610 ビジネスの助言
ミルコの言う新規事業というのは、いわゆる“辻馬車”であった。
現代で言えばタクシーみたいなもんだな。
「いいねぇ! それ絶対需要あるぞ」
俺は笑顔でミルコに親指を立てる。
実は俺も、何度か考えたことがあったのだ。
ちょうどオドメーター(総走行距離)もあるし、メール便が軌道に乗ってからやってもいいかと思ってたんだがな……ミルコの奴やるな!
……ただ、1つ大きな問題がある。これは解決できてるんだろうか? 聞いてみよう。
「ミルコ。配送協定には引っかからないのか?」
そう。スーパーカブメールの前身であるスーパーカブ油送の頃から、配送する中身については配送会社間の協定でずっと制限されてきたのだ。
現在、スーパーカブメールが運べるのはメール類と燃料のみである。
ミルコの答えはこうだった。
「キャットのルナさんやサガーのワグナスさん達を交えて話し合ったんすけどね、同意は得られなかったっす。あちらも町中で人力車を使ってるみたいなので……」
「ああ、そりゃあダメだろ。もろに需要が被っちまう。そもそも協定違反だしな」
ミルコは当然分かってるといった顔で頷き、説明を続けた。
「はい。そのままだと違反なので、“町中ではなく町と町の間での配車ならどうでしょう?” って感じで尋ねてみたんすよ。例えばヤマッハから西区のアキューラや王都の手前まで……という風にね」
「ほう。それなら活動範囲は被らんな」
「はい。俺もその案で承諾してもらえると思ってたんすけど、やっぱりダメみたいっす」
……んー、なんでだろう?
「向こうはなんて?」
「こっそり町の中まで入ってお客さんを自宅まで輸送される恐れがあるから――とのことっす。まあ人力車の運賃ってめっちゃ高いっすから、分かるんすけどねー……」
そう言って悩まし気に頭を掻くミルコ。
ははぁ、人力車を使う人間は結構羽振りが良いってことか。キャットやサガーも高単価の顧客を逃したくないと見える。
ミルコは悩まし気な顔で俺に意見を求めてきた。
「カイトさん。カイトさんなら何か良い案を持ってるんじゃないかと思って……実はここに来たもう1つの目的がソレなんすよ!」
なるほどな……。
ある!
俺も前から考えていたからな。もちろんミルコに話すぜ。
「ミルコ、新しく何かを提案する場合にはよ、こちらも得をするがそちらもお得ですよ! ってのを提示するのが一つの手だと思うぜ」
俺に真剣な視線を送るミルコ。
「……というと?」
ミルコを見ながら人差し指を上に向け、俺は説明した。
「まず、王都やヤマッハにはキャットやサガーの営業所が町中のいたる所にあるだろ?」
「はい。ありますね」
「だからお前らスーパーカブメールはよ、人を別の町まで乗せて下ろす時、キャットやサガーの営業所をその終着点にしてやるんだ! それ以外の場所では下ろせない規則を作ってな。するとどうなる!?」
口を開けて大きく目を見開くミルコ。
「あ……お、下ろしたその場所に人力車があれば、そのまま自宅まで乗ってもらえる可能性が高い……! そ、そうか、なるほどー!! その条件なら彼らも納得してもらえるかも知れないっす!!」
そう。順序は逆だが、駅のターミナルにタクシーが集まるのと構造は同じだ。
需要と供給。それを上手く満たしてやれば顧客も満足し俺達の売り上げも弾む。
「場合によっては自宅が町の入り口のすぐ近くにある乗客もいるかもしれん。ここで下ろしてくれ、って言われてもしっかり断るよう従業員達に周知徹底させるのを忘れないようにな」
ミルコは作業着のポケットからメモ帳とペンを取り出し、今の流れを素早くメモしていた。
「いやー来て良かったっすわ! あはははっ」
凄く満足気な笑顔でこっちも嬉しくなってくるぜ。
「あとはそれを上手くルナやワグナスに伝えればいい。そこはミルコ、お前のプレゼン能力次第だ」
そう言って俺はミルコの肩を叩いた。
ミルコだけでなくガスパルも感心したように頷いている。
「くあーっ、こんなことなら最初からカイトに相談しに来たらよかったぜ、マジでよ!」
なんか照れ臭いな。現代知識があるってだけなんだが……。
そんな俺達を興味深く見つめていたシルクが一言。
「なんだニャお前。悪人ヅラのくせに見た目よりずっと真面目じゃないかニャ! 意外だニャーン」
「うっせえアホ猫! オメーはしっかり反省しろや」
「シャーッ!」
お前らケンカすんな。
……あ、そうそう。これも言っとこう。
「このシグナス区(東区)に関しては配送協定の範囲外だから、人でも物でも何でも輸送してくれていいぜ。そこでだ、もし良かったらなんだけどよ……」
「はい!」
目をキラキラさせながら返事をするミルコに俺はこう言った。
「もうすぐ月に1回の俺の故郷に帰る日なんだけどな」
「あ、またバイクを買ってくるんすね?」
「そうそう、そのついでにメッシュとシャロンを借りてもいいか? このマグナ村の近くに温泉があるかちょっと調べてもらいたいんだ」
「まーーったく問題ないっす! アイツら喜んで行くっすよ」
笑顔で即答するミルコに俺は吹き出した。扱いが軽いな。
でもやはり温泉といえば奴等だ。
……。
話はまとまり、俺達はミルコとガスパルを見送った。
「カイトさん! 二人共元気そうでしたね!」
「ああ。ところでカブ、明後日はまた日本へ帰るぞ。準備はいいか?」
そう、日本帰還は明後日なのだ。
「はい! 任せて下さい!!」
よし、ちなみに今回買うのはカブではなく別のバイクだ。
「ふふふ。セシルにスコットのこと話そーっと。あとエルドも可愛がってあげよ」
ターニャも嬉しそうな顔をしている。
血は繋がってないとはいえ、親と恋バナが出来るってのは良い関係なんじゃないか?
じゃあそれまでにクリスに事務仕事を覚えてもらおうか。
クリスの方を向くと、クリスはビシッと敬礼のポーズを取った。気合い十分のようだ。
ライアンもほぼカブに乗れるようになったし、全て順調に進んでるな。良い感じだ。
……。
そして俺達は日本帰還当日の朝を迎える。
「行くぜ、我が家へ!」




