支柱のない心
「ーーで、話ってなんでよ蛇姫?」
俺は突然、蛇姫から話があると外に呼び出された。ぱっと見はすごく落ち着いており、というか覇気がなく、俺を襲ってきそうな様子は窺えない。
「まさか・・・本当に俺を襲おうってのか?ここにはアリアさん筆頭に俺より強い人たくさんいんだかんな、変な気起こすなよ」
「違うわ戯け!であればわざわざあのような大勢の前で斯様な場所に誘わん蛇ろ!」
ここはギルドの庭のような場所で、ものすごく開けていて人目につきやすい。襲うならこんなところではなく夜道にでもやればいい。
「・・・それに、妾が貴様を喰ろうたところで、もう帰る場所なぞありはせんの蛇」
・・・そんなセリフそんなしみったれた顔で言わないでくれるかなぁ。敵なのに心配になっちゃうだろうが。
「あー、その、なんだ・・・そのことについては・・・災難だったな」
「・・・貴様、何故妾を助けたの蛇?貴様にメリットなどなかろう。それとも、可愛そうな奴ならどんな奴でも助けるのかえ?とんだ愚か者蛇のぉ」
皮肉をいう蛇姫だが、その言葉に重みがない。思ってない、とかではないだろうが。
「なんで、ねぇ。正直、そんなこと言われてもわからんとしか」
「なっ!よくわからず助けてその上こうして普通に話とると言いたいのか?馬鹿なん蛇ないか?!」
「言葉に活力が戻ったかと思えばディスりかよ。・・・まぁなんというか、家族とか仲間に裏切られるってさ、すごいきついだろ。実際あの時のお前、あぁ、もう死んだほうがマシだ、みたいな顔してたし、その気持ちは分かる。多分俺もあの状況だったらそう考えると思うよ」
俺の紡ぐ言葉に蛇姫は大人しく聞いている。本当に俺の話を聞きにきたらしい。にしても、助けた理由を自分で語るってのは恥ずいものだ。
「俺さ、後から知ったんだけど、実は親に殺されかけてたんだよ」
「・・・はっ?親に殺される?」
「まぁ正確には奴隷みたいに扱われて、ご主人様いない間に死にかけたって話なんだが。どうだ?お前の不幸話に追いついてる?」
「・・・貴様は、それを知って何故、そうもヘラヘラとしておれる?恨んではおらんのか!」
蛇姫は激昂気味に俺に食いかかる。その様子は、まるで今の自分を否定されたことを認めたくない子供のように見えた。
自分は家族・仲間に裏切られた。殺されかけた。目の前の男はそんな自分と似た境遇にいるにも関わらず、気にもしていないようにヘラヘラと笑っている。自分はずっと気にしているのに、自分はずっと受け入れられずにいるのに。そんなもやもやとした気持ちをぶつけているように見えた。
「別に恨んではないかな。最終的に俺の知らないところで反省してくれてたみたいだし、最後は俺のこと愛してくれたみたいだからさ。それに、今こうして幸せなのも、あれがあったからだって思ってる。勿論あってよかったなんて思ってねぇよ!だけど、今はあの人達に「産んでくれてありがとう」って・・・言いたいかな!」
俺は今報われている。周りにたくさん人がいて、その人たちは俺のことを見捨てたりしなかった。多分今後もそんなんだと、勝手に確信できる。そんな人達だ。そして俺は彼ら彼女らに恩を返したい、あの人達のために頑張りたい!そう思える。
今の蛇姫にはそれがないのだろう。俺はティルザさんのおかげで過去を知ることが出来た。嫌なことも知ったけど、同時に見てよかったとも思えた。
だが蛇姫は違う。蛇姫が見た過去は俺たちも見ていて、それは絶望に飲み込まれるには十分すぎるものだった。ここで向ける言葉は「気にするな」ではない。そんなこと、できるなら既にやっているという話だ。
蛇姫は既に俺たちに対し敵意はない。そして今俺の時のように代わりに支えてくれる存在がいない。であれば俺が取るべき選択はーー
「ーー蛇姫、俺と一緒に行動してみないか?」
「ーーは?」
蛇姫は素っ頓狂な声をあげた。ここにもし別の人物がいても同じ反応を見せただろう。こいつは俺の命を狙った敵だ。そいつと一緒に行動しようと言っている。馬鹿なことを言っていることなど百も承知だ。
「き、貴様、何を考えておるん蛇?妾は敵蛇ぞ?貴様を喰おうとしたん蛇ぞ?それを許すというのか?」
「だーかーらー、ダンジョンでも言ったがその件について許す気はねぇよ!てか許される気になんなよ、お前を喰うために来ましたって言われた時の恐怖お前しらねぇだろ?」
蛇姫は俯き、若干申し訳なさそうな顔をしているように見える。というより居た堪れないというほうが近いのだろうか?とにかく顔を俯かせ黙っている。
「で、では・・・何故妾にそんなことを?」
