冒険の仲間②
木製の扉を開けると、カランカランと鈴が鳴る。
なんとなく想像していたが、こういうシーンは大体みんなの注目が集まるのだ。
武装した"冒険者"らしき一団はナイフやフォークの動きが一瞬止まったように見えたし、大柄な亜人達の豪快な笑い声も一瞬止んだかのように思えた。
外からは小さい印象を受けた酒場であったが、大通りや街全体が大きい為に錯覚したのだろうか。入ってみると思っていたよりも広く、6~7人で囲めるテーブルが10台近くはある。奥には長いカウンターがあり、高椅子が8席程設けられている。ぎゅうぎゅうに詰め込めば100人くらいは収容できるだろうか。いま店内にいるのは従業員らしき人を含め20~30人といったところか。
元の世界であれば、「いらっしゃいませー!何名様ですかー!?」なんて言われるまで、入り口で店内をきょろきょろしながら待つのだが、いかん、勢いで入ったものの、とにかく緊張しているし、とにかくどっか席についてさっさと食事を済ませて場を離れたい。
仲間を集めたい気持ちはあっても、ではいきなり初対面の、それも外国人どころか異世界の人間と流暢にお喋りできるほどスーパーなサラリーマンではなかったのだ。
店内に入った時に感じた大勢の視線のせいで心臓がバクバクしながらも、自分もなるべく店内の雰囲気や人物の情報収集に努める。この麻袋は重たいが、ダッシュとはいかないまでも、ツカツカと、こうなるべく慣れた感じでカウンターまで進み、「ビールとポトフを」と言えばそれで万事解決だ。そもそも、俺が来たばかりの"喚ばれし者"だなんて誰がわかるのか。
「見ない顔だわね。」
「きっと昨日か今日あたり召喚されたばかりなんだろう。」
亜人同士はぐるるると喉を鳴らして耳打ちをしている。どうやら共通言語はこちらにも理解できるが、もともとの言語を失うわけでなく(こうして日本語を記せているように)、元の言語で通じ合うのであれば元の言語でも意思疎通ができるようだ。
しまった。想定以上にみんな常連だった。もう次の瞬間にはどこから来たのかとか、オマエハナニガデキテドノクライツヨイノカとか問いつめられるかもしれない。今日はもうゆっくり食事して休みたかったのに。
「どうぞ隣へ。」
声をかけられて我にかえると、俺はもうカウンターまで進んでおり、カウンターの端っこの席にポツリと腰掛けていた初老の牧師姿の男がにこやかに微笑んでいる。
『よろしいんですか。』
その男に不思議と警戒心は抱かなかった。気持ちが歪んでいる時、苛立っている時、にこやかに微笑みかけられると逆に怪しむこともあるかもしれないが、きっちりと着こなした黒い衣に、白いマフラー(?)、穏やかな雰囲気とその声に、あぁ俺は今日一日の出来事をこのような人に聞いてもらいたかったんだと思ったほどであった。
俺は麻袋を床に下ろし、背広を脱ぐと、勧められるままに牧師の隣の席についた。