古代魔法
またもや7時台に投稿できませんでした。
すみません!
ガラクの身体が光に包まれ、この場から消えた。どうやらこの的を破壊された場合、速やかに≪転移≫が作動する仕組みとなっているのだろう。つくづく便利な魔道具だな。
さて、残りの受験者とはどのようにして戦おうか。ガラクの様に相対して一対一を愉しむのも一つだが、ここは森の中だ。広大な土地であることが予想される。
それに、組によってそれぞれ違うステージが用意されている。
何故、そのように用意されているのか。おそらく、一人一人がどのように立ち回っているのかというのも試験基準に入っているのではないか。
時間短縮というのもあるかもしれないが、だとすれば全員が同じステージで戦わせれば良いだけの話なのだ。気候、地形、などの環境に適応し臨機応変に対応をとれるかどうか。まぁ、深読みかもしれないがな。
俺は≪飛翔≫で背の高い木々をあっという間に追い越し、ある程度の上空で止まった。上空は雲ひとつない青空が広がっていた。
ひとまずは残りの受験生の人数を確認しなければいけない。そういえば、この時代であれは使えるのだろうか。試してみることとしよう。
俺は両目に魔力を集中させる。目の奥が熱くなり、魔力が高まっていくのが分かる。やがて、俺の黒の瞳が白へと変化していく。
≪創始の聖眼≫。全てを愛し、慈しみ、選ばれし者にしか宿らないと言われている眼。
この眼の能力として、
視野が莫大に広がる。
その視野に写る魔力の全てを把握する。
などとといった能力がある。
そして、奴の眼に唯一対応できる代物でもあるのだ。
どうやらこの眼は、この世界の創始者と言われるエリアスネアが持っていた眼だ。この眼を使えると知ったときは少々驚いたが、今でもそれを使えるのならば有効に利用させてもらおう。
ひぃ、ふぅ、みぃ……。俺は受験生が放つ魔力を数える。俺を含めて残りの受験生は七人か。
俺の近くに二人、少し離れた場所に一人、かなり離れた場所に三人。その三人は今も戦っているようだな。
横槍を入れるのは少し心が痛む。俺は心の中で「すまん」と謝罪する。
俺は右手を天に向け、魔法陣を展開する。膨大な魔力が巨大な魔法陣に集まっていくと、その魔法陣は銀色の輝きを放つ。その光は日を射さない木々すらも貫いた。どうやら、受験生たちも俺が放つ魔力と眩い光に気がついて、天を見上げる。
「なんだあれは!?」
「見ろ!奴が放つ魔力を!あれをまともに受けたら試験どころじゃない!死んでしまうぞ!!」
「とりあえず、逃げろ!」
受験生たちが命の危険を感じ取ったのか、戦いを一時中断しこの場を立ち去ろうと必死に走る。
やがて魔法陣には眩い銀色の光を放つ大きな球が出現した。古代魔法≪白銀彗星≫。
古代魔法とは、文字通り古の時代から伝わった魔法だ。通常の魔法術式とは違い、古代術式を用いているため、解読、理解ができていなければ使用できることのない魔法だ。その分、威力は通常の魔法の数倍はある。
前世の俺たちが生きていたより遥か昔の時代、小さな山に一つの隕石が落下した。それをある天文学者が発見し、それを古代術式として書き残した。それが≪白銀彗星≫である。
しかし、これをこのままぶつけてしまってはこの森もただでは済まないな。被害を極力出さず相手を倒す。無駄に土地を消してしまっては、その街にも被害が及ぶし、環境問題にも関わってくる。前世のときからそれは変わらない。
俺は≪白銀彗星≫を凝縮し、やがて六つの白銀の小さな光へと姿を変えた。
名付けるとするのなら≪白銀流星群≫。
俺は銀色の光たちを放つ。その光は受験生たちへと向けて飛んでいく。
「うおああああぁぁぁぁ!!」
少年は魔法障壁を展開して、≪白銀流星群≫を防ごうと試みるが。
「うぐっ……ぐわああああぁぁぁぁ!!」
魔法障壁がまるで紙切れのように貫かれて的へと直撃。粉々に破壊された。
「逃げても、逃げても。なんで追ってくるのよ!」
少女は迫りくる銀色の光を振り切ろうと、≪飛翔≫で逃がながら表情を歪めて悪態を突く。銀色の光は受験生の背中をただひたすら追い続ける。
≪白銀流星群≫は、標準を定めた魔力に反応して追尾してくる。今回の場合は、少女が身につけている的を破壊するまで追い続けてくる。
「はぁ、はぁ、くっ……」
やがて力尽きたのか、≪飛翔≫を解除し、少女は足をもたつかせながら後ろを振り返ると、銀色の光は少女の目の前まで迫っており、
「きゃああああぁぁぁぁ!!」
一応ガラク時と同様、対人用に威力は的を破壊する程度まで抑え込んでいる。ガラクはもう少し痛めつけても良かったのかもしれないが、他の受験生たちには恨みはない。あとは怪我をしていないことを祈るばかりだ。
≪白銀流星群≫が次々と受験生たちの的を破壊していく。魔力の反応が、五、四、三、ニと減っていき。
「ぐわああああぁぁぁぁ!!」
悲鳴と共に最後の受験生の魔力反応が、この場から消えた。それは森の中には俺しかいないことを示していて。俺は≪創始の聖眼≫を解除し、ゆっくり地上に足をつけた。
「おめでとうございます」
遥か上空から試験官の女性の声が耳に届く。
「アムル・シルフィルク。あなたをこの魔法学院最後の合格者として歓迎します」
俺の身体が光に包まれる。どうやら元いた場所へと転移されるようだ。それと同時に、試験ステージとなっていた森が消滅していく。この場所も魔法学院側が用意した一つのステージだったようだ。
こうして力を使ったのは三〇〇年ぶりだったな。だが今までとは違う。これからは魔法学院の仲間たちと共に互いを高め合う。
初めての魔法学院生活に心を弾ませながら、俺の意識はこのステージから消えていった。