第15話 「極論」
魔王の俺は自分の厨二設定の塊に捕まった。
と言っても物理的な拘束はされていない、トイレに行くと言ってそのまま家という名の屋敷の中をぐるぐる徘徊しながら二人で話しているだけだ。
「人は経験によってのみ真実を理解する、経験によらない理解とは宗教に近いと思うのだが」
遠回しが過ぎて意味不明な言い方だが俺には何を言っているのか理解できてしまう、やはり想像主である作者の特権だろうか?
「俺の過去に何か言いたいことがあるのか?」
「よく通じたな、その通りだ」
経験うんちゃら言い始めたからな、あとはまぁ勘だけど。
「君は自分の母君の死が誰のせいか考えたことはあるかな?」
「俺のせいだとか言いたいのか? そんなのは当事者で決めることだろ? アンタにどうこう言われたくはない」
「いやいや、そうじゃない。少し今代の勇者との話を聞いていて意外に思っていてな? あの男芦崎盾一の息子にしては出来た男だと思ってな」
は?
父さんのことを言ってるのかコイツ? なんで知ってる? いや、この火星では確かに一番に有名な人物だから知っていて当然だとは思うが。
「そんなに警戒しないでくれ、私的には君がこちらの世界に征服を仕掛ける気がないと確認が出来て安堵しているんだ、だから君とは良好な関係を築きたいと思っているんだ。だから君の言う“異世界侵略阻止”にも協力したいと思っているんだ、だからね君の認識の間違いを正して置かなければならないんだ」
「認識? 間怠っこしい言い方しないで言いたいことを簡潔に言ってくれよ」
「ふふ、いや似てるな君は」
「あ? なんだよ、父さんに似てないとか言ってなかったか?それともまさか母様とか?」
あり得る、母様は異世界人の記録を持つ語り手の一族でしかも王族の成れの果てだ。
「そうじゃない、顔とかそう言うのではなく性格が似ている。先代の魔王、君の知ってる言葉では二代目の魔王、リナ・リル・リリンにな」
「魔王? そんな大それた存在に似てるだなんて光栄だね」
「何を言ってるんだ? 君だって魔王じゃないか?」
つかいつの間にか“君”呼ばわりになってるんだが。
俺が女の子だったらメロメロだっただろうな。
「そっちの魔王とこっちの魔王じゃ格が違うし、ソレに俺はカムイから横取りしただけの強奪者だ、出来ることならもっと相応しい奴に椅子を渡してやりたいよ」
嘘だけどな、そんな事をしたら力を失った俺を殺そうとする奴が出てくるかもしれない。ソレにこの力は竜子と陽菜ちゃんのゆりゆりエンドに必要なんだ!
「ふ、ふふふ、嘘をつく時の癖もそっくりだ。成る程ね、また俺にそういう役回りをさせたいのか」
「何を、んご!」
クイっ!
ジンは先程までの紳士的な態度を一変しいきなり顎を掴む。
な、何を!
「よく顔を見せてくれないか?君の眼を刻んでおきたい」
顔が近い!仮面みたいなツノのおかげで息が当たるまでは近づけないけど、ソレにしたっていきなり近い!
「近いわっ!!」
咄嗟に離れようとして両手で押すがステータス不足で全然離れられない。
「最弱な所もそっくりだな、ふ、気が変わった。私の話術で君を操ろうとしたがやめだ、これから私は君がこの世界を征服できる様に立ち回ろう」
「は? ど、どういう判断だよ?」
「私の判断だ。だがまぁやはり当初の予定通り君の洗脳は解いておかなければ な」
てか離れろ、体温が、直に伝わる。
「あの男は、火星の王、盾一は君の母親を殺している」
「…………え?」
何を言ってるんだコイツ。
「君の母親を殺したのは君の父親だ、アレは殺されると分かってなんの迷いもなく犠牲にした。助ける事もできた、だが君と妹、そして世界をも騙して被害者ぶっている」
「ちょ…………ちょっと待ってくれ、情報量が、多すぎて」
「そんなに難しいことは言っていない。理解を拒んでいるのさ、予想はしていたんじゃあないか?」
うるさい!
「うるさいっ!!」
そんなわけがあるか!そんなことは絶対にないっ! オヤジは!
母様を犠牲になんてしない!
「思っていたより強い洗脳だな」
「洗脳?」
違う、そんな、わけ、な…………。
暗転し、俺は気を失った。
次に目を覚ますとそこは俺の知っている所だった。
『人は経験によってのみ真実を理解する、経験によらない理解とは宗教に近いと思うのだが』
寝ている間この言葉が俺の頭の中で何度も反響していた。
◆ ◆ ◆
「こ、ここは!!」
見たくもない所、薄暗く悲しく、何も無い誰も知らない場所。
「君の母様が亡くなった所だ、私は知っている。君と母君はここで拘束されていた、誘拐時に玲奈という妹を助けるために自分から名乗り出たのだよな?」
河川敷、高架下、なんとでも言える様な何でも無い所。
そこに魔王となった俺と厨二の塊がいた。
ここは都心に近い開発区の暗部。
その昔マフィアの根城になっていた場所。
王様が制圧してくださった、母様の死に場所。
俺がもっと強ければ、今の力をあの時持っていれば母様は死ななかった?
