表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フルールの白いエマシン・四十男、異郷で人型マシンを駆る。  作者: ninth
【第01章】フルールの白いエマシン
4/7

【第04話】リン

エマシンと呼ばれる巨人に乗り込んだ俺は、操作方法をささやきへ問い掛けた。

即座にアームバングルの表面に、日本語で『同一姿勢』と浮かぶ。


「しゃがみ込んで、……こうか?」


地上から見上げていたエマシンの姿勢を思い出し、膝を突いて同じ態勢を取る。

その瞬間、強烈な違和感と共に、意識が何かへ嵌まり込んだ。


――目眩。視界が歪む。


景色が一変していた。

木々の背丈が縮み、枝も葉も小さく見える。

ふと視線を下げると、身に纏うのは漆黒の鎧。


俺は、巨人そのものになっていた。


足元で何かが動く。木陰に隠れ、こちらを見上げている少女の姿。

三十センチほどの人形のように小さく見えた。

どうやら身体感覚がエマシンに同期したらしい。


なぜ、こんなことが――?

考えるのは後回しだ。いまは現実に対応しなければならない。


「立ち上がる。離れていろ!」

「気をつけて!」

「名前は?」

「リンナライアナ!」

「長い。リンでいいな」

「あなたは!?」

「槇島悠人だ」


短いやり取りの後、リンが枝を踏みしめて走り去る。

背後では、バキバキと枝が折れる音。皮膚感覚で理解した。一体のエマシンが迫ってくる。


俺は振り向きながら立ち上がる――が、


「なんだ、これは、……遅すぎる」


まるで水中に沈められたかのように、動作が鈍い。夢の中のようなもどかしさだ。

だが確かに、エマシンは俺と完全にシンクロしている。


「動かすだけなら誰にでもできる、……そういう仕様か」


立ち上がるのに二秒。遅すぎる。

苛立ちを押し殺しながら、音のする方向へ視線を彷徨わせた。

やがて、木々の間から青い巨体が姿を現す。


右肩に担ぐのは八メートルの大剣。だがヒビだらけで、刃こぼれも酷い。

粗雑。手入れという概念を持っていないかのようだ。


「こちらは丸腰か……」


武器は何もない。腰にも、足元にも。

その時、青いエマシンが俺を指差し、怒鳴ってきた。


「おい! 何を突っ立ってやがる! 足元に女がいただろう! 逃がす気か、間抜け!」


……完全に味方だと思っている口ぶりだ。


「動け! ノロマ!!」


苛立ちの声を上げながら近付いてくる。二十メートル。十メートル――

全身を貫くような戦慄が走る。

濃密な悪意を皮膚全体に感じたからだ。


――やられる!?


本能に突き動かされ、俺の身体は反射的に動く。

だが遅い。重い。苛立ちが胸を焦がした。

車に例えるなら、アクセルを踏み込みながら、同時にブレーキをかけているような感覚。

理不尽な鈍さに、気が狂いそうだった。


「おい……? どうしたんだ……?」


青い巨人が戸惑う。


――仲間だと思い込んでいる間に!


気が逸るが、もつれているんじゃないかと疑うくらい、前へ出ない脚。

必死に動かして、漸く相手をリーチに捉えた。刹那、全力を込めて右拳を叩き込む。

狙うのは相手の右手。武器のハンデを解消するためだ。


「てめえ、何しやがる!?」


意に反したノロい拳が、相手の右腕を打ち付けた。取り落とした大剣が地面を転がる。

間を置かず、俺は左拳を叩き込み、さらに体当たりを食らわせた。


「イカレ野郎がッ!!」


巨木をなぎ倒しながら、呪詛を吐いた青いエマシンが仰向けに倒れていく。


「痛みは軽減されるのか……」


拳にも肩にも、微かな感触しか残らない。

なるほど、皮膚感覚はフィードバックされるが、邪魔にならない程度に調整されているらしい。


青いエマシンが、立ち上がろうとしていた。

追撃はしない。視線を逸らさずに後ずさる。


「……このあたりのはずだ」


足元を探る踵に重みのある固い感触。大剣だ。

急いで拾い上げると、突進する。

俺の振り上げている大剣を見て、相手が驚きの声を上げてくる。


「おい、待て、……やめろッ!」


躊躇はしない。

最大限の力を込めて振り下ろした大剣が、青い頭部を直撃した。

すかさず蹴り飛ばすと、悲鳴を上げて倒れた相手の腹に、大剣を叩きつける。

金属片が飛び散った――だが。


「……切れてない?」


食い込んだのは刃先だけ。

飛び散ったのは青い装甲よりも、大剣の破片が多かった。

再び、振り上げた大剣を、腹に叩きつける。

またもや砕けた無数の金属片が、辺りに、ぶちまけられた。


「何だ、この武器は……? 叩き切れないのか!?」


戸惑ったのは一瞬。

だが、その隙に青いエマシンが肘を突き、嘲りの言葉を吐いて、立ち上がろうとしてくる。


「カスみてぇな、ブロムだ! 効きやしねえ!!」


――ブロム……?

聞き慣れない言葉だが、多分、それが奴を断ち切れない原因に関係するのだろう。

考えながら、振り下ろした大剣を相手に打ち付けた。


「ぐッ……! 無駄なことをっ!!」

「斬れなくても、衝撃は伝わっている。違うか?」

「そのなまくらが、いつまでも保つと、ッ……!!」


再び叩きつけた大剣が、奴の言葉を断った。

さらに立ち上がろうと藻掻いてくる相手に、大剣の連撃を見舞う。

一撃ごとに、強烈な振動が両腕と足裏から伝ってくる。それにも関わらず、エマシンの胴体を断ち切れる気配が微塵も感じられない。


――もしかすると。


「ブロムというのは、エマシン固有の特殊な障壁なのか?」

「クソッ、こんな素人野郎に……ッ!!」

「外れてはない、といったところか。だが、分かったところで、……そうか!?」


――操縦房に直撃を受けなければ、即死はしないはず。


唐突に、リンの言葉が脳裏に浮かんだ。

逆手に持った大剣を振り上げると、切っ先を喉元へ向ける。

一気に振り下ろすと、明らかに手応えが違った。


「があッッ……!! ……や、止めろッ!!」


青い喉元に初めて、うっすらと凹みが出来、幾筋かの亀裂が走っていた。

再び切っ先を振り上げると、青い操縦房が勢いよく開き、入墨を彫った若い男が飛び出してくる。

着地と同時にうめき声を上げた。おかしな方向に曲がった右脚を引いて、逃げ出していく。振り向きさえしない。


「放っておくわけにもいかない」


つま先で地面を抉ると、大量の土砂を巻き上げる。

降り積もった土塊が、男の姿を覆い隠した。這い出してくる気配はない。


当面の危機は去った――そう思った途端。

怒りの余り、思わず胸の中で怒鳴った。


(何だ……このエマシンという代物はッ!!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