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――数週間後。




私の怪我もすっかり良くなった。






そんなある日の夕方――、




新堂君がいつもより遅い時間に帰宅した。




「ミャウゥー?(新堂君、どこ行ってたの?)」


私が話し掛けると、新堂君はとても哀しそうな顔で私を抱き上げた。




「ピーチ……」




「ニャア~ン?(どうしたの?)」






新堂君は暫く腕の中で私の頭を撫でた後、意外な事を口にした。




「俺、好きな子がいるんだけどさ……」




(え……っ!?)




「ここ最近、ずっと見かけなくて気になってその子のクラスメイトに


 訊いたら……怪我で入院してるって……」




(……新堂君、好きな人がいたんだ……? ショック……)




「今日、その子が入院してる病院に行って来たんだ……」




(それで遅くなったんだ?)




「……けど、その子……息はしてるのに、意識がなくて……」


新堂君はとても辛そうで……今にも泣き出してしまいそうだった。




「まるで……死んでるみたいだった……」




(死んでる……?)




「俺がいくら名前を呼んでも、話し掛けても……無反応だった……、


 いつも俺が『門倉さん』って呼んだら、すぐに振り向いて笑ってくれたのに……」




(……え? “門倉さん”?)




「その子さ……“萌々”って言う名前なんだ。可愛いだろ?」




「二、ニャーン……(う、うん……)」


(わ……私っ!?)




「実は、おまえの名前、その子の名前から取ったんだよ。


 本当は“桃”じゃなくて“萌々”なんだけどな、“桃”の ピーチ」




(そうだったんだ……)




「……門倉さん、大丈夫かな? このまま目が覚めなかったら……」




(新堂君……)




「ニャオー(大丈夫だよー)」




「あはは、ピーチ、俺を慰めてくれてるのか?」




(じゃなくて……私、絶対、“代わり”を見つけるからっ)


だって……そうすれば、私は人間の姿で再び新堂君の前に姿を現す事が出来るんだもん。




「慰めてくれたお礼って訳じゃないけど、明日は学校休みだし、久々に何も予定無いから、


 いっぱい遊んでやれるぞ?


 おまえの傷もだいぶ良くなって来たし、天気がよかったら公園にでも散歩に行くか♪」




「ニャウー♪(やったー♪)」






     ◆  ◆  ◆






――夜、




新堂君と晩御飯を食べた後、彼の膝の上で一緒にテレビを見ていると、携帯が鳴った。


着信表示を見るなり眉間に皺を寄せる新堂君。




(?)




「……もしもし?」


そして、ちょっとだけ不機嫌そうな声で話し始めた。




(新堂君がこんな嫌そうな顔するのって……誰からだろ?)




会話の内容までは聞き取れないけれど、新堂君の携帯の向こうからは


微かに女の子の声が聞こえた。




(……誰?)




なんとなく聞き覚えのある声だけど……




(んー? 誰だっけ……?)




その後――、




私が考えている間に電話終了。




「ピーチ、ごめん……せっかく明日は休みだからゆっくり一緒に遊べると思ってたのに、


 予定が入っちゃったよ……」




「ニゥー?(えー、何?)」




「同じ高校の子なんだけどさ、なんか話があるんだって……呼び出された」




(それって……告白とかじゃないの?)




「断ろうと思ったのに……強引に電話切られた。


 けど、なるべく早く帰って来るから」


そう言って優しく私の頭を撫でる新堂君。




「ピーチ? 怒ったのか?」


頭を撫でられても何も反応しないでいると、私が怒ったと思ったのか


彼はちょっと困り顔で私を抱き上げた。




(怒ってないけど、このまま無反応だと新堂君はどういう反応するかな?)




「ごめんって……機嫌直せよ……」


そう言って優しく長い指先で私の頭を撫でて……




そして、チュッと小さく音を立てて軽くキスをした。




(え……)




「今の、俺のファーストキスなんだぞ? おまえに捧げるから、機嫌直せ?」




(し、新堂君……)




「……て、おまえにとってもファーストキスだよな?」




「ニ、ニゥ……(う、うん……)」




「お、やっと反応した。女の子ってやっぱキスに弱いのか?」




(し、新堂君、それはー……何から得た情報?)






     ◆  ◆  ◆






――翌朝。




「じゃあ、ピーチ、すぐ戻って来るから。大人しく待っててな?」


午前十時前、新堂君は出掛けていった。




(こっそりついて行っちゃおっかなー?)


大人しく待ってなんかいられない。


だって、誰と会うのかすごく気になるもん。


私はいつも少しだけ開いてる窓から外に出た。






彼に気付かれないようについて行くと、駅前の通りに出た。




(電車に乗るのかな?)


もしそうならこれ以上の尾行は出来ない。


しかし、それでも一応ついて行く。




すると彼は駅の近くにある公園に入った。


私も後に続いて入ると、すべり台やブランコの遊具の向こう、


一番奥のベンチに私と同い年くらいの女の子が座っていた。




その子へと近づく新堂君。




(待ち合わせの相手ってあの子かな? なんとなく


 見た事がある気がするけど……誰だろう?)


顔を確かめたくてそろりそろりと近づいてみる。




新堂君がその女の子の前に立つと、彼女はゆっくりと恥ずかしそうに顔を上げた。




(……あ)


その女の子の顔がはっきり見えた瞬間、私は自分の予感が的中したのだと感じた。


だって、いつも何かと新堂君にぴったりくっついているあの伊崎奈保子だったから――。

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