Ⅰ18.尽力令嬢は聞き流した。
「えと…ネフェルちゃん、良かったの?」
私達と同じ馬車で、…そう聞いてみると、即座に「もちろんです」と返って来る。
なら良いけど…。ただでさえ、今日ネフェルちゃんから話しかけてくれたことにも驚いたのに、まさかここまで懐かれる?とは思っていなかった。
私に懐いたんじゃなくてお兄様やティーアちゃんに懐いた可能性も否めないけれど。
そして、沈黙が続き始める。
……お兄様は何考えているか分からないし、ネフェルちゃんは満足そうに微笑んでいる。
助けを求めるようにキャンディさんを見てみれば、彼女も珍しく何かを考えているのかぼーっと窓の外を見あげていた。
だけど、すぐに私の視線に気付いたキャンディさんは、私に向かって「そういえば…」と口を開く。
「先程、実家に手紙を送りました!…国外なので少々時間はかかるのですが…」
「あ、ありがとうございます…!」
お兄様はそれに反応して「呪いの件か…」と呟いた。
そう、呪い。第三作目以降に登場した設定なのだが、ファンの間で遡って、第一作目のラスボス呪い使ってた説が轟かれていたから、ちょっと気になって…。
ラスボスの魔力器は呪ではあったけれど、基本魔力器呪と呪いは別扱いされていることが公式サイトからも、そしてティーアちゃんの公言からも明らかになっている。だからこそと言えばいいのか、それでもと言えばいいのかは分からないけれども、それ以上公式では特に言及されては無かったんだけど、特徴とかは魔力器呪よりも呪いの方がピッタリ当てはまってて。
クンペルや精霊という第三作目以降の設定がこの世界にあるとなれば、呪いもあるのだろうと思ったのだ。
ティーアちゃんに詳しく聞きたいことも他に沢山あるけど、それでも他の伝手があるのはありがたい。
それに、さっきの会話でも気になった点があるんだよね…。
ティーアちゃんとうーちゃん先輩、リーくんって言ってた。そのリーくんが誰なのかは分からないけれど、…王国騎士団長になったリーくん、って。
…最終決戦で出てきてたんだよなぁぁああ…。
それも、敵、…でも、確かもう死んでる状態だった筈。それが操られて…騎士を目指す攻略対象者の元に現れていた。アレも屍兵だった…?だとすれば、やっぱりこの前の出来事はラスボスと関係がある?…しかも、スーって……
「…フィーナ?」
隣に座るお兄様に声を掛けられる。
窓の外に目線を向ければ、もう既に王城に着いていたらしく、…外にはモーセ達やティーアちゃん達の姿が見える。
お兄様の手を取りそのまま馬車を出てれば、ネフェルちゃんも飛び出てきた。
「良い?2人とも、…特にうーちゃん」
ティーアちゃんは…と顔を向ければ、精霊様方に何かを説いているかのようだった。
「私はティーア、分かってる?」
ネフェルちゃん達は「当たり前じゃん…」みたいな顔をしている。
ただし、ティーアちゃんは至って真面目な顔でそう言い切っていた。
「はい! ティーアちゃんはティーアちゃん!よっソレイユ王国ちょうてーん!」
「ちがぁぁぁあああう!!!」
うーちゃん先輩とティーアちゃんが噛み合わない会話を交わしている。
……うん、…うん。聞きたいけど聞けなさそう…?
「…セラフィーナ様、行きましょう、…ティーア様も早くなさってください!」
そんなことを思っていると、ネフェルちゃんがめっちゃ近くまで来ていて、ナチュラルに私の腕を掴みながら格好良くも可愛らしくそう言い放った。少し頬が膨らんでいるので相当怒っているのだろう。
…それとも、これがクーデレなのか…?
