咲く花散る花 9
『はい、両者とも揃ったみたいですね』
アリーナ上部の巨大モニターにモモコが映し出された。
『ここから先の進行及び審判はわたくしモモコが務めさせていただきます。最初に、ルールと注意事項を改めて確認しましょう。持ち込める武器は学園から支給された剣のみ、ですね。一本の剣のみを用いて戦い、先に相手方の大将のクビを奪った方が勝ちです』
「クビ……」陶香はごくりと息を呑む。
『この学園におけるクビとは、今あなた方の首にかけられたリボンのことを指します』
そう言われて、陶香は自身のリボンに目を落とした。見事な臙脂色に艶めいている。
『なお、制限時間は設けられていないため、勝負がつくまで戦を続けてもらいます。ここまではよろしいですか?』
二人は同時に頷いた。
『次に注意事項です。戦中にフィールド内から許可なく退出する行為、相手に対しての度が越した危険行為等を発見した場合はイエローカードが課されます。このイエローカードが三枚貯まった場合には強制退学という処置を取らせていただきますのでご了承ください。この他にも、観客席に直接危険が及ぶ行為等が見受けられましたら、わたくしの方から警告させていただきます』
モモコは淡々と告げた。
『それでは三十秒後、法螺貝の合図とともに戦を開始します。それぞれ所定の位置へ移動してください』
画面がぱっと切り替わり、戦闘開始までのカウントダウンが映し出される。
陶香は少し考えた後、一旦壁際に寄り、凪から距離を取ることにした。
まもなく、戦いの火蓋が落とされる。
ポーポポーポーと、法螺貝の音が鳴り渡る。
それを合図としてドーム全体が段々と暗くなり、やがて真っ暗になった。
陶香はその場から一歩も動かずにいた。じっとして明転するのを待っていると、いきなり目の前が明るくなり、反射的に目の前に手をかざす。おそるおそる指の間から様子を窺う。
そこは海辺だった。
(……え?)
きょろきょろと辺りを見回す。凪の姿も見当たらない。つい先程まで広大なアリーナにいたはずが、今は見知らぬ海辺にぽつんと一人。
陶香は戸惑いながらも、波打ち際に近づき、水面に手を伸ばした。が、するりとさざなみが擦り抜けていっただけで何も掴めない。
(……そういうことか)
陶香は顔を上げて水平線を眺める。今いるこの場所はモモコによって作り出された仮想空間なのだ。
海はどこまでも穏やかだった。心地の良い潮騒の音が耳朶をさらりと撫でては引いていく。ほんのり潮の匂いまで漂っている。小さい頃に行った避暑地の海に似ていると思った。あれはまだ、小学生のとき。家族全員で、電車を乗り継いで海に行ったのだ。浜辺に出ていた屋台で冷やしパインを買ってもらい、磯辺で食べた。兄の昌也と一緒に拾った貝殻やシーグラスはとっくの昔に捨ててしまった。思い出の中の海はいつも虚しいくらいに青く澄み渡っている。
本当なら、この景色を心ゆくまで眺めて癒されていたいところだが、そうもいかない。今は戦の最中である。集中しなければ、と襟を正す。