いや違う、この展開を作ったのは作者だ。
たとえ描写してなくったってこの事実は作者が作ったんだ。
「私は思うに君が作者がどうのこうのという妄想は母親の死が受け入れられずに自分の中で作った妄想なのでは無いか? という予想があるのだが、君はここでさっきの言葉をもう一度言えるか?」
言える。
「俺がこの世界を作った、俺が特異点で母様が死んだのも家族を悲しませたのも全部俺だ作者のせいだ」
トラウマがフラッシュバックしたがそれはそれで事実は事実だ。
決して自分の罪は消さない、無かったことにもしない。
「ショック療法でもダメ、か。ならばこれ以上赤の他人の私にどうする事も出来ないな、取り敢えず創造主云々の話は置いておくか」
ぱちん、
ジンが指を鳴らす。
するとあっという間に場所が変わっていく。
「俺の家!」
屋敷の外、庭園の噴水場。
そこにある薔薇やら何やらの花が植えてあるガーデニングの前にいる。
一気に薔薇とその他様々な花の香りが嗅覚を支配する。
「君は最初からここに居たよ? 君に見せた風景はあくまで君の中の心の傷の部分が見せた幻影だ」
「催眠術? いつの間に!?」
「少し違うな、記憶の片隅にある映像を強化しただけで何を見るのかは私自身に知る事は出来ない、だが私は君が生まれる前から君を知っている、そしてこうなるだろうという事も、君のトラウマも理解したうえで話をした。そこからは確かに催眠術といってもいいかも知れないがね」
魔術と話術の合わせ技、自分で作ったキャラにしては頭がいい、俺よりIQとか上なんじゃないかコイツ。
「先ずは火急の催眠を解くことから始めるか、君は賢い。そして血族や自分の味方に対してなるべく迷惑にならない様に動く。自分の心の内にある憎しみの炎を消してでも親しい者の為に自分を殺すことが出来る」
何を言ってるんだコイツは?
「ソレはうまくいっていた、だが君は知っている。お父様が本気で母様を助けようとしてくれれば母様は死ななかったんじゃ無いか?と、そして君はあの事件の裏で起きた全てを把握している、そして自分の想像は間違っていなかったと、確信した」
ああ、そうだよ。
この記憶が蘇る以前の俺が、ありもしないはずの妄想を調べた。
そして裏付けされてしまった。
オヤジは母様と政治を秤にかけ、政治を選んだ。
そして俺は……オヤジを憎んだ。
地球人よりも、マフィアよりも分かりやすいオヤジという憎しみの対象に殺意を持った。
オヤジは異能を持っていない。
だからオヤジは異能者を差別しているがその力は利用する、そして、衰弱し殺せる用済みになった母様を。
俺の誘拐事件で殺せないか考えたんだ。
死んでも良し。
死ななくても良し。
どちらでもよかった、そして。
助けるべきを、助けなかったんだ、あわよくば異能に目覚めていないあの時の俺も、死んでもよかった。
そんな男が果たして今の異能者を、俺の友人の命を大事にしてくれるだろうか?
「思い出せ、あの男は君が思った様な聖人ではない。そして説得でどうにか出来る人間じゃ無い、あの男の愚行を止めたければ、王子である君が魔王として戦うしか無い」
もう、母様の事はいい。
仇に固執して今ある幸せを失ってしまうわけにはいかない。
「それが本当なら…………」
だが、今。俺のささやかな幸せすら脅かすというのなら。
『生きて、礼司。この世界は理不尽でどうしようもないけど、それでもなんとしても生きて、お父さんの様に強く、綺麗な花じゃなくていい、雑草の様になってでも、生きて』
母様の最後の言葉が、呪いの様に反響する。
だが………………。
もう雨は、降っていない、ここにあるのは晴れ渡る空と、薔薇の香りだけ。
剪定された薔薇は例えるならば俺の目に映る異能を持つ友人達だ、そしてオヤジはその根に張り栄養を吸う雑草。
だとするならば。
「俺は、火星の王位を簒奪し父の首を刎ねなければならないじゃないか?」
ずっと心の底に封印していた想いを口にした時、ジンはこれ以上なく優しく微笑んだ。
少年は、やっと青空の下を歩き出した。
次回、第16話 「母と子と妹と道標」
☆こんばんわ、オニキです。
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