言われてみればそうだよね、早くしないと。ネフェルちゃんってば有能すぎ!…私達が脱線し過ぎなのかも。
「とにかく!何かあったら私が請け負うので!行こう、ティーアちゃん!」
「ちょっと待ってネフェルさん?!なんで私も様…!?」
「あっ…ごめんなさい…?」
すかさずミリアムさんが口を開く。
そういえば、初めて会った時のミリアムさんもティーアちゃんのこと様付けで呼んでたっけ。私もティーア様って呼びたいなぁと思いつつ、それを呑気に眺めることにする。
「その、多分私が言ってたのを聞いてて……?」
「それもあります。でも本当に凄い方だったんだなって」
「いやいやいやいや、そんなに凄くなんかな…」
「そうでしょうそうでしょう!ティーアちゃんは凄いんですから♪」
「うーちゃん!?!!」
可愛い全開である彼女達を目の前に、私は鼻血が出そうになるのをぐっと堪える。国王陛下に会うのに鼻血ブシャーだったら流石にしんどいだろうて。
「……え〜、君達、そろそろ良いかな?」
そして、若干引いたような声が聞こえてくる。
振り向けば、苦笑い状態の人が一人立っており、彼の後ろにはロータスさんが頬を赤く染めながら視線をそらしていた。
「すみません、ジャンルカ宰相殿…」
「いえ!元気があるのは微笑ましいことですとも」
お兄様が一声かければ、我が国ソレイユ王国が宰相、ジャンルカ殿は手を振りながら笑顔で応答する。宰相だと分かったからか、さっきまで騒いでいた皆は一瞬で押し黙る。…うーちゃん先輩以外。
なんとかうーちゃん先輩を黙らせたティーアちゃんは、後ろにいるロータスさんの所まで歩いていく。
「行きましょう」
しれーっと“私何もしてません”みたいな表情を浮かべるティーアちゃんなんだけど……それは流石に無理あるってばよ。
そんな事を考えながらキョロキョロとしてみれば、皆も同じような表情だったので良しとしよう。
ー
それから、国王陛下の元にたどり着いた私達。
場所はティーアちゃんの学園行きが決まった部屋。中に入ってみれば、アスタさん含めたカモミート家、昨日見たタリティ男爵家当主様とアロンさん、それに何故かお母様もいる。
国王陛下の隣には昨日の騎士達もいるし、学園行きが決まった時「国王陛下になんと無礼な…」みたいなことを言っていた騎士もいた。あの人、実は第一番隊の隊長らしい。
あと、昨日のモヤシもね。
これはこれでオールスターズだな…と思いつつ、先導を切ってくれるジャンルカ殿とお兄様についていく。
そして、私達は陛下に向かって頭を下げた。
うーちゃん先輩はハテナを浮かべながら納得行っていないという感じだったけれど、皆…特にティーアちゃんが頭を下げたタイミングで同じように倣う。
「…面を上げよ、」
そう言われ、顔を上げる私達。
国王陛下は若干疲れているかのようで、この前見かけた時よりもげっそりしているような気がした。誰かに生気吸い取られてたりして。
「まずは、昨日の件についてだが…、君達のお陰で被害を最低限に抑えられたことは認めよう。」
国王陛下がそう口を開く中、うーちゃん先輩の口を押さえるティーアちゃん。
一応周り気にしてるっぽいけど、意味ないくらい堂々としてるよ?…国王陛下は…やっぱり疲れてる。
あれかな、またお前かみたいに思われてるんかな。
そうだよねぇ、ただでさえ4年程前ティーアちゃんと精霊王がどーのこーのってかん……あれ、スピリット様どこ???と考えた所で…
『面倒くさいことはしない主義なんだ✩』
頭の中にそう響いてくる。逃げたなこの方。
ティーアちゃんもハッと気が付き、そのまま悔しそうに頬を膨らました。
うーちゃん先輩はティーアちゃんと居れるのが嬉しいからか、昨日からずっと離れないんだよね。
ゲームでは、クリスティーナ様が亡くなってから水精霊になったって言ってたし、2人共何か想う事があるのだろう。
