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見えない題名
一月中旬、昼休みに空き教室に行くと、白見が本を読んでいた。図書室の本ではなく、自分で買って来た本だろうか。少し淡い桃色のシンプルな表紙が見えた。もう少し近付けば本の題名が分かりそうだ。だが、その手が邪魔で分かりにくい。
「ぎゅってする?」
「え? ……え、え、えー!」
何かに気付いたように慌てて白見は本の背表紙を見た。
*
忘れていた。そこには『ぎゅっとしてあげてください』と書いてあった。
もう随分前に買った本だったから、お話に夢中で何の本を読んでいるのか覚えていなかった。
「あ。親子の愛の物語、なんだよね」
「あ、ああ……」
*
何も言えなくなった。当てずっぽうだと言えない。気まずそうに白見が俺を見て来る。きっと白見はそのままの意味で受け止めた。
しばらく黙ったままでいたら、赤根がやって来て、普通に戻ったが、俺は恥ずかしくなって、空き教室を出た。廊下に出て、頭を冷やす。
考える前に言ってしまう、自分のした事が恥ずかしかったのだ。




