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解ける糸2

 考え込んでいたジョンが立ち上がり、ソファーにもたれるように座っているディアドラの前に屈み込んだ。

 ディアドラは首を傾げる。不思議に思い、ぼんやりと眺めていると更にジョンが屈み込む。

 

 ジョンは、ディアドラのドレスの裾に口づけした。


「何をしてるの!?」

「ディア様、俺は男爵家の三男です」

「知ってるわ?」


 ジョンがうつむいたままなので、ディアドラはジョンの旋毛を見つめる。


「引き継げる爵位はありません。これから軍属になるので地位もまだ持ってはいません。貴女に求婚できるだけの物を持っていません。でも、必ず手に入れます。それまで待ってもらえませんか?」

「……えっと?」

「求婚の……」


 ディアドラが困惑する脇で、外野が騒がしくなった。


「求婚!?」

「えぇ!?」


 ジョンが咳払いをすると、外野は静かになる。


「求婚の予告です」


「予告……」

「どういう事ですか?」


 再び騒がしくなった外野は、ジョンからチラリと向けられた視線により静かになった。


「予告?今はしないのね?」

「今の俺には、ディア様のご家族を説得出来る地位も名誉も財産もありません。ですが、必ず手に入れます。それまで待っていてもらえませんか?」


 伏せていた顔を上げ、ディアドラの瞳を覗き込んだ。


「貴女がいなくなったと聞いた時、貴女を失うのではないかと思いました。貴女の側で貴女を守りたい」

「爵位を新たに得るのは簡単ではないのよ?軍で出世するのだって時間がかかるわ」


 ジョンは、ディアドラの指摘を静かに頷いた。

 大きな戦争の無い今の時代、褒賞として爵位が与えられる事は少なく、軍で出世るすのも時間がかかる。


「待っている間に私が行き遅れになったらどうしてくれるの?」

「その時は俺がディア様をもらいます」

「ふぅん。だったら、問題無いんじゃないかしら」


 それまで難しい顔をしていたディアドラが、不意に茶目っ気たっぷりに笑った。


「そうなると、私たちは、どういう関係になるのかしら?」


 感極まったジョンは、ディアドラを抱きしめた。


「……恋人に……愛しています」

「私もよ」


 抱きしめられたままのディアドラの言葉にジョンはさらに強く抱きしめた。

 少しの間、盛り上がる二人のために大人しくしていたウィルフレッドだったが、ジョンに抱きしめられたディアドラが肩を震わせた事に気が付いた。


「待て待て待て待て!」


 ジョンの襟首を掴むと、ディアドラから引きはがす。


「ジョン……今、何しようとした?」

「…………何も?」


 ジョンはウィルフレッドから視線をそらした。ディアドラに目をやると、ディアドラは赤面してうつむいた。

 ディアドラの背中の仮止めの糸は切れたままで、ジョンから借りた上着を羽織っているだけだ。


「……アン嬢。侍女を呼んでくれ。そろそろ身だしなみを整えた方が良い。ジョン、今後俺の従妹殿と会う時は、俺が同席するからな」

「そんな……」

「正式な婚約者であれば、そんな無粋な真似はしない。従妹殿に醜聞は駄目だ。アン穣、二人でディアを守るぞ」

「は、はい!ディア様のためなら!」

「……」


 こうして、ディアドラには五月蠅い小舅が張り付く事が決定した。

 小舅が張り付いた結果、例の噂は真実味を帯びて、更に尾ひれが付いた噂が流れる結果となった。

 ディアドラとジョンが無事に婚約するまでその噂が消える事は無かった。

最後までお付き合い頂きありがとうございます。

初心者の私がここまで書けたのは、お読みいただいた皆様のおかげです。

ありがとうございます。

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