…再会出来て良かったな。
うーちゃん先輩、ゲームより生き生きしてる。…主人公ちゃんも良い子達なんだけど、やっぱりティーアちゃんは…クリスティーナ様は最強なんだろうなって思う。…思い出補正込みでも。
「して、何故君達が学園終わりのあの時間に既に終わらせていたのだ。馬車であったとしても数時間は掛かる筈だが」
ため息をついた国王陛下のその質問には、お兄様が答えてくれる。
「公爵家の馬車と…」
ティーアちゃんの方をチラッと見た後、すぐに前を向きながら平然と応えていくお兄様。
「魔道具を使わせて頂きました、…そうですよねお母様」
「ええ、私の所有していた物よ。履歴も残っているわ」
昨日私がお母様に祈願したお陰でもぎ取れたアリバイ。
お母様に本気でお願いして、あったことも全部話したんだよね。特にティーアちゃんには悪いけれど、殆ど話させてもらった。もちろん許可は得てる。まあ、直接話したのは家に帰った私だけなのだけれども。
そしたら「仕方ないわね…」と協力してくれたのである。大好きお母様。更に、「ブレイズにバレた時の方が面倒だもの」と呟いていたけれど、お母様と国王陛下の関係は一体……
「…そういうことにしておこう」
国王陛下が一言呟くと、お母様が自信満々にこちらを見てくる。
ティーアちゃんとうーちゃん先輩がピクリと肩を揺らしていたけれど、何があったのだろうか。2人は手を繋いでいる。
うーちゃん先輩も、先程までとは打って変わり物凄く静かな様子。……単純に考えて、1000年間離れ離れだったということだもんね、…私もたま〜に会いたくなるよ、前世の友達や院の先生達、あとは家族に。
で、うーちゃん先輩の場合会えなくなって約1000年間でしょ?桁が違い過ぎる。
その時点で、その気持ちは信じられない程大きい筈だよ。
「改めて君達にも共有しておこう。奴隷商人共の措置については昨晩決まった、其奴を含めた生き残りは全て永久投獄、主犯は見つけ次第即処刑とする」
モヤシを見ながらそう言い放つ国王陛下。
…打倒…なのだろうか。まあ、奴隷商人レベルだとそうなるのだろう。…主犯は処刑は厳しすぎるんじゃ…と思うけれど、歴史の授業でもやっぱあったし、人殺しは前世でも罪は問われるからあり得なくはない。…何より、これが絶対王政ということの証明になるわけだから、反対なんて以ての外だ。
そう思ったら、目の前にいるのは一人の人である筈なのに、国王陛下というだけで何人もの力を持っているんじゃないか…と思ってしまう。
いやぁ…仮にも国王陛下。私達は了承の意として押し黙る。…流石に絶対王政だからそれもそ…
「それはやり過ぎなのでは…?」
「少なくともそこにいる人達は全員解放できま〜すっ」
あ〜〜〜〜〜常識を覆していく系だったわ、この人達。
…時代が違うもんね、と言いたいんだけど、昔の方が刑罰は軽かったのだろうか。前世の特徴からしたら、昔の方が即処刑とかっていつレベルだったなんだけどなぁと思いつつ、2人の方を見つめる。
すると、ティーアちゃんはなんてこと無いような顔を見せていた。…珍しいな…ティーアちゃんなら「声あげちゃった!目立つ!」って言いそうなのに。
「ほぉ…?」
何かを見定めるような視線を見せる国王陛下。しかし、2人は至って真面目に堂々としていた。
「何の故か、理由を述べよ」
「…昨日、彼女が隷属の契約を生きている奴隷商人全員にかけておりました。」
「はーい!バッチリかけました〜♪」
ティーアちゃんがうーちゃん先輩を手で示せば、堂々とドヤ顔を見せる。あ〜、うーちゃん先輩って感じ。この謎の自信がうーちゃん先輩なのよね。
「…隷属の契約だと?」
「精霊印の隷属の契約✩簡単には破れない物なのです!ねぇ?」
「っっ…は…い……」
うーちゃん先輩がひと声かければ、モヤシが返事をする。
