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勇者と子育て9



「ごめんなさいお母さん、僕のせいで...」

「そんなこと気にしなくていいのよ。元はと言えばアルスが悪いんだし!」


私達親子は逃亡生活をしていた。

私が眠っている間のことらしいんだけど、夜中にアルスが夜這いに来てそれをリューが押い返してくれたらしい。

そんで怒ったアルスが兵士に告げ口したせいで私達は村を出ることになった。

夜這い失敗して告げ口なんてどんな子供だ! 自分が悪い癖に!!


朝起きたら物凄い剣幕で兵士が詰め寄って来たからまじでびびった。

大勢でわーわー騒いでて何言ってるんだか分からないし、いきなり剣で襲い掛かってくるんだよ? 信じられない。

なんて兵士に命令したの? 「あの女は私に逆らったから殺せ」...とか?

...酷いじゃん。けっこう信頼してたのにさ。


思い出してブルーになっていた私の手をリューがぎゅっと握ってくれる。

そうだ、私がしっかりしないと。

これからはこの子と二人だけで生きていかなければならないんだから!

それというのも、私達が逃亡生活を始めて少ししてリューの異変に気付いたからだ。

リューの紫で綺麗だった目が、いつの間にか赤色に変わってきていたのだ。

その赤味は日に日に増して今は赤紫の瞳になっているし、それだけじゃなく両耳の上にまだ小さいながら角が生えてきた。

これではもう人間として生活するのは無理だと思い、現在は二人だけで生きていける人里離れた安全な場所を目指して旅をしている。

基本狩りや果物や野菜などを採取して自給自足で生活しているが、それでも時々どうしても必要な物があり町や村に寄ることがあった。

そこで私達がお尋ね者になっていることを知って驚いた。

お陰で変化や幻惑魔法で別人に見せながら買い物をすることになったのだ。

だがこの魔法にはそれぞれ難点がある。

変化魔法は魔力の消費が激しく、長時間使用し続けることが出来ない。

旅の間は魔物と戦ったり色々と魔力を使うし、出来るだけ無駄な魔力の消費は避けたい。

そして幻惑魔法は魔力消費は少なくて済むが触られればおかしいことに気付かれるし、幻惑に掛からない、または破ることの出来る人間がいるのだ。


だから出来るだけ町や村に行くのは避けているが、まだ子供のリューに苦労を掛けて申し訳なく思っている。

リューはいい子だからお母さんと二人だけでいられて嬉しいなんて本当に嬉しそうに言ってくれる。

いつも楽しそうにしてるけど本当は辛いのかも知れないのに、そんな気持ちおくびにも出さない。

でも本当は私だってもっと色んな人に出逢い沢山の経験や友達を作って、いつか恋だってしてもらいたい。

あの村ではまだ遠巻きにされていたから友達だって出来なかったし、リューは親しい人を作る喜びも知らない。

だから私だけいればいいなんて、そんな悲しいことを言うんだ。

人間なら当たり前な生活を魔族だというだけで知らないなんて...


「ごめんねリュー」

「もうお母さんってば! 僕は幸せだってずっと言ってるよ?」


ぎゅっと抱き締めて言えばぎゅっと抱き締め返してくれる。

こんなに優しいリューが、狭い世界しか知らないでこんな逃亡生活をしてるなんて...

じっと見詰める私を見てリューは困ったように笑った。


「そんなに僕の言葉が信用できない?」

「そうじゃないの。リューはお母さんしかいないからそう思ってるだけなんだよ。

色んな人と出逢って親しくなって友達が出来たり、そういったことを知らないから二人だけで幸せだって思えるだけなんだよ?」


そんな私の言葉にリューは心底困ったって顔をした。

知らないことを上手く教えられないで困ってるのはお母さんの方だよ。

どう言えば伝わるのかな?


「ねぇ、お母さんは大事なことを忘れてるよ? 僕が人間じゃなく魔族だってこと。

お母さんの言うそれは人間の場合でしょ?

僕は魔族だから一人でいるのが好きだし、赤の他人と一緒にいるなんて苦痛以外のなにものでもないよ。

例外なのはお母さんだけ。分かった?」


そう言われたってそんなの分かんないじゃん、実際に私しかリューの側にいなかったんだから。

そんな私の考えを読んだのかリューはちょっと怒った顔をした。


「...そう、ならいいよ。分からせてあげるから」


不敵に笑ったリューの目が赤味を増していき、その体からはバキバキと骨が折れるような不吉な音が響き出す。


「リュっ、リュー!? 大丈夫なの!!?」


慌てて近寄りアワアワするしかない私の目の前で、リューは変貌を遂げていく。

髪や手足が長くなり、2、3cmほどだった角が大きく赤くなっていく。

俯いているため顔は見えないが髪の色素はどんどん薄くなっている。

そうして音が止み成長の止まったリューの体は8歳の子供ではなく、14、5程の見た目になっていた。

身長も私を越えているが、俯いているし髪が肩辺りまで長くなった為顔は見えない。

そうして俯いていた顔がゆっくり上がると、血のように真っ赤な目と目が合い、私は息を止めた。


その姿は私が倒した魔王と瓜二つだった。


その可能性を考えなかったわけじゃない。でも違う可能性にばかり目を向けていた。

だって私は魔王を倒す為に召喚されて魔王もその家族も殺したのだ。

そんな私が魔王の子供を育てていたなんて、なんて最低なことをしていたんだろう。

今のリューに表情はない。

その端整な顔に見詰められると、今まで私がしていたことを責められているように感じた。


「リューは...私が憎い? お父さんや家族を、仲間達を殺した私が」

「まさか! 言ったでしょう? 魔族に情なんてないって!

