第16話 「母と子と妹と道標」
◇ ◇ ◇
7年前。
玲奈が小さい頃、俺は母様に甘えたい盛りでぶっちゃけて言うと玲奈が邪魔だった。
ただでさえ4つ子が出来て自分への愛が減ったと思っていた。そんなことあるわけないんだけどな。
4つ子の中でも頭の中で頭のいい玲奈が俺の後をついて来る。噛み付いてきたけど。
流石に子供の俺でも邪険にする事も出来ず、公園で遊んだ。噛み付いてきたけど。
他の妹は家に居た。
玲奈は本当に頭が良いんだ。
だから、アイツらに狙われたんだ。
ある日、いつものように公園で玲奈と遊んでいたら知らない男が数人急ぎ足でやってきた。
誘拐だ。
その時の俺は異能の力が目覚めていなかった。
だから妹を見捨てて逃げようとした。
でも、怖くて声をあげてしまって。
男たちは俺の存在に気がつき、俺を誘拐した。
そこからはよく覚えていない。
何故か母様が一緒に誘拐され、移動に次ぐ移動、親父に対する要求がことごとくうまくいかず拠点を変えていたようだ。
そして母様は元から体が弱く、度重なる出産に四つ子の出産のダメージがぶり返していた。
そんな事は知らないマフィアの暴力、蔑み、精神的苦痛により次第に衰弱した母様は…………。
とある朝、母様は俺を抱いたまま死んでいた。
冷たくなり生き物からただの物質になった。
互いに責任のなすりつけ合いをする男供、散々母様を痛めつけたそいつらの出てきた言葉。
『こんな時に死んでんじゃねぇよ火星人の猿が』
そして、俺は異能に目覚めた。
怒り、憎しみ、殺意、様々な感情が混ざり合い、母様を助けられなかった役立たずが今更覚醒して犯人たちを皆殺しにした。
罪悪感などありません、ただ殺人は自分と親しい人間に味わわせたくないと思った。
隠れて、誰もいないタイミングで王としてでなく、親であるオヤジに喧嘩を売りに行った。
久しぶりに会ったオヤジは俺を化け物を見るような目だった。
「何故要求を飲まなかったのですか?」
地球人の要求は移民の増員と未開発地域の占領権。
政治家であるのなら飲んではいけない事だった。
だが要求を飲んだふりして助けを求めることくらいは出来たはず。
第一脅しで得た言質など何の意味もない。
騙し打ちにすれば良いだけのはずなのに。
「そんな事をすれば他の民に示しがつかん」
その示しのため、母様は命を失った。
怒りが、復讐心が蘇る。
◆ ◆ ◆
「簒奪、そうでなくてはな」
ジンはニヤニヤと仮面越しに笑う。
「あくまで最悪の場合の想定だ、お前の言う事を完全に信用したわけじゃない」
「それで良い、自ら考え、見て、感じた通りに動きたまえ。君はそれが一番いい」
おそらくは最悪のケースになると踏んでいるんだろうな。
「あの男は王器は無く元はただの政治屋だからな。物事を合理的にしか見ることができない。異世界侵略がどれだけ無意味なことか知れば取りやめるだろう」
「あの男だけならな」
そうか、そうだな。
「元老院、そして側近供の事か?確かに感情論を持ち込んでくる可能性はあるけど要は王であるオヤジを説得できれば良いだけの話だ。一応独裁者だし、首を刎ねたり簒奪するまでもない」
「そうではない、私が危惧しているのはこの世界の“道標”の事だ」
道標?
「なんだソレは?」
「古来よりこの世界と私の世界に暗躍する存在だ、君の父親も君自身もそいつの影響下にある」
何だソレ、知らないぞ。
そんな設定を作った覚えはない。
「初代魔王は本来は民を想うことのできる第に王子だったがある日を境に傲慢かつ残忍な魔王になってしまった、そして悪意と残酷な性格の初代勇者アルマはいつのまにか人間を想う人格者となってしまった。どこかの誰かがこの世界を何かの目的で歪めている、恐らく私利的に」
それって、作者じゃねぇか?
「そして君の『自分を小説の登場人物である』と思い込んでいるのもその道標の力だと思っている」
「え?」
「初代とは何度か意識上でのみの密会をしている、何せ剣に封印されていたからな。そしていくつか分かった事があった。歴史上君の様に自分をこの世界の作者だと自称する特異点が何人か存在していた」
「は?」
待て、つまりソレって。
「君は自分を転生者だと思ってるんじゃないか? だがソレはあくまで君の頭の中だけの話だ」
違う。
「もし君の考えてる通り小説の様な転生だとしたら君は今代の勇者に転生すべきじゃないのか? 何故、魔王側なんだ? 何故不遇な生い立ちの火星の王子なのだ? 何故君は母親を助けられ得なかった?」
ソレは。
「ソレは俺が、ざまぁサレ役だから…………」
ジンはまた顔を近づけてくる。
「目を逸らすな、今ある生から逃げるな、今のお前は何者だ?」
俺は
「俺は、芦崎礼司。母を父に見殺され今ある幸せすら失いかけてる弱き魔王だ」
何かが、俺の中から消えた様な気がした。
俺自身が転生者である自覚は揺るぎないが、今はそんな過去の事などどうでもいい。
「俺は“今”が一番大事だ今のためなら未来をも犠牲にできる。何故なら今がなければ未来になど進めないのだから。朔者の悪意に満ちた未来を潰して俺自身の守るべき未来に進むために、だから俺は今ある全てを守り通してやる!」
「よし、その意気だ。世界征服をしたくなったんじゃあないか?」
「そんな物騒な事、大事の前の準備事でなければやりたくないよ」
「世界征服は“手段”でしかないと?」
「嗚呼、俺は俺の後ろを歩く者達の道標になりたい。たとえその道が俺と袂を分ち殺し合うことになっても後悔などしない」
そして必ず竜子と陽菜をゆりゆりカップルにする。それだけは何があっても譲らない。
仮面の紳士は少し何か考え、少し笑い黙る。
「…………成る程な、私はこの時のために今まで生かされて来たのかな」
「どういう事だ?」
「気にするな、私は君と違い守る事を諦めた敗者だ、一千年怠惰に生き今この場で君という希望を消さないための壁になるための駒だ、脆弱ではあるがな」
いや、アンタ俺の考えたチートの塊キャラだから全然弱くないんだけど。
まぁきっと俺が知らないだけでこの人にも色々あったんだろう、朔者でない今の俺じゃあ想像でしか語れないけどな。
何故か俺も笑ってしまう。
まるで長年の友の様に、と言っても前世の俺にそんな友達はいなかったから竜子との関係性に似たものをそうだと思うしかないのだが。
「裏切り者…………」
冷たく、殺意に満ちた声だった。
しかしその声は何度となく聞いた友の声であり。
「りゅ、竜子さん?」
「レージの裏切りホモ」
今までになくその目は冷気をはらんでおられた。
勇者は混乱しているっ!!
次回、第17話 「ジンの弱点」
☆こんにちわ、オニキです。
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