「………だとして、その精霊が裏切らないという保証は無いだろう」
国王陛下も負けじとそう言い切った。
うっ…確かに。私はうーちゃん先輩のことはゲームで知ってるし、ティーアちゃんも昔のうーちゃん先輩を知っているから、うーちゃん先輩を認識出来る。
でも、知らない人から見たら…精霊ってだけでも眉をひそめる事態なんだろうね。前世で言ったら…「私神です」ってドヤってるってこととほぼ等しい訳だし。
うーちゃん先輩は「は!?」ってなって国王陛下に詰め寄ろうと歩き始める。…ティーアちゃんに腕を捕まれているから全然進めてないけど。
「なにそれ!酷いですよ!ほんとにティーアちゃんの血縁者ですか!?」という声が聞こえてくる。流石にまずいと思ったのか、顔を近づけて目と目を合わせ、小さく、舞うは宵闇蜃気楼!とガッツリ呟く。その後うーちゃん先輩が黙り込んだ。
…うん、多分これ頭だけで会話してるわ…
それからティーアちゃんは何事もないかのような澄まし顔で国王陛下の方を向く。うーちゃん先輩は“何もしない私偉い!”みたいに自信満々だった。
「…精霊との隷属の契約は非常に濃い物。契約主である彼女に歯向かう事が出来ないのは勿論、他の場面においても、嘘を付くこと等の小さな事から、盗みを働くことや不法取引、奴隷商等…幅広く制限されます」
ティーアちゃんは早口でそう言う。
へ〜、ゲームやアニメでは殆ど言及されてなかったけど、そうだったんだ。肉体的に反撃を行えないのはもちろん、精神的にもキツいだろう。
「嘘、ね…」
陛下は意味ありげに目を細めた。
ティーアちゃんはその目をそらすことは無く見つめ返す。
誰にも隠し事が出来ず、質問をされたら本当のことを言わねばならない。…私も嘘ついてる…とまでは言わないけど、隠し事はしてる。聞かれたらそれを全部言わなきゃならないのはだいぶ厳しい。
…うん、結構妥当な処罰なのかも…
「彼女は1000年前のこの世界のことを知っています。奴隷商人など一部の輩に過ぎないし、他にも多くの危険な存在を目の当たりにしている」
「つまり、其奴ら奴隷商人を見逃せ、と?」
「……処罰は既に終わってます。それに、対応すべき極悪非道な人達はまだいるのです。ならば、彼らは解放してもよろしいのでは」
なんかバチバチしてるよティーアちゃんと国王陛下!
ティーアちゃんアンタ目立ちたくないって言う割に結構なことやってません!? 段々と空気が悪くなる2人を見ている私達。
お兄様は何やってるんだ…みたいに呆れているし、リスクは若干苦笑い、ネフェルちゃんは何故かキラキラと目を輝かせ、モーセは…私達を見て何かに燃えている…?
別の位置に案内されていたミリアムさんとエレミヤさんの方を見てみれば、少し離れた所で立っている。ミリアムさんはあわあわとして交互に見比べているし、エレミヤさんは眉をひそめて腕を組み、今にも舌打ちしそうな雰囲気。あと、隣にはアロンさん。小動物のようなミリアムさんを見ながらこちらも苦笑気味。
ちなみに、アスタさんは感心したように見ていて、ロータスさんがそれを小突いている。
お母様の方を見れば、扇子で表情は分からなかったけれど、隣にいるグリムさんは何とも言えない顔をしてキャンディさんを見ていた。…そう言えば、キャンディさんは昨日のことを謝っていたけれど、何があったのだろうか。
ちなみに、国王陛下の近くに居る騎士達は…と言えば、ほんとにいろんな表情をしてますね。青ざめてたり愉しそうだったり堅物そうな顔だったり何も考えてなさそうだったり、…ほんとに様々である。
何かあったら私が、…と言ったはものの、今発言できる空気ではないので私は何も言えず黙り込み、うーちゃん先輩とティーアちゃん、それに陛下の会話を聞き流すことしかできない。
………うん、冷静に客観視すると、この空間めちゃくちゃカオスだな。




