25 食事会
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誰かが号令をかけるでもなく、食事が始まった。
山崎先輩の食欲はすごい。あっという間にちらし寿司が無くなっていく。それでも「握り寿司が恋しい」などと愚痴を漏らしていた。
「握り寿司のことよりも、新入生のことを気にするべきじゃないかな。先輩として」
幸坂先輩の指摘にも山崎先輩は箸の動きを止めなかった。食べながら器用に喋る。
「先輩がいくら考え抜いても、都合のいい新入生を用意することはできないと思うけどね」
「潤にしては真っ当な正論だね」
苦笑いしながら答える幸坂先輩を伺うと、気にしないで、と私に笑みが向けられる。
「なんとか今度について考えてみよう。チームを想定した講義は週明けから始まるだろうけど、さすがに学校側もいきなり全部の新入生がチームに組み込まれるとは想定していない。非常に少ないけど、例外はどこにでもあるからね」
「例外を切り捨てたら、物事、うまく回りませんもんねぇ」
他人事のように答える八一郎が何をしているかといえば、山崎先輩の隣に座ってあんみつを次々と用意していた。カップの中にパッキングされている寒天とフルーツと黒蜜を入れているのだ。そんなところはもう、山崎先輩の召使いだった。
「とりあえず、俺と満月は組むわけですけど、探求者候補生はどうすればいいんですか?」
八一郎の問いかけは、一瞬、宙に浮いた。
サッと山崎先輩があんみつのカップを手に取り、プラスチック製のスプーンでほとんど流し込むようにして一つを空にした。食事というか、処理という感じだ。味わっているようではないけど味わえているのかな。
口をモゴモゴさせながら、空いたカップを放り出した山崎先輩がやっと八一郎に答える。空のカップは八一郎が受け止めていた。
「どこかであぶれた生徒を引っ張り込むしかないね。すぐには手配できないけど、時間をかければなんとかなるでしょう」
「あぶれた生徒、ですか?」
不思議そうなは八一郎に「そうだよ」と答えたのは幸坂先輩だ。
「新入生に限らず、生徒の中にはグループに所属していない生徒もそれなりにいる」
「だって、それじゃあ、模擬戦はどうするんですか?」
「僕や潤がいい例だね。模擬戦に参加しないから即座に落第、というわけじゃないんだ。もちろん、まったく一度も模擬戦に参加しないで卒業することはおそらくできない。この学校は実践と実戦を学べることこそが最大の強みだし、それができる教育機関は魔法技専しかないわけ。でも、どこにでも変わり者はいるし、集団に馴染めない人もいる」
「私も葉太は変わり者ってことだね」
そうだねと笑う幸坂先輩の向かいで、山崎先輩は二リットルのペットボトルに直接に口をつけてコーラを飲んでいた。水を飲むにしても容易ではない速度でペットボトルの中身が消えていく。
その光景に私は気を飲まれていたけど、八一郎も、幸坂先輩も気にしていない。幸坂先輩は話を先へ進めていく。
「ともかく、まずはハチくんと石森さんには組んでもらって、二人で授業を受けるといい。組んでもらうも何も、僕は潤としか組まないし、潤も僕としか組まない以上、ハチくんと石森さんが組むしかないわけだけど」
あのぉ、と空になったペットボトルを受け取った八一郎が二人の先輩を交互に見る。
「やっぱり二人って、付き合ってますか?」
山崎先輩が新しいちらし寿司に取り掛かりながら、笑い声をあげた。向かいの席にいる私に米粒が飛んできそうだった。
「よく言われるけど、付き合ってはいない」
「付き合ってはいないけれど、親しくはある?」
話を続けようとした八一郎に、山崎先輩があっという間に完食したちらし寿司の器をポイっと投げる。
「つい最近まで中学生だったあなたには、二十歳にならんとする人間の気持ちはわからないのかもね。しかし、ああ、私も歳をとっちゃったな。私もハチくらい素朴で、純粋でいた時期があったなぁ」
「あった気もするね。何年前かは思い出せないけど。僕と出会う前かな」
ガン! といきなり山崎先輩がローテーブルを蹴りつけたので、衝撃で移動したテーブルそのものが幸坂先輩の膝頭を直撃した。
無言でうずくまる自分のパートナーに爆笑している女子生徒は、何か違う気がする。
「とにかく」
声を震わせながら、ちょっと目元に涙を滲ませながら幸坂先輩が私を見た。
「石森さんは、ハチくんと組んでもらいたい。僕たちでできるだけサポートはするから。安心していい、とは言えないけど、力にはなれるはずだから、もしもの時は頼って」
はい、と答えた私だけど、疑問があった。それも大きな疑問だ。
「あの、お二人とチームを組んでいた探求者候補生はどうされたんですか? もう卒業した、ということですか?」
その質問に、山崎先輩がやけに強い視線でこちらを見た気がしたけど、サングラスのおかげで直視しないで済んだ。その殺人的な視線から逃れるように幸坂先輩の方へ視線を転じると、難しげな顔をしていた。
「もしかして、聞いちゃまずかったですか? すみません」
とりあえず謝罪する私に、それでも二人とも答えなかった。八一郎も気になっているようだけど、彼も無言だった。
「ほ、本当にすみません」
私が本気で謝罪すると、気にしないで、と幸坂先輩が教えてくれた。
「いずれ、紹介するよ。まだ卒業はしていないから。ただ、彼こそ本当に変わり者だから」
「変わり者の中の変わり者ね」
今までになく苦り切った声で山崎先輩が後を受ける。
「あいつとは長い付き合いだけど、未だに人格の全てを知っているとは思えない。あれは奇人変人のお手本だわ」
奇人変人……?
まあまあ、と幸坂先輩が取り繕った。
「あれでも探求者候補生としては優秀だから、後輩にいいように作用する場面もあるよ。当の探求者候補生の後輩はいないわけだけど」
「まずはどこかで探さないとね、妥当な探求者候補生を。存在しない人間とチームは組めない。ま、その件は後回しにして、今はしっかり食べたら? 三人とも、お腹が空いているでしょう」
そんな言葉で山崎先輩は話を打ち切りたいようだったので、私は探求者候補生の先輩について確認するのをまたいつかにすると決めた。八一郎もそうすると決めたようだし、幸坂先輩も助かったという表情に見える。
「しかしね、潤」
幸坂先輩がソファに背中を預けながら、しみじみとした口調で言う。
「きみの食べっぷりを見ていると、それだけでお腹がいっぱいになる思いだよ」
「じゃあ、あなたの分のちらし寿司とあんみつとコーラはいらないってこと?」
「いいや、食べるよ。ほら、ハチくんも石森さんも、食べて食べて」
はい、と素直に八一郎は頷いているけれど、私は幸坂先輩に同意だった。どうも山崎先輩の食べっぷりを見ると、食欲がなくなってしまう。もっと言えば、気が引けてしまう。
手元にある二つのちらし寿司をどうしよう、と思っている私に、八一郎が声をかけてきた。
「ともかく、よろしく頼む、満月」
「こ、こちらこそ、お願いします」
ぺこりと頭を下げる八一郎に、私も頭を下げた。
こうして一応の形として、私はパートナーを見つけたのだった。それに、二人の先輩という存在も得ることができた。
先は見えなくても、少なくとも、一人きりで真っ暗な道を歩くことはなくなったようだった。
(続く)




