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フルールの白いエマシン・四十男、異郷で人型マシンを駆る。  作者: ninth
【第01章】フルールの白いエマシン
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【第05話】ランデイン

俺の全身は、エマシンと同調していた。

戦闘を終えた今、右手に掴む大剣は刃こぼれだらけ。それにも関わらず、敵エマシンの胴体を断ち切れなかった。


激しすぎる怒りに全身が戦慄いている。

期待が完全に裏切られたからだ。

力任せに刃先を地面へ突き立てると、心の中で咆哮した。


(まず、とにかくだッ! 遅い! 動きが鈍すぎるッ!!)


メカニカルな外観から想像した俊敏さと、現実が驚愕するほど乖離している。

思い描いていた研ぎ澄まされた戦闘とは、遙かに懸け離れた暴力のぶつけ合い。

溢れ出る怒りが抑えられなかった。


(武器が貧弱すぎるせいだッ! 一撃で仕留められない武器に何の意味がある!?)


大剣が主兵装ならば、想定されるのは近接戦闘だ。

それなのに。


(盾は!? 副武装は!? 飛び道具だって有用だろう! 何故ない!?)


失意が苛立ちを加速させる。


――そして。


(なによりッ! このインターフェース! モーショントレース!? 違うだろうッ!)


初見の時から胸の内に燻っていた怒りが爆発する。

身体動作と五感。これらを同調するシステムは確かに完成度は高い。

だが、俺が望むのは「操縦している」という実感だった。

思い焦がれた操縦席。いつだって最も欲しいものは手に入らない。俺の歩んできた人生の縮図を表している。


思わず項垂れた事で、はっとした。無数の気泡が視界を埋め尽くしつつある。操縦房を満たす液体に生じているらしい。

これが見えると言うことは、エマシンとの同調が失われ始めている。

いや、……違う。それどころではない。俺の意識は、自分の身体さえすり抜けている。

途絶える視界の端に、少女――リンの姿が。

膝をついた衝撃。それが消えると。


――何も動かせない。


外界に干渉する術を失っている。

残されたのは意識だけだ。出来ることは「考えること」のみ。

失意と落胆、それに苛立ち。何れも勝手に期待をした結果、生じた理不尽な感情だ。これらからは何も生まれない。

だから、考えた。俺の望むエマシンを。


――俺だったら、こうする。


この思考が呼び水となり、俺の内側から膨大なイメージが溢れ出す。

まるで無意識の倉庫が扉を開いたかのようだ。

積もり積もったアイディアが思い起こされ、これらが組み合わさり、構想へと育っていく。

だが、その速度は遅く、組み上げるための道具としての知識が不足していた。


――もどかしい。


その時。


『権限:基本権』

『不可:エマシン改変』

『要求:承認者』


唐突に、文字が意識へ割り込んできた。

俺の意志ではない。外部からだ。


(誰だ……? エマシン……? いや、違う。ささやきか?)


問いかけに、ただ一文字。


『応』


(承認者? それは何だ? ……いや、違う。ここに居るのは俺だけだ。これを前提にした質問をしてくれ)


『可否:潜在意識接触』


潜在意識へのアクセスを許すか――そういうことか。

迷う理由はなかった。


(許可する!)


――これは、……何だ!?


意識の外側に空虚な空間が広がり、一瞬で膨大な情報で埋め尽くされていく。

洪水のような文字と映像。一つ一つを認識することが出来ない。

おそらく、一度目にしたまま無意識下に追いやっていた情報まで、記憶の全てが展開されているのだろう。


圧倒されている場合ではない。

溢れ出続ける膨大な案を、論理で束ね、構築し続けた。

理想のメカニズム。理想の姿。理想の武器――銃火器だけは、なぜか想起しても像を結ばなかった。

そして、理想のインターフェース。


再び、意識への割り込み。


『開始:権限更新』


何者かが、技能分野を漁り始める。

言語知識は、特に英語のあたり。プログラミング知識に関しては、構文構造を執拗に。

目当てのものを見つけたらしい。


『検知:基礎言語』 → 成功

『獲得:準実行権』

『検知:処理命令言語』 → 成功

『獲得:実行権』


やがて、頭の中に明確な「像」が立ち上がってくる――俺だけのエマシン。


主兵装は、もちろん刀だ。

過去に見た刀匠のドキュメンタリー。

資料集の図版。書物の文章。

無数の断片が統合され、相当な業物と思われる一振りの刀へと収束するが。


『不足:製法』


当然か。職人の身体感覚や経験値が、俺の記憶にあるはずがない。

諦めるしかないのか? ……いや、違う。現物がある。


(俺の腰に下げているもの。これは包丁だ。素材は違うが工程は刀に近い。これを解析して、不足情報を補ってくれ)


