本当の悪人 1/3
私は花陽菜!!
どこにでもいる少女! ちょっと女の子が大好きな普通の女の子!
私が女の子が好きになった理由。
私を百合覚醒させたあのお方の話をしよう。
幼少、何歳だったかは覚えていない。
私は未開発労働区画、いわゆるスラムの奴隷扱いされている両親のもと生まれこれからも親の様に肉体労働をする運命にあると思っていた。
だが私は異能に目覚めたのだった。
歌というヘンテコな異能だ、声量は上げられないが声の質を変えられるという異能。
最初は犬笛がわりに異能を使ってもふもふの動物と戯れていた。
メス犬は私のお気に入りだ、メスはいい。
しかしそのもふもふの中に魔獣の子が居た。
〈魔獣〉
・テラフォーミングされた火星の未開発地区で独自に育った固有動物、異能の様な力を持ち、主に炎を出す。
・飼い慣らす事はできない為見つけ次第駆除、知性はないので比較的簡単に駆除可能。
・〈冒険者〉と呼ばれる日雇いの低クラス異能者に駆除を任せることが多い。
黒い毛並みの整ったワンちゃんだと思ったのに、でも大人達は恐怖した。
何より飼い慣らすことのできないはずの魔獣を飼い慣らした私に恐怖した。
両親は私を『悪魔』だの『魔女』だの言っていたが別に珍しいことじゃない。
この火星の新生児は100%異能を持つ様になる、遅くても14歳までには目覚めるとされその頃には親も子に力で勝てなくなってしまう。
そんな歪な親子関係が今の時代なのだから、どんなに罵倒されてもよくある話として片付けられてしまうだろう。
だがだからと言って大人しくやられてやるつもりはない。
「やって、イクル!」
「がるるるる!!!」
寝ている隙を見て殺しに来た冒険者を返り討ちにした。
ただ追い返したのではない、キチンと殺す。
ガブくりゅ、
「ぎゃああぁあっ………くひゅ」
私は親元を離れて未開発地区すらも離れた魔獣の住う森に住むことにした、今の私に魔獣は脅威ではない、むしろ人間より安心できる、信頼できる。
冒険者は魔獣を何匹も殺した実績があるから油断する、だが、統率された魔獣は別だ。
犬の変質した魔獣は素の統率力を失い、全員が一匹狼の様になる。
そう魔獣とは素の動物が何かしらの影響で魔獣に変質するモノなのだが、この変質の際に必ず利己的な性格になり知性もない為、異能を持つ害獣となってしまうのだ。
しかし私にはその魔獣を〈洗脳〉することができる。
これは異能ではなく私の経験による純粋なスキル。
まだ人間は無理だったけど、なんの事はない、ただ殺せばいいだけだ。
だが私は人間という獣がどういうモノなのかまだ理解できていなかった。
暗い暗い森の中、私は命を落としそうになっていた。
「ここまでだクソガキ」
「ぐっ!!」
私は首を絞められている、直接私の異能を封じてきたのだ。
完全に油断した、まさか異能に〈察知妨害〉なんてものがあるとは、お陰ですぐ近くにいたコイツに気がつかなかった。
歌が歌えないと魔獣は動かない。
というか遠くにいて私のことが見えていない。
男は30代半ばの汚い顔だった、こんなことになるならどうせ綺麗な顔の女性に殺された方がいいとその時思っていたのだがかなり異常な子だったのだろうな私は。
二桁に満たない私の走馬灯が見えた時、記憶にない綺麗なあのお方の声が森に響いた。
「おやめなさい!!」
この腐った世界、汚泥の底の魚の様な人間共、全てに絶望して悪魔共を絶滅させようと考えていた私の心に…………一条の光が差し込んだ。
艶やかなウェーブかかった黒い色の長い髪、少し色のついた肌、鼻先や顎、唇にピンク色の魅惑点が麗しくエロい。
綺麗な茶色の瞳から強い意志を感じさせ男以上に強い力を感じる雰囲気、彼女は戦士だった。
傭兵でない、冒険者でもない、戦士であり、王族であり、世界一の美女、そして聖女だ。
その魔除け用の銀の鎧や装飾の凝った作りのレイピアを見れば只人でないのは明らかだった。
「玲子陛下、しかし」
陛下、そう呼ばれる人間はこの星では二人しかいない。
王様、もしくは王妃様。
「ここでは戦士です、敬称はいりません。その子の首から手を離しなさい」
そいつの手の力が緩んでいく。
その時点で魔獣を呼んでも良かったが私はそのお方の神々しさに見惚れてしまいそれどころではなかった。
それは私が初めて女性を愛してしまった瞬間だった。
「芦崎様、コイツは同胞の冒険者を何人も殺した大罪人です! どんな異能を持ってるかわかったもんじゃありませんよ!!」
首に手をかけたまま男は言った。
「そうですね、しかし彼女に討伐や殺害の司令は出ていませんよ? あくまで保護だったはずです、その子に近づいていった者達は違法な取引で金で雇われ単独で返り討ちにあった人間ばかりでしょう? そんな冒険者に堕ちた者は我らの同胞ではありません」
因みに依頼者の中には私の両親も含まれていた。
「しかしこいつは!!」
「それに証拠がありません、死体などなかったのですから」
「…………っ! そんなの、そんなの関係ない!! このガキを殺せば全部解決なん、だ?」
バタ。
突如男は力を失いそのまま地面に倒れた。
なんの異能なのかわからない、多分睡眠系の異能だとは思うがこの御方は百以上の異能を持つので特定が難しい。
「くぅうう………」
解放された私は一気に緊張が溶け、今更ながらガタガタ体が震え始めたのだった。
「ゲホ!! がはぁ! ぐへぇ!」
そして息を吸い込もうとして一気に唾液が引っかかり咳き込んだ、その場に四つん這いに苦しむ。
「大丈夫? 落ち着いて息を吸って、はい、もう怖い人はいませんよ?」
そう言いながら優しく背中を撫でてくれた。
その手つきが本当に優しくて涙が溢れ、泣きじゃくった。
だって私はもうしばらく可愛がられたことなどなかった、こうなる前の両親のことを思い出して、もう二度と来ない幸せな時を思い出してどうしようもなく悲しかったんだ。
「うえぇええっ!!! おかあさぁあん!」
突然何を言っていたんだろうか私は。
緊張の溶けた私はそのまま玲子さんに抱きついて泣きじゃくってやった。
おっぱい大きかったなぁ。
「大丈夫ですよ。もう貴女を脅かすものはいません、王宮に来なさい。私のお世話係にしてあげましょう」
「えぇええええん!!」
そのまま泣き止むまで玲子さんは抱いてくれて、そのまま私は眠ってしまったんだ。
あれ? この子本当に魔女なのでは?