「俺は過去のお前は許してない。でもだからって、未来のお前まで無理やり敵視するつもりはないってことだ。仮にお前に反逆の意思が感じられたんならこんなことは言わんが、もう別に人間襲う気ないんだろ?」
「・・・人間は、嫌い蛇。奴らは妾たちを襲い、殺した。中には皮を剥ぎ取られるものもおった。ダンジョンでは妾たちはついでに殺される存在、またまたそこにおったから殺す、その程度としか奴らは妾たちをみておらんの蛇。そんな人間が・・・たまらなく嫌い蛇。十脳最強になれば人間を駆逐できると思っとった。まぁ、ただの幻想だったがの」
「・・・まぁ、同情はする部分はあるよ。だけどさ、お前だって弟殺したんだろ?ほら、水魔法の」
「あれは!・・・殺してはおらん。妾の代わりに華蛇が殺し、妾に差し出してきたの蛇。それを口に含んだに過ぎん」
・・・なるほどね、こいつ自身は殺していないと。それにしても今の問答、一点引っかかる。それは華蛇についてだ。
「なぁ、お前華蛇についてどう思ってる?」
「なん蛇?煽っとるのか?」
「んなつもりあったらもっと別の煽りするよ。じゃなくてだな、あいつ、本当にお前のこと裏切ったと思うか?」
「・・・一体何を?華蛇は確かに妾をーー」
そう、確かに裏切った。これは紛れもない事実だ。だが俺はそれだけだとは思えない。それにはいくつか根拠がある。
「まずあいつの態度、口では確かに裏切ったとしか思えないだろうな。だけど、俺には一瞬辛そうな顔をしてるように見えた。まぁこれに関しては俺の憶測の可能性が高いが」
そして俺は話を続ける。
「2点目、さっさとお前を裏切らずにずっと後ろに付いていたことだ。これは明らかにおかしい」
「嘲笑いたかった、とか蛇ろどうせ」
「そう卑屈になんなよ。じゃあ考えてみろ、明らかに自分より弱くて、組織的にお前に喰わせないって知ってたろうに、それでもお前に協力する意味はなんだ?少なくとも俺は、あいつがお前の邪魔をしているとは思えなかったが」
「・・・蛇が・・・妾をどん底に落とすための作戦でーー」
「じゃあ3点目、これはあの回復女が言ってたことだが、華蛇はお前をけしかけるのをずっと反対していたようだが?お前も聞いてたよな、これ」
「ーーッ!・・・確かに、行っておった。・・・分からん、妾は何もかも分からん。華蛇の考えておることも、貴様が何をしたいのかも」
何をしたいのか。そう言われると困るな。特に何かしたくてこんな話をしてるんじゃない。なんとなく、そんな顔してる奴を見たくないってくらいか・・・あぁ、これが動機ね。
「そんな顔されたくない。お前がそうやって死にそうな顔をしてると、こっちまでもやもやとしてくんだよ。具体的には昔の俺を想起させる。だからさ、お前がちょっとでも前向けるように手伝わせろ!・・・これじゃ説明になってねぇか?」
蛇姫は呆然としている。目をぱちくりとさせ、口を閉じることを忘れている。俺の言葉が信用ならないのだろうか?
「・・・ははっ!なん蛇その答え!其方にはよくというのがないのかえ?」
「俺に会った人みんなそう言うよなぁ。自分が叶えたいことは是が非でも叶える。これって十分欲深いと思ってるんだが、違うもんか?」
「違う蛇ろうな、少なくとも傍目からは違う。其方馬鹿なん蛇のぉ、妾を助けた時点で知っておったがーーって、妾は何普通に話しとるん蛇?」
自身が意気揚々と話していることに今更ながら気づいた蛇姫。髪をぐしゃぐしゃと掻き毟りながら困惑している。
「んだよ、普通に話せんだな!そういう顔してた方がいいと思うぜ。まぁあとは言葉遣いは直すべきだとは思うが。ーーまぁとにかく、俺の近くにいれば華蛇のやつと会う機会も訪れるだろうしさ、ちょっと一緒にいてみるつもりはないか?」
「・・・妾はーー」
ーーその時、突如遠くの方で爆発音が鳴り響いた。その方向を見てみると、町の一帯から炎が立ち込めており、なおも爆発音が鳴り響いている。
「・・・なんだ・・・これ?・・・ッ!おい蛇姫!お前はここでじっとしてろ!俺はちょっと確認してくる!」
俺は嫌な予感がし、その爆発源に向かって走り出した。
「・・・逃げ出すとは思わんのか?にしてもあの爆発・・・一体何蛇?」
そしてその時、燃え盛る建物の中に、3人の人影が映った。
「ここに脳無しがいるってのは本当なんだろうか。嘘だったら疲労で溶ける」
「知らないよ、華蛇様の情報だ。信用性には大きくかける。だが、くる価値はあると思う音」
「それもそうだが、ここに蛇姫の野郎もいんだろ?|十脳だとか言って粋がってやがったあの雌をぶっ殺せるチャンスだ!速攻で殺ってやんよ!」
3つの牙が蓮、そして蛇姫に襲い掛かろうとしている。蓮と彼はの距離は刻々と近づきつつある。




