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異世界で会いたくない人たち

「さぁ~ってと。これでホントにお家に帰れるね」


「うん」


 生産者ギルドを出てすぐフローラは大きく伸びをした。外はすっかり日が暮れ、いわば宵の口といったところだ。


 それでも商店の多いこの辺りは賑わっており、多くの人が行きかっている。

 昨日の僕はこの道を雨の中一人でトボトボ歩いていた。

 そんな僕が不思議なめぐり合わせに恵まれ、今日はフローラと二人の帰り道。


 同じ道を歩いているのに、昨日とはまるで違う心持だった。


「ボーっとしちゃってどうしたの? もしかして講習で疲れちゃった?」


「そんな事ないよ。元気いっぱい」


「ふーん、そんな風には見えなかったけど」


「……」


 僕が感慨深くしてるとボーっとしているように見えるらしい。

 今の気持ちをわざわざ説明するのもどうかと思ったので、僕はそれ以上何も言わずに歩いた。


「あ、今日はね、工房の掃除をしてたのよ。レンがすぐに使えるように」


「え、そうだったの?」


「もともと近いうちに掃除しなきゃって思ってたから丁度良かった。昨日よりは少しマシになってるはずよ」


「僕が使わせてもらうんだから、僕が掃除するのに」


「こういうのは男の子の仕事じゃないでしょ。暇だったし、別に気にしないで」


「……そう言えばフローラって、普段どんなことをしてるの?」


「あっ、いま人の事を無職透明のぷ~子ちゃんだって思ったでしょ? 失礼ね!」


「い、いや。別にそんな事は……」


「私だってちゃんと働いてます。パン屋さんとか仕立屋さんとか、普段は色々なところにお手伝いに行ってるの」


「へぇ、フローラって何でもできるんだ」


「何でもなんて大げさねぇ。顔見知りのお店で使ってもらってるだけよ」


「ふぅん……」


 お父さんの保険金があるような話を聞いたけど、それでも仕事をしてるらしい。

 僕と同じくらいの年なのに、やっぱり彼女はしっかり者だ。

 と、ここでひとつの素朴な疑問が浮かんでしまった。


「フローラって、錬金術師になろうとは思わなかったの?」


「いきなり何を言い出すのよ。私が錬金術師?」


「だって、立派なお父さんの才能を引き継いでいるかもしれないじゃないか」


「お父さんみたいに日がな一日工房にこもって孤独に研究や実験をするのは嫌。気分が滅入っちゃうわ」


「それは明日から僕がやろうとしている事なんだけど……」


「あは、ホントね。という訳で、私は錬金術師に向いてないって事」


 確かに錬金術はフローラのイメージと少し違う。

 彼女の明るさや優しさは、きっともっと違う事に向いている気がする。それが何かと聞かれたら困るけど──。

 って、それが分かる不思議な儀式がこの異世界にはあるじゃないか。


「レンったら、妙な顔してるけどどうしたの?」


「冒険者ギルドに行った時の事を思い出してたんだよ。僕、そこで星見の儀っていうのをやったんだ」


「それ聞いた。レンはそれで錬金術師に向いているって言われたのよね」


「それで……フローラってどんな星の配列が出たのかなって、ふと思ったんだ」


「知らない。私はアレ、一度もやった事ないもん」


「どうして? すごく便利な儀式じゃないか」


「便利かもしれないけど、自分の生き方が勝手に決められちゃう気がして嫌なのよ」


「……なるほど」


「自分に何が向いてるのかは、自分で見つけたいの。もしかしたら見つからないかもしれないけど、それはそれで私の人生って事ね」


 そう言ってフローラは屈託なく笑う。

 どっちが合理的かは比べるまでもないが、彼女の考え方には一理ある。


 自分の才能を知り、それを受け入れて進むのも人生だし、才能のあるなしに関わらずやりたい事をやるのも人生だ。

 どちらが幸せな生き方か、それはきっと周りの人間が決める事じゃない。


「あ、だからってレンの事を否定してる訳じゃないのよ? キチンと自分の才能を調べてそれを伸ばそうと努力するのってすごく素敵な事だと思うし」


「僕の場合、冒険者ギルドに登録しようとして何が何だか分からないうちにやらされただけだから」


「レンに冒険者なんて絶対無理に決まってるわ。儀式をやるまでもないじゃない」


「今から思えばその通りなんだけど……」


 もしもなれるとしたら、剣を振るう前衛は無理だとしてもそれを支援する後衛ジョブかと思っていた。 

まさかそれすら叶わず弾かれるとは、異世界は本当に世知辛い。


「ま、レンの進む道は錬金術師に決まっちゃった訳だし。応援してあげるから頑張って」


「ありがと。そのつもりだよ」


「あと、本当に工房の名前をレンの名前にしなくていいの?」


「え……あぁ。もしかしてドリスさんに聞いた?」


「そ。レンが色々考えてるみたいだから、前向きに考えて欲しいって」


 僕が言うより早く、ドリスさんの方から前もって説明してくれていたらしい。それはきっと先輩錬金術師として心遣いの一つだろう。


「それは、フローラが良ければだけど。ダメならまた別の名前を考えるよ」


「お父さんの名前を使ってくれるなら、私は嬉しいけど……でも、本当に?」


「僕はそれが一番いいと思うんだ。あそこはフローラとお父さんのものだし、僕もフローラのお父さんに追いつけるようにって……もちろん、今の僕は何もできないんだけど」


「レン……」


「でも頑張ってみる……だからダメかな? あの工房を『マグヌス・アルベルトゥス工房』として使うのは」


「……ありがとう。そんな風に言ってもらえて、嬉しい」


「お礼を言われる事じゃないよ。お礼を言うのは僕の方なんだから」


「私、レンに工房を使ってもらえることを感謝しなくっちゃ。明日はお仕事お休みして、工房がもっとピカピカになるまでお掃除するわ!」


「い、いや掃除は僕がするから大丈夫だってば」


 もしかしたら少しは喜んでくれるかなぁと思ったけど、フローラの喜びようは想像を絶するものだった。

 必要な掃除は僕がやればいい話なので、彼女はキチンと仕事に行った方が良い。


 ともあれ、無事にフローラの許可がもらえた事で懸念は全て無くなった。

 これでようやく錬金術師としての登録が全て済む事になる。


 明日もう一度ギルドに行って、ドリスさんにこの事を伝えなくっちゃ──。


「あれぇ?」


「え?」


「おい、お前レンじゃねぇか。何だか変わった格好してんなぁ」


「マジで? つーか、ちゃんと生きてんじゃん」


「あ……」


「……あら、お友達?」


 同じ街にいるんだから充分あり得る事なのに、全く想像していない事態だった。

 見知ったクラスメートが数人、連れ立って夜の町を歩いていた。

 フローラと一緒の今は何となく会いたくなかった。


 だけど、会ってしまった。

 

 

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