『解析:製法』 → 成功

『獲得:準特権』

『獲得:特権(一部)』→失敗

『終了:権限更新』


――意識が途絶する。


気づいた時、俺は半透明の椅子に座っていた。

腕は同じく半透明をした筒状のインターフェースに包まれ、手のひらにレバー、指先にはトリガー。足元は左右に五枚ずつのペダル。

三百六十度には周囲の光景が映し出されている。視界の高さは地上から、およそ四メートル。

エマシンの姿は映っていないので、空中に据えられた椅子に座っているように体感する。


――全天周モニター。そうだ。これでいい。


まさに、夢に見た「コクピット」だ。


周囲に視線を彷徨わせる。

無残に折れた大木、仰向けに倒れた青いエマシン、土砂の小山。

覚えている限り、どれも位置は変わっていない。

視界の上下左右の隅には、数字とアルファベットで様々な文字情報が表示されていた。


「この辺からも、情報を吸い上げたのかも知れない」


椅子の脇に置かれたバックパック。スマートフォン、ノートPCが入っている。

視界の正面に、小さな点滅があることに気づいた。


「……名前か?」


考えを巡らせる。

やや趣味が強すぎるかとも思ったが格好良い方が良い。


「ランデイン」


そう告げると、頭の中にエマシンのはっきりとしたイメージが伝わってきた。


「憶えきれない。文字で表示してくれ」


内壁に、文字情報が浮かぶ。


騎体:エマシン二類・第四世代ハイランカ

名称:ランデイン

全高:8.2メートル

重量:2.1トン(本体)、2.8トン(全備)

動力:ソルボルト大×3基、中×12基、小×48基

武装:日本刀×3、盾×1、石弩×1、弓矢×80、粘着弾射出口×2

技能:放射線遮断・自己修復・衝撃移動

操法:思念伝達・物理インターフェース・コマンド入力

特記:ブロム有効範囲0~70メートル


「基本スペックは分かった。二つ知りたいことがある。まず動力とするソルボルトとは何だ?」

『発電/蓄電/給電機構』

「燃料は?」

『不要』

「つまりエマシンは補給なしで稼働し続ける。その通りか?」

『応』

「……次だ。ブロムとは何だ?」

『干渉型障壁』


青いエマシンとの戦闘を思い出す。相手の悪意が皮膚に伝わってきた感覚。あれが干渉なのだろう。


「一般的にブロムの有効範囲は十メートル程度。その強度には個体差がある。正しいか?」

『応』


唐突に小さな音が右側から響く。注意を引くような電子音だ。

巨木の根元で何かが動いていた。意識を向けると四角い画面が内壁に現れる。拡大映像だ。

不安げに見上げてくる少女の姿。リンだ。


「無事か?」


発した声が、増幅されて外部へ発信される。


「大丈夫? ずっと動かなかったけど? 何があったの?」


エマシンの外装に届いたリンの声が、操縦房で再現される。

内と外のコミュケーションには問題はなかった。


「何分くらい経っている」

「三十分くらいだと思うけど。ねえ? 本当に大丈夫?」

「問題ない。立ち上がる。念のため木の陰に隠れてくれ」


足元のペダルを踏み込み、思念を重ねる。

ランデインは立ち上がった。

驚異的な速さ。一秒にも満たない。物音さえないスムーズな動作。

先ほどまでの鈍重さは微塵もなかった。


木陰から顔を覗かせたリンの金髪が風にそよぐ。

目を見開き、息を呑んでいた。


「……本当に再構築したんだ。信じられない」

「珍しいことなのか?」

「聞いたこともない……エマシンの再構築は一度きり。起るのは初めて人が乗った時だけ……それなのに……」


不意に眩しそうに目を細める。

雲間から差し込んだ月明かりをランデインが反射したせいらしい。

ゆっくりと上下へ視線を這わせたリンの目が輝いていた。


「……綺麗。エマシンとは思えない」

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