唯一あるのは伴侶へと思いだけ、梨花への愛だけですよ」


情けなくも震える声で質問した私に、リューはその顔に満面の笑顔を浮かべて答えてくれた。

恨んでないと言ってもらえて良かった。それに魔族にお互いへの情がないというのが本当ならあまり気負わなくてよくなる。

それでも私がリューのお父さん達を殺した事実は変わらない。


...しかし今、伴侶って言った? 梨花への愛ってリュー? 貴方なに言ってるの、私は母親ですよ。

それになんでどんどん迫って来るかな!?

思わず後ずさってしまう。

なんかめっちゃ色気駄々漏れなんですが!?

急に大人っぽくなっちゃうしお母さんを名前呼びとか、困惑ですよ!!

しかもあの魔王と被るから死んだ人に会ってるような微妙な気持ち...とにかくメチャクチャ混乱してる!!


「かっ、体は大丈夫なの!? こんなに急成長して!」

「梨花と一緒にいる為に成長を抑えていただけだから寧ろスッキリしたよ。

これなら小さすぎて物足りないなんてことも大きすぎて痛いなんてこともないし大丈夫だからね」


満面の笑顔でおかしなことを口走りながらもどんどん近付いてくるし、背中が木にぶつかってそれ以上下がれなくなった。


「大丈夫、最初は優しくするから」

「最初ってなにを!!?」

「うん、私がどれだけ君を愛してるか教えてあげるね」

「ちょっ! んぅっ!?」


いきなりキスされてもうわけ分からん!!

舌を絡める濃厚なのされちゃうし、お母さんどうしたらいいの!?

唇を離してもらえたときには立っていられなくてリューに支えられてたし。

それにふと気付いて周りを見ると森の中にいたはずなのに、なんか豪華な部屋にいて驚いた。

...リューってば転移使えたみたい。

そのまま抱え上げられベッドに連れていかれ、...色々されてしまった。


母親なのに...





それから私達はここに住んでいるのだが、ここって魔王城なんだよね。

生き残ってた魔族に掃除させてたみたいで(思念飛ばして命令できるらしい)、どの部屋も綺麗だし前みたいに暗く鬱々としてない。

やっぱりリューは次代の魔王なのかな? ちょっと不安だ。

全部私と二人で生活する為に準備してたみたいだ。

なんて言うか以外と策略家な子だったんだね。お母さんは純粋無垢な子だと思ってたよ。

あっ、もうお母さんじゃないや。こっ、恋人?

うん、まだ私の気持ちは複雑だけど色々してしまったしやっぱ恋人かな。

寧ろ夫...


「どうしたの梨花? そんなに赤い顔して」

「うひゃっ! 何でもにゃいです!!」

「そう? ふふ、私の奥さんは可愛いねぇ」


緊張して噛んでしまった私の頬を優しく撫でる、だっ、旦那様。

優しげに細目られたその顔を見て、恥ずかしくて俯く。

リューに対して恋なんてはっきりとは言えないけれど、恋愛感情に近い気持ちは持てるようになってきた。

エッ、エッチなことだって回数こなして慣れてきたし。少しは...

それでも、あれから更に成長したリューの姿は私が殺した魔王と本当にそっくりで、彼の顔を見る度チクリと罪悪感が胸に刺さるのだ。

だから彼の顔を見るのが好きだけど、無意識に見ないようにしてしまう。

彼はそんな私の様子にクスリと笑って、ぎゅっと抱き締めてくる。


「梨花は可愛い」


そう言って私の頭にチュッチュッとキスの雨を降らせる。

恥ずかしくて顔を上げられない私に構うことなくリューは続け、耐えられなくなった私が音を上げるまで続いた。

赤くなった顔のまま見上げると、慈しむように私を見るリューがいた。

あの魔王とそっくりな顔に浮かべられる表情は似ているけれど違くて、本当に愛しい者を見る目で私を見てくれる。

それでも思い出してしまうのだ。

大好きなリューの父親を私は殺したんだと、彼の顔を、髪を、目を見る度に思うのだ。


「リューは優しいね」

「そうかな? そんなことないと思うけど」


いつも私を一番に気に掛けて、いつもずっと一緒にいてくれる。

そんなリューは凄く優しくて過保護だと思う。

でもそれを彼は否定して、私をそっと抱き上げベッドに運んでくれる。

横たえた私の上に覆い被さると私を見詰めて微笑むのだ。


「愛してるよ梨花」


またチクリと胸が痛んだ。



息子が殺した相手と同じ顔になるなんて嫌ですね。顔を見る度微妙な気持ちになりそうです。

リューは自分の顔を見て自分を殺したことを気に病む梨花を見て興奮してます。

変態なので。

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