれた様な歯形、新しめのかさぶたがあるところを見るとケモノで間違いはなさそうなのだが。
「コレは次女の、可愛い私の妹に戯れで噛まれた怪我だ」
勿体ない、綺麗な手がアカギレだらけだ。
でも噛みつきたい理由はわかる、私だってあの首筋にむしゃぶりついて一生治らない証をつけてやりたい。
男でなければ。
私は…………。
ゴクリ。
取り敢えず隠したドレスは姉君に渡そう、若干サイズが大きいが成長を見越して、という事にしよう。
バレないよな?
◆ ◆ ◆ ◆
火星歴20年
私はまだ仮面をかぶっている。
王妃殿下は生きている時私に言ってくれた。
「貴女は貴女の主人公を見つけてあげて、貴女は私と同じこの世界のヒロインなのよ」
「勿体なき言葉、私の様な豚女に」
「私は好きよその濃いピンク色の髪の毛も白い肌、漆黒の瞳も。豚ではなく貴女の髪は私の故郷のサクラという花びらの色、貴女の髪の色を見ていると故郷を思い出すの。美しかった頃の故郷の色」
嗚呼…………やっぱり私はどうしようもなくレズだ。
どんなに悪魔の誘いもあのお方には敵わない。
だから私は本当の私を隠す、絶対この髪の毛を表に出さない。
この豚の髪をあのお方と同じ艶のある黒に。
この悪魔の様な漆黒の瞳を広大な大地の様な茶色の瞳に。
肌も染めている。
私の本当の姿はあのお方にしか見せない。
私を見たこともないサクラという花と言うのなら絶対に誰にも見せない。
私の主人公、竜子ちゃんにも。
竜子ちゃんとの出会いは鮮烈で、一生忘れられない。
洗脳しようとした変なやつの魔の手から私を救ってくれた。ああ、なんて御しやすそうな女なんだと思った。
私はこの学園に転入し礼司の護衛をしている。
王妃殿下の最後の密命を果たす。
『あの子を守ってあげて、あの子は多分この世界で一番弱いから』
国から正式にお金ももらっている、王は知らない様だが。
私はタダでも約束を果たすつもりだが、きっと今の王宮は私をスパイとして使おうとしている、だから私は二重スパイとしてあの子を守る。
もし、礼司を殺す者が居ればどんなに強くてもどんなに時間をかけててでも殺す。
洗脳し、誘惑し、恋をさせてでも、どんな形でも殺す。
そうだ、竜子ちゃんはその謀殺リストのトップランカーだ。
確かにあの子は純粋で、かっこよくて、私の主人公だ。
だが、それだけだ。
なぜあの子は男じゃないのだろう、そうすれば迷う事なく…………既に毒殺していたのに。
「カボチャ…………か、ふふ」
本当は大して何も思わない。
だって私はもう誰も信じない。
男女云々ではなくこの世界が許せない。
玲子さんを黙殺したあの愚王を信じない。
玲子さんを殺した地球のゴミを信じない。
人間を信じない。
どんな手を使ってでも私のにくい全てをぶち殺す。
「おい!カボチャ魔女!! 笑ってないでさっさと降りろ!!」
上から緑髪の美少年畜生が叫ぶ、やっぱり男ってクソだわ。
「うっさいなぁ…………」
扉を破壊された屋上から降りるため、非常用の縄梯子から降りている途中だ。
イカれたことを言ったあの青髪があの悪魔を誘拐した。
話の流れから殺す事はないだろう。
だが気になるのは『孕ませる』とかなんとか言ってた時の竜子ちゃんの言葉。
『異世界の魔術』
…………地球と違う別の世界から来た異世界という妙な人間。
そして体長100メートル級のドラゴンの様な魔獣とは違う生物。
試してはいないが多分私でもアレらを操れる。
人間も魔獣も魔族?も魔物も私の前ではきっと平等だ。
魔獣の森には私の味方の魔獣が異能者より多く存在する。
その気になれば大切な人以外は全員殺すことが出来る。
今の私には心の支えがない。
あのお方の残り香が無ければ、ほんとうにやってしまいそうだ。
姉妹どもはあの王に似てきた。
あの悪魔はどんどん玲子さんに似てくる。
おのれ悪魔め。
「ふふふ」
「おいカボチャ! この悪女! さっさと降りろレディファーストと言っても限度があるぞ? 全く兄貴が王になったら覚えておけ!」
「悪人が王になったらこの世界は終わりね!!」
「んな! 兄貴は悪人じゃねぇよ! 確かに悪びれてるけど本当はお前のいう様な穢れとは程遠い人だ! ああいう人がこの星の上に立つべきなんだ!」
「はいはい」
知ってるわよ、あいつは性格まであのお方に似てきた。
だから絶対王宮に戻させない、あんな奴らに利用されてなるものか。
絶対に追放させてやる、傾国の意思ありと嘘を報告して孤立させて、私に縋らせてやる。
男に生まれた不幸を恨むがいい。
「うふふふふふ❤︎」
本当の悪人は悪人という顔をしない。
当たり前だ、悪だと知られた悪人は皆正義の味方に鏖殺されている。
あの被害者面をした愚王と同じだ、小説の様に悪い王は悪そうな顔などしない。
王子の姉君の言った『追放モノ』の様に誰かに憎まれる愚を犯さない。
まぁあいつは私にとって愚王だから絶対いつか殺すが。
「ん?なんだあれ?」
上の緑頭が私でなく遠い空を見ている。
その先には青い空ではなく、闇夜が、青空に闇夜が染まっていった。
まるであのお方の黒い髪。
まるであの子の黒い髪。
綺麗で綺麗で大嫌いな愛する色。
「ははは…………」
多分私は今、すごく気持ちの悪い笑顔をしていると思う。
本能的にあの空があの可愛い子の仕業だと感じてしまったからだ。
私はこの世界に残されたヒロイン、そんな仮面を被った豚の魔女だ。
だから…………!!
それは恋であり、憎しみであり、苦行であり
愛だった。
次回、第三章《愚王、墜つ》
第18話 「なんとしても守る」
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