10(舞う)
密輸さながらに持ち込んだ自分の姿見と、対になるもう一枚。窓との位置合わせをして、自分の方にはバスタオルをかけて隠した。尋臣が用意したそれが誰の物で、ホコリ除けに被されたリンネルの理由を訊ねたりはしなかった。
本当のところ、この計画を尋臣はどう思っているのだろう。自分の身勝手さで押し切ったようで、亜希子は些か心もとない。
窓から迎え入れる鏡の側に立つ尋臣をそっと窺う。青白い横顔が月明りに浮かぶ。尋臣の存在自体があやうく見えた。
なんであたし、感傷的なんだろ?
くしゃみが出た。洟をすすり、手の甲で鼻の下を拭い、情けなくて乙女心が揺らぐ。
今夜中にカタがつくとは限らない。それぞれの鏡の横に立ち、無言。亜希子は自分でも飽き始めているのが分かる。云い出した手前、中止の提案するつもりはないが、本音としてはつまらない。気持ちが離れている。愉快なことでないのは承知していたはずだが、予想と実地じゃ鏡のこっちと向こうほどに違う。
依然として鼻はむずむずし、再びくしゃみが出そうになったその刹那、すいと窓から抜け出たそれが鏡に吸い込まれるのを見た。
前触れもなく突然のことで、亜希子は慌てて鏡に掛けたバスタオルを取り払い──くしゅん!
姿見が傾いた。鏡の中から泳ぎ出た黄色い魚が行き場を失った。床の上にしなだれ落ち、その姿を覆うようにドレスのフリルが幾重にも舞う。




