(3)
そして、棒立ちになる私は正気に戻った。
何を私は考えているんだ。
誰か助けを呼ぶ?
違う、私が行くんだ。
逃げていたんだ、今まで。
今ならわかる気がする、あいつの言葉。
人間に上下関係はないって・・・・・・
その時ちょうどドアが開いた。
「え!?愛!?」
「麻耶っ!」
扉が開いた。見かねた麻耶が出てきたのだ。
「な、なんでここに!」
そんなことはお構いなしに私はすぐに外に出た。
「ちょ、ちょっと!愛!」
麻耶もその後ろを追いかけてきた。
すぐ裏に行くと、あの光景がまた見えた。
「もうやめてぇ!」
そう叫ぶと、全員が一斉にこっちを向いた。
今こんなことを考えちゃいけない、でも私はあいつの顔を見たとき思ってしまった。
そして久しぶりに見るあいつの顔は、その時、本当にかっこよく、愛おしかった。。
※ ※ ※
碧波が・・・・・来たのか。
目はほとんど血と腫れで前が見えなかった。
何ミリかとしかひらかない目を開けて、見ると、そこには何日かぶりの碧波の姿
があった。
「何してるの、葛城くん!」
「え?あ、愛ちゃん!?」
碧波はすぐに俺のもとに走ってきて、俺をひきづって、少し葛城たちから距
離を置いて俺をだく。
く、苦しい、いてぇ。
「なんで、なんでこんなことするの!?葛城くん!麻耶!」
「え!?だ、だって、愛がストーカーされてるって・・・」
「されてるわけないじゃん!別に弱みを握られたわけでもなんでもない!そんなの
逆だよ!?いつも、あたしを助けてくれたし、水族館のときだって、助けてくれたの
はこいつなの!」
「えぇ!?」
加藤はいろんな話が混ざって少し混乱している。。
「あ、碧波・・・」
「ごめん、私、本当にごめん・・・・・」
碧波の涙が俺の顔にポタポタとたれてくる。その顔は本当に優しくて暖かかった。
久しぶりに触れた暖かさだった。
この暖かさに触れられただけでも、やられた甲斐はあったと思う。
「あんたのこと恥ずかしいとか、私馬鹿だった!そんなのありえないのに、ただの被
害妄想で。本当に私・・・馬鹿だった・・・・自分が恥ずかしい」
「ああ」
「そんな私の身勝手なせいであんたがいじめられて、こんなにされて、本当はもっと
強いくせに、あんなやつら倒せるくせに・・・・何もしないで、私のために」
聞いてたのか・・・・・・・・・
でも、分かってくれたんだな。それだけで十分さ。
「そ、そんな!?じゃあ、葛城くんが嘘言ってるの!?」
加藤がそう呼ぶといきなり葛城の態度が変わった。
「ちっ、この女、ふざけんなよ!てめぇ、でしゃばりやがって、いいから俺のもんに
なれよぉ!なぁ!」
そう言って、碧波に近寄ってくる葛城。
「来ないで!あなたは最低よ!」
「ああ?ふざけんなよ?誰に向かって口きいてやがる」
そう言ってどんどん近寄ってくる。
俺を守るためか怖いのか、俺をギュッと強く抱きしめる。そして伝わってきた、小
さくだが震えている。また涙をいっぱい貯めて・・・・・・
「おらぁ、こっちこい!」
そう言って、碧波の腕を掴む!
周りもその葛城の豹変ぶりに声も何も出ない。
「や、やめて!」
そう叫ぶ。
もう、限界だな。
ガシっ。
「なっ!?てめぇ!」
「あ、あんた!」
俺はやつの手首を握る。
「ああ?死にぞこないが!」
「もう、限界だ」
「あぁ!?」
俺は掴んだ腕を見ると、やはりな。
「麻薬か」
見れば腕に妙な跡がある。これは注射型の麻薬だ。
そう言うと葛城自身も周りも一斉に驚く。麻薬なんて高校生にも回るものなのかま
あ、あのおかしさを考えればすぐにわかるけどな。それに売ったのは捕まったあとだ
な。捕まる前だったら警察にもバレているだろう。
「そうだよ!?あぁ?だからどうしたぁ?今の俺は人ひとり殺すのに抵抗はねぇ
ぞ?」
瞬間胸ポケットからバタフライナイフを取り出した。
「ひぃ!?」
不良どもと加藤は一斉に後ずさった。そして不良のひとりが逃げていった。
俺は碧波を俺の後ろに追いやる。
「に、にげないと、早く逃げないと」
碧波は心配そうに俺を見てくる。でも、ここで逃げたら何も変わんねぇだろ。
やんなきゃいけないときはあるよな。この状態で碧波を連れて逃げるのは不可
能だ。足にガタが来ちまってる。ならもうやるしかねぇよ。
「おらぁ!」
「きゃぁ!」
葛城は俺にナイフを振ってくる。
それに加藤は悲鳴をあげる。俺は紙一重でなんとかそれを交わすがそのあとの反撃
できない。体が思うように動かない。いくら俺でもここまで痛めつけられたのは初め
てだ。怪我の反動でいつもの動きができない。それに加え、奴はピンピンしてる。
まずはやつを止めないと話にならない。
「おらおらぁ!」
ブンブンと素人同然のナイフさばきで、俺に襲いかかる。
なんとか、逃げるようにそれを俺は交わすが、反撃ができない。交わすので精一杯
だ。
そこで、逃げていると、いきなりだった。葛城は俺の斜め後方を見た。
その目の先にいるのは―――――!?
