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【Web版】無華の花嫁2~花開く乙女は、お妃教育の先で黒薔薇の殿下に溺愛される~  作者: 木風


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第一話 隣室のはじまり①

「あ、あの……ごじょ……じゃない、暁臣様……これは……」


 今日からここが私の部屋だと連れてこられたのは、暁臣様のお隣のお部屋だった。


 暁臣様の執務室や私室に招かれる度、隣からコンコンと何かが打ち付けられるような、控えめな工事の音が響いていたのは知っていた。

 廊下ですれ違う職人の姿も、漆の匂いも。

 けれど……まさか、私のための部屋を用意してくださっていたなんて。

 想像すら、したこともなかった。


「浴室や水回りなどがこの部屋には無かったからな。だいぶ過ごしやすくなったはずだ」


 暁臣様が淡々と告げる。

 その声は落ち着いているのに、どこか満足げで、目を細める様子が少しだけ柔らかい。

 視線の先では、使用人たちが次々に豪奢な家具を運び入れていた。


 天蓋付きの大きなベッド。

 柔らかな曲線を描くソファ。

 繊細な彫刻が施されたテーブル……そして、艶やかな桐のタンス。


 どれもが真新しく、私のために誂えられたことが一目でわかるほどに光り輝いている。

 カーテンや寝具は、私の『すみれ』と言う名に合わせた、可憐で上品な薄紫色で統一されていた。

 陽光が布地をすり抜け、淡い色の影が床に落ちる。

 そのきらめきが、眩しさだけでなく、胸の奥の痛い所まで照らしてくる気がして、思わず息を呑んだ。


「……婚儀を済ませたら、この部屋と俺の部屋を繋ぐ内扉をつけるのもいいな」

「こ、こんぎ……っ!?」


 不意に耳元で囁かれた言葉に、心臓が跳ね上がる。

 鼓動の音が自分の耳の内側で鳴って、熱が頬に集まっていくのがわかる。


 そ、そうか……暁臣様との婚約が決まったと言うことは、いつかは、本当にこの方と夫婦になると言うことで……。


 ずっと、淡雪のようにいつかは消えてしまう夢ではないかと思っていたこの日々が、熱を持って、急激に現実味を帯びて迫ってくる。

 怖い。

 けれど、それ以上に、離したくないと思ってしまう自分がいるのが、もっと怖い。


 この世界では、誰しも生まれながらに『華の加護』と『異能』を持って生まれる。


 牡丹や菊は武家に多く、桜や藤は芸や学に秀でた者に好んで現れる。

 薔薇は希少で、その中でも黒を帯びた薔薇は皇族にしか現れない——

 目の前にいる宮家である五条家嫡男である暁臣様……その希少である薔薇の中、『王華』とも言われる『黒薔薇』という唯一無二の『異能』ゆえに、誰とも触れ合えない。


 そして、私は……誰しも持つはずの『華』を持たずに、『無華』の証である、左右で色が違うこげ茶と紫の瞳を持っている。

 生母は亡くなる直前まで私のこの眼に怯え、間もなくやってきた継母と妹は私を虐げた。


 そのまま、ひっそりと蔵の中で隠れるように死んでいくとばかり思っていたのに。


『無華』だからなのか、暁臣様と触れ合えることで、そんな私が、暁臣様と婚約をするなんて……今でも夢なのではないかと思ってしまう。


 ほんの一年前まで、仄暗い蔵で暮らしていたのに……


 今の私に与えられた部屋は、保護されてから身を寄せていた客室よりは、ほんの少しだけ狭い。

 けれど、かつて朝霞の家で追い詰められていた、あの冷たく湿った蔵の何倍も広くて、明るくて……そして何より、優しい風が吹き抜けていく。


 ベランダには色とりどりのプランターが並べられ、春を待つ蕾たちが、大切に、大切に土に守られていた。

 まだ固い芽の先に、ほんの小さな緑が覗いている。

 私の知らない所で、季節はちゃんと前に進んでいる。


 ほんの数カ月前は、吹き付ける雪の中で凍え、誰にも見つけてもらえない暗い蔵の中で、薄汚れた布団に蹲っていたのに。

 今ではこんなに陽の当たる場所で、何かに怯え、隠れるように息を潜める必要もない。


 そして……何より。

 今、こうして暁臣様の膝の上に抱えられているなんて……。


 薄鼠色の絹の和服を纏った暁臣様の腕が、私の腰をしっかりと、けれど壊れ物を扱うような慎重さで引き寄せている。

 指が帯の上で止まり、力を込め直す気配がする。

 その体温が、背中から私の中に溶け出してくるようで、頭がどうにかなってしまいそうだった。


 肩越しに届く呼吸は静かで、近い。

 近いのに、触れられることを許す距離を、暁臣様はいつも丁寧に選んでくださる。

 それが嬉しくて、同時に、私にはもったいなくて、胸がきゅっと縮む。


 毎朝、目が覚めるたびに『やはりすべては幻だったのではないか』と怖くなる。

 一度この優しさに触れることを知ってしまったら、もうあの暗闇には二度と戻れない。


「……でも、私なんかに、こんなに良くしていただくなんて」

「気にするな。すみれはもう、この家の客人ではないのだから。それと——」


 暁臣様はそこで言葉を区切ると、私の頬を包み込むように手を添えた。

 手袋越しではない、素手の温かさ。

 指先が触れた場所から、痺れるように熱が広がって、瞬きの回数を忘れてしまう。


「だいぶ過ぎてしまったが、誕生日プレゼントだ」

「たんじょうび……?」

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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