本当の悪人 2/3
目が覚めると、私は王宮のベッドで寝ていた。
真っ白いおろしたてのシーツ、太陽の香りのする枕。
森にいた時には全く気にも止めていなかった贅沢を一瞬で感じていた。
「ここは?」
「起きた? 私の可愛いメイドさん?」
すぐそばにあのお方は居た。
私があのお方の手を掴み、離さなかったからそこから動けなかった様だった。
「す、すみません。おうひ殿下のじゃまをしてしまいました。
「気にしなくていいわ、むしろ私の娘にない甘え方で新鮮だったわ」
恥ずかしい、その時私は王妃殿下をお母さん呼ばわりした事を思い出し顔が真っ赤になったのだろう、玲子さんは微笑み頭を撫ででくれた。
「良いのよ、今貴女は大事な時なのだから。恥ずかしがらずに今だけはお母さんって呼んでいいのよ?」
甘えたい、異能に目覚める前の私なら絶対に抱きついていた。
だが、今の私の立場は危ういものだ。
無意味に時間を過ごせばそのお方だけでなくその他の権力者の印象を悪くしかねない。
だから私は甘えるのではなく忠誠を誓う。
「ありがとうございます。でも私はおうひ様の『おせわがかり』なのですよね?」
「あら、意外と堅い娘ね♪ まぁ良いわ、不安でしょうからコレからの貴女の処遇を説明してあげましょう」
そういうとウキウキしながら一枚の仮面を手渡す。
白い仮面、少し分厚く軽い材質の安価そうなもので目の部分だけ穴の空いたピエロがつけてそうな作りだった。
「仮面のお世話係、そう言われてるわ」
聞くところによると玲子さんは私の様な訳ありの女性を匿うため顔を仮面で隠す事を条件にしたメイドさんを何人も抱えているらしい。
慈善活動、でもあるが特殊な異能を持つ人間を味方につけておきたいというのが本音なのだろう。
この時代、どんな異能者がいきなり猛威を振るうかわからない。
私の様に今のランク規定だとFだが使い様によってはSランク異能者を殺せる人間もいると玲子さんはわかっていたのだと思う。
そしてこの組織の第一目的、それは。
「おうじさまの護衛?」
「ええ、私の娘達は異能に目覚めてるんだけど長男の礼司だけまだなのよ、もしかしたらノーマルの可能性もある、でもこの時代強くなければ生きづらい、それは貴女もよくわかってるでしょう?」
確かに、我が子を可愛いと思う母親からすれば当然の考えだ。
「理解できます。コレからこの仮面をかぶって生きる事を誓えばいいのですね?」
「ええ、歳の頃は多分貴女と同じくらいだから、きっと仲良くなれるわ♡ 」
なんだか嬉しそうだったが私はレズ!! 目当ては玲子さんのおっぱいだ!!
男など要らないのだ! だがその純粋な笑顔のため、自分を隠して私は生きる事を誓った。
「ところで、その、胸ばかり見られると恥ずかしいんだけど…………」
「すみません、大きくてつい」
◆ ◆ ◆ ◆
長女が一人とその下に長男。
更に下に次女〜五女の六人構成だ。
沢山居るとは思わない、むしろこの人数は今の時代少なめと言っていい。
そして私は体調が回復し直ぐにアイツとの仮面越しに初対面した。
最初私は感動してしまったんだ。
予め姉と妹達は確認していた、女の子だからきっと玲子さんに似ていると思ったのに…………何というか全員美女ではあったがベクトルが違う。
基本目つきが悪くて意地の悪そうな感じだった、きっと王様似なのだろう。
もったいない。
しかし遺伝子というものはいじわるである。
たった一人の男の子。
芦崎礼司は男の分際で玲子さんに激似だった。
髪の毛は短く整えていたが輪郭はすごく柔らかくまんまるな目に誘うよなピンク色の口端、耳、鼻先、むしゃぶりつきたくなる様な可愛さだった。
小さい玲子様である!!
男畜生だったが。
「余は礼司! この火星の次期王である! ひざまつくが良い下女よ!! ふはははは!!」
…………ぶん殴りたくなるくらいドヤ顔で笑ってやがった。
「ごめんなさいね? 礼節を教えるのはコレからなの、殴っちゃっても良いから教育してあげて、我慢しなくていいわよ?」
この時の王妃殿下の顔、怖かった。
「い、いいえだいじょうぶです。よ?」
「は! 女如きのふにゃふにゃパンチなど効くわけなかろう! お前は弱者だ! 分からせてやる!!」
そういうと本当に私に殴りかかってきたので、王妃殿下の許可してくれた通りにした。
ぐいっ
「ひょ?」
相手の体の動きを利用してそのまま事故らせ組み伏せる。
護身術による返り討ちである。
「ぬぎょ!!」
ベキン!
冒険者共の見様見真似で投げて押さえつけた。
本当はこの後ボコボコにするのが冒険者流だが王族にそんな事はできない。
因みに王子の筋力は弱かった、多分技なしに押し倒せる。
クソガキに身の程を解らせてやった。
「お戯れはやめて下さーい、王子」
冷たく言ってやると今にも泣きそうな面で泣くのを我慢している。
くっ! 可愛い! 私の中のイケナイ何か込み上げてくる。
「ぬごぉ!! にゅあああ!! 者どもであえぇ!! 狼藉者だ! 処刑せよ!!」
組み伏せられてるクソガキはぶん殴りたくなるくらいムカつく、だが犯罪的な可愛さがあった、男でさえなければ!
男でさえなければ!! 男で……ん?
「やっちゃっていいわよ♪ 教育よ教育」
王妃殿下はめっちゃ笑顔で狼藉者呼ばわりされた私を応援してくださった。
どうやら本当のこの人の性格はかなりスパルタのようだ。
「や、やりませんよ、おそれ多い」
後から知ったが (弱過ぎて)愛息子に手をあげることのできない玲子さんは体罰役を同年代の私に押し付けるつもりだったらしい。
まぁ自分に激似の息子を殴れないのはなんとなく理解できる。
男でさえなければ屈服させていたかもしれないが、いやそれでよかった。
そんな事をしたらきっと私はあの王宮から追い出されていただろうから。
「くっ!! いっそ殺せぇええっ!!」
「やめて下さい、なんだか本当に悪いことしてる様な気になってきました」
◆ ◆ ◆ ◆
そのあと何度も私に挑戦してきたバカ王子は様々な奇襲で私を倒そうとしてきたが、その全てを返り討ちにしてやった。
そのうち悔しがる顔が段々と私に対する憧れとなったのか目が輝きだしいつの間にか『女仮面パイセン』『ポイズンピンクパイセン』と呼ばれる様になってしまった。
やめて欲しい。特に後者。
そんなにキラキラした目を向けたら、更にいじめたくなっちゃうじゃない。
組み伏せるたびに頬を赤くして悔しがる顔だけは好きだった、ソレがアイツの良いところだったのに。
仲良くなったら楽しめないじゃないか!
「礼司様は弱すぎます、このままでは謀殺されるかもしれません、ですので今まで通りかかってきなさい! 見事私を倒せればこの仮面を脱ぎましょう」
「パイセン! でも、俺もう卑怯な手を使いたくないっす! パイセンまじリスペクトしてるっす!!」
バカっぽい、そして可愛い。
くそ、男でさえなければ!!男でさえなければっっっ!!!
ん? 今何かいい事を思いついた様な? ダメだ忘れてしまった。
まぁいいか。
パイセン=先輩