「おらぁ!」
碧波!?
「碧波!」
「え!?」
くそ、なんとか間に合う、でもこいつを止めなきゃ突破されてコイツはこの状態じ
ゃ絶対碧波に襲いかかるだろう。
周りのやめろだとか、やめてだとかの声は聞こえるが、止めに入る気はないらしい。
そりゃそうだ、相手はナイフを持ってる、もう殺人鬼とかしてるんだからな。
もう、止める方法これっきゃねぇだろ!
―――肉をたって骨をたつ―――
「っらぁぁぁぁぁ!」
碧波の眼前にナイフが迫る、そして、
ぐさァァァ!
血吹雪とともにナイフが皮膚を貫き、奥へ奥へと貫かれる。
「え!?」
加藤たちはその光景を見て、顔が真っ青になる。
そして、碧波の顔も真っ青になる。
「こ、このっ!」
「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
痛い。痛いと表現できない痛みが俺の手のひら全体に襲う。
いまやつが持つナイフは俺の手のひらを貫通し、まだ奥につこうとしている。
完全に殺しに来ている。
でも、これ・・・・・捕まえただろ。
俺はもう片方の手でやつのナイフを持つ右手首を掴む。
「なっ、はなしやがれやがれぇぇぇ!」
「れ、蓮!あんた!」
もう、うではふさがっちまった。どうする、殴れる腕は・・・・・・
この貫かれている腕しかないよな。
「こ、このっ!」
奴は引けないとわかるとさらにナイフを押してくる。
くっ。
まあ、どっかで聞いたセリフだけど・・・・
――安いもんだろ、片手の平、一本くらい―――
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ブチブチブチ!肉が咲かれ音が鳴り響く。漫画のようにすっとは抜けなかった。
俺はナイフの刺さっている腕をそのナイフから一気に引きぬく。
瞬間俺のてからはものすごい血の量だった。
右手でやつの右手、そして今俺の左手は空いている。
一撃ブチ込むくらいの体力はあるだろ。
「なっ!?抜いた!?」
「キャァ!!」
加藤らはこの光景を見た瞬間、自分の左手を握り、悲鳴を上げた。自分に刺さって
るような感覚だったんだろう、見てる痛みを共感するっていう、よくあることだ。
でも、本人のほうがもっと痛てぇぞ、ばかやろう!
ぜってぇ、ぶっ飛ばしてやる。今日だけは解禁だこらぁ!?
「うらぁああああああああああああああああああ!」
ドォォン!
大砲のような音と共に葛城の体は5m以上吹き飛んでいた。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・んぁ・・・・」
くそ、痛い、痛すぎてヤバイ。ナイフで刺されたの初めてだ、これ。
とそこにだった。
「おい!何してるんだ!?」
担任の山口がほかの教師を引き連れて、屋上に来た。
そうか、あの逃げた奴が呼んだのか。ただのチキンじゃなくて助かった。
吹き飛んんだ葛城を見てみると、完全に伸びていた。ハモ何本か折れている。
「蓮!」
碧波が俺のもとへ走ってくる。ああ、号泣しちゃってるよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんだ、急に碧波の顔がゆがみ始めた。なんだこれ、こいつこんなスライムみたい
だったか?
「え!?ねぇ!どうしたのよ!?」
俺はその場に倒れ込んだ。
そして、俺はだんだん・・・・・・意識を・・・・・・・・
教師たちも集まってくる。
「おい!救急車だ!動脈を切られてる!出血の量がすごい!」
そうか・・・・血がないのか・・・・・
昔は有り余ってるとか思ってたけど、やっぱり常人なんだよな・・・・
そしていつの間にか、意識を失っていた。最後に聞いたのは碧波の泣き叫ぶ声だけ
だった。




