29.冒険の記憶 ~勇者と聖女~
~Side聖女キュイーネ~
わたくしは最新の報告書を読み終わって嘆息した。
今日もあの方の探索は徒労に終わったようだ。
今紀魔王たるサターニャを倒した後に行方不明となった。
これはわたくしの計画にはなかったことだ。
本当ならば今頃、わたくしが所属する聖教テッラの祭司にまずはなって頂く予定だったのに。
権力を濫用するつもりだったのに。
そうしてゆくゆくはわたくしの夫に迎える予定だったのに。
計画が崩れてしまった。
思い出す。
冒険の途中で立ち寄った最初の街ムーラ。
まだ聖女とは呼ばれない、一介の祭司だったころ。
そこでケリーさんをめぐって勇者さんとやりあった生温かな会話を……。
「ケリーさん。まずは教会へ行きましょう。だいたい教会というのはその街の権力機構です。顔を通しておけば困ったときに多少の融通ならきかせてくれるはずです」
「何を力説してるんだか、キュイーネ。それより酒場に行こう。情報収集と行こうじゃないか」
「あなたはお酒を召し上がりたいだけでしょう、勇者ラゾミア?」
「まあまあ二人とも、ここは落ち着いて」
「わたくしはいつも冷静です。それで、ケリーさんはどっちについてくれるのですか? もちろん権力……コホン、教会ですよ、ね?」
「ケリーが教会になんて行きたがるかよ。行くならお前だけで行けばいいだろ」
バチバチとわたくしと勇者ラゾミアさんの間で火花が散った。
「こういう時のお作法は心得ています」
「やめとけよ。教会のお嬢様が無理することは―――」
わたくしは彼女が話している最中にしかけます。先手必勝は我が教会の教えです。聖典を自己解釈した結果、そうなりました。
しかし、さすが勇者さん。それを見越して向こうも同時に仕掛けてきました。
わたくしは無詠唱で聖魔力を放ち、彼女はそれに対して星魔力を放とうとします。
――――ですが。
ビクリ!
わたくしは突然、戦慄を覚えました。
次の瞬間、わたくしの聖魔力、そして勇者さんの星魔力が召し上げられました。
そして、その魔力は空へと放たれて―――
『ドーン』
と色とりどりの煌きを上げて爆発したのでした。
まるで花火のように。
街の人々は上空を見上げて、『今日はお祭りか?』とざわついています。
しかし、それをやった張本人をわたくしたちは知っています。
「参りましたね……」
「ああ、全くだ。あの速さで動く私たちから放出される魔力。それが魔法に転換される前に奪った」
「しかも二人分。別の動作をしているわたくしたちから、ですか。はあ」
「花火にして最後はごまかす妙技っぷりもな」
わたくしたちは顔を見合わせて嘆息します。
一方のケリーさんはと言えば、いつもの困った顔をして頭をかいていました。
「えっと、ほら、そこに屋台がある。美味しいものでも食べようじゃないか」
「ぷっ」
「ふふ、ふ」
「あれ?」
わたくし達が何で笑っているのか分からないようで、ケリーさんは困惑していらっしゃいます。
あれだけのことをやっておいて、その自覚がないのですもの。
はぁ、やれやれ。
「もう一度、参りました。あとわたくしは決して顔面は狙っていませんのよ?」
「キュイーネさ。お前は顔面さえ避ければセーフだと思ってるのかよ。反射で打ち返しちゃっただろ」
「ちょっと誘ってたくせに」
「んなことはない。でもまぁ、しかし、まだまだ敵わないなぁ」
それはもちろん、彼に向けた言葉だ。
しかし。
「ハハハ、ラゾミアさんの力は大したものだよ。キュイーネさんと互角ぐらいかな」
「いや、キュイーネには勝ってるって」
「え? でも今、敵わないって……」
「察し悪いなぁ。まぁそこがいいんだけど、さ」
そうそう。
そこがいいのです。
ただ、最後の最後で落第です。
ケリーさん。
今あなたは一体どこで、何をしているのでしょうか?
この世界全てを探しても、あなたの痕跡は見当たりません。
あの日から。
ふざけた置手紙を置いていなくなったアナタ。
ですがどこにいても大丈夫。
どこにいようとも―――
「このわたくしが必ず探し出してみせますわ。必ず。先に。わたくしが勇者さんを出し抜くチャンス到来なのですから!」
何事も前向きに。
わたくしが聖典を自己解釈した結果、得ることの出来た教えです。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
これにて第1章終了です。
しかし、ケリーたちの冒険はまだまだ続きます。
第2章もぜひお楽しみに!
なお。
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