敵対の軍隊
犬頭が暗闇を掛けて通路先の魔物を喰らう。
血飛沫が上がり、骨が折れたような鈍い音が反響する。
現れる魔物はほぼ二頭の犬頭だけで処理が出来た。魔力の補給にもなるし一石二鳥。
楽でいい。
それを繰り返しつつ足を進めると、しばらくして小規模空間に出る。
「ここを抜ければ、あとすこしか」
アジ・ダハーカが棲まう大規模空間の手前まで来た。
「あとすこしだってわかると、浮つくもんだな」
はやくはやくと、自分自身に急かされているような気分がする。
常に焦燥感を抱えているような妙な気分だ。
「まぁ、無理もないか」
これまで色んなことがあった。ありすぎた。
いったい何度死線を潜っただろう。いったい何度救われたことだろう。
お陰で誰一人として人間を殺すことなく、人間の魂のままでここまで辿り着けた。
残る道筋はあとすこしだ。
「落ち着け……」
逸る気持ちを抑え付け、犬頭を撫でる。
柔らかい毛並みの感触を得て、気持ちを落ち着かせた。
「くーん」
気持ちいいのか手の平に頭を押しつけてくる。
それを見てもう片方の犬頭もすり寄ってきた。
「ふー……よし」
いくぶんか落ち着けたのでそろそろ撫でるのを辞めようかと思った、そのとき。
不意に犬頭が手から離れ、牙を剥き出しにして唸り始める。
睨み付けているのは、先ほど自分たちが通ってきた通路だった。
「グルルルルルルル」
その訳はすぐに理解できた。
この小規模空間に来訪者が現れたからだ。
「……」
それは鎧の音を鳴らし、規則的な歩行で列をなす軍隊のような者たち。
彼らは俺と犬頭を見るなり、足を止めて対峙した。
「スケルトン……なのか? まぁ、いい。直ちに排除する」
その宣言のもと、軍隊の全員が得物を引き抜く。
いきなり敵対行動に出られてしまった。
まぁ、それはしようがない。
今までだってそうだったし、こういう状況には慣れっこだ。
「待ってくれ」
「な、しゃべっただと!?」
もはや見慣れた反応だけれど、軍隊は驚いて動揺が走る。
「こっちに敵対の意思はない。武器を納めてくれ」
そう言うと彼らは顔を見合わせる。
そうして数秒して再び視線がこちらを向いた。
「作戦を成功させるためにも、イレギュラーは排除する」
得物が再び正しく構えられ、交戦の意思がはっきりと示される。
雄々しい雄叫びが上がり、軍隊が押し寄せてきた。
「くそ、問答無用かよ」
突き放たれる槍をかわして掴み取り、半ばから折って無力化する。
同時に振るわれた剣は犬頭がその牙で噛み砕いた。
それでも勢いは衰えることを知らず、それに対処しているとあっと言う間に囲まれてしまった。
今のところ大した脅威ではないけれど、なにを隠しているかわかったものじゃあない。
ここでうだうだしているよりも、アジ・ダハーカの棲む大規模空間に逃げたほうが状況は幾分かマシかも知れない。
「付き合ってられないな」
背中に生えた両翼を羽ばたいて飛翔し、風を地面に叩き付ける。
周囲を取り囲んでいた兵士たちは、押し寄せる風圧に翻弄されて隊列が乱れていた。
「怯むな! 撃ち落とせ!」
魔法が付与されているのか、七色に輝く矢の雨が降る。
虹のようで綺麗なものだが、こちらの虹霓だって負けていない。
右手に虹霓刀を構築し、その一振りで矢の雨を払う。
各属性が降り注ぐ矢を消滅させ、そのまま小規模空間を抜けようと羽ばたいた。
「ま、まずい! あのスケルトン、アジ・ダハーカのもとに!」
「追え! 合流されると厄介だ! 我々の作戦が狂う!」
彼らもアジ・ダハーカに用があるのか?
だとすれば、武装した軍隊であることから目的は恐らく討伐だろう。
だから不安材料である俺をこの場で排除して起きたかったのか。
「面倒なことになったな」
これまでは異種族の人たちと上手く協力できていたけれど。
あの様子だと完全に敵対してしまってどうにもならなそうだ。
第一印象が悪すぎる。今更、仲良く手を繋いで共同戦線とはいかないだろう。
今回は一人も味方のいない、孤独な戦いになりそうだ。
「いや、精霊がいるか」
そんな風に思いつつ、小規模空間を抜けて通路を飛行する。
そのまま羽ばたいていれば、この先は大規模空間だ。
アジ・ダハーカの三つ頭が首を長くして待っている。
途中であの軍隊に邪魔されないといいが。
「そう言えば……」
彼らはなんという種族だ?
やけに人間に近い体格と容姿をしていたように見えたけれど。
更新お待たせしました。
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