閑話 姫金魚の独り言/齋藤 莉菜
────初めて彼女を見た時の第一印象は、「綺麗な子だな」と言う印象だった。ボブカットの真っ直ぐとした黒髪が光に透けて、その輪郭をまろやかにとかしていたのを覚えていて。それでも他の中学校出身の子が何人か同じクラスにいる私とは違ってその子は誰とも付き合いがなさそうで。とは言え、私自身も一番仲が良かった由里ちゃんとクラスが離れてしまったから、あまり友人が多いわけでもなくて。それでも、折角頑張って入学した高校一年間を、友達もあまり出来ないまま終えてしまうのは嫌だなという事は何となく思っていたのだ。
だって、私は一人に慣れてなかったから。幼稚園から今までの間は、何となく友達が出来て、何となくのんびりした派閥に入って────高校だって、中学三年生の時に由里ちゃんが「一緒に行こう」って誘ってくれたし、クラスの他の女の子も何人か行くって聞いたから決めただけで。別にどこの高校が良いとかは無かった────要するに、私は自分のことを自分で決められた試しがないのだ、一度も。
────ねぇねぇ、名前、「あきらちゃん」って読むの?
だから晶ちゃんに声を掛けたのも、最初は正直なところ何処かそんな邪な気持ちがあったことは否定できない。晶ちゃんは綺麗な子だったけど他のクラスの子と違って静かで穏やかそうな雰囲気で、悪く言ってしまえば正直なところ少し地味な印象だったから、何となく優しく返してくれるんだろうなと少し打算的に考えていたのだ────だけどあの日、晶ちゃんが私の名前を見て「可愛いね」って言ってくれた日。……私と話すのが楽しかったって、よければまた話しかけてって、言ってくれた日。私は彼女に、同じクラスで前後の席の塩瀬晶ちゃんに、間違いなく「一目ぼれ」をしていて────それでもその結論を出すのは今よりも少しだけ後の話で。それでも私は何故か、「晶ちゃんと一緒に過ごす時間が増えれば、晶ちゃんも私のことを意識してくれるかもしれない」なんて、そんな根拠のない自信を考えてしまっていて。……だからきっと、罰が当たったのだ────間抜けなことに私は、本当は晶ちゃんがもう既に好きな人がいるなんて可能性を、微塵も考えてはいなかったのだから。
……最初に晶ちゃんが誰かを好きなんだと気付いたのは、晶ちゃんが必死になってその人を探してるって聞いた時。だって変じゃない、入学してまだ間もないのにそんな風に誰かを必死になって探すだなんて。
だけどその時の晶ちゃんがあまりにも必死だったから、バスケ部の外周をサボっている時に知り合った、三組で同じ園芸部の白石さんのことを晶ちゃんに教えてあげた。そしたら晶ちゃんは私に「ありがとう」って言ってくれて、あのいつものどこか寂しそうな表情もぱっと消えて、お昼を食べている時も楽しそうで。それが凄く嬉しいなって、晶ちゃんとその人が仲良くなれると良いなって、そう思っていたことは嘘じゃない。……嘘じゃなかった、はずだ。
だけど、晶ちゃんがその子と知り合ってから楽しそうにするたびに、私は日に日に怖くなった。晶ちゃんがその子にとられてしまうんじゃないかって、晶ちゃんを最初に見つけたのは私なのにって、そんな身勝手な一方的な独占欲を、顔も名前も知らない「川蝉さん」に対して一方的に募らせていたのだ。
だから晶ちゃんが借り物競争で私たちの観客席に向かって走ってきた時、私は馬鹿みたいに一方的に期待していた。晶ちゃんが私の手を引いて私を選んでくれるんじゃないかなんて、そんなどうしようもないことを。だって私は白石さんや晶ちゃんの写真部のお友達よりも早く晶ちゃんを見つけたんだから、晶ちゃんと仲良くなったんだからって、そんなつまらないことを一方的に夢見ていたのだ。
だけど実際に晶ちゃんが選んだのは、私の知らない女の子で。そんなことに、どうしてか一方的に傷ついてしまった私がいたことも事実だった。
だって、そんなの変だもん。私が一番最初に晶ちゃんを見つけたのに、私は同じクラスで席だって近いし、毎日たくさん話すのに、クラスも部活動も全然違う『かわせみさん』の方が晶ちゃんと仲が良いなんて、『かわせみさん』の方が晶ちゃんは好きだなんて、そんなの変だ。だって、そんなの────
私は俯いていた顔をあげると、大きく深呼吸を数回繰り返す。そうだ、これからちょうどお昼休憩になるんだから、後で晶ちゃんに「一緒にご飯食べよう」って誘ってみよう。お昼を一緒に食べているのは私の方が多いんだから、晶ちゃんもきっと「良いよ」って言ってくれるはずだ────少なくとも『かわせみさん』よりは、私の方が一緒に食べている回数は多いし。
そうしようと思って、萎れた気持ちを一人で慰めていれば、不意に隣に人が座る気配がして。そちらに視線を向ければ、また知らない間に移動していたのか、そこにはカメラを首から大切そうに提げて少し疲れたような表情で座っている晶ちゃんがいた。その整った顔にバクバクと心臓が鳴りだすのを必死に鎮めながら「びっくりした、いつの間に行ってたの?」と言えば、晶ちゃんはカメラを鞄にしまうと「はは、驚かせてごめんね」と少しだけ疲れたように笑う。
「写真部も大変だねぇ」「そうだね。でもボクは写真撮るの好きだから、あまり苦ではないかな」
そう言って少しだけ楽しそうな表情を混ぜて笑う晶ちゃんに「そっか」と返して。私は何度か深呼吸を繰り返してから「────あの、ね?」と晶ちゃんに尋ねれば、晶ちゃんはカメラをしまった後に「どうしたの?」と言って、優しく微笑んで。その表情に心臓が急速に動くのを感じながら「……あの、」と小さく続けた。
「……あの、晶ちゃんさえ良かったら、い、一緒にお昼、食べない?「え」
緊張で声が震えてしまうのを何とか押し殺しながらそう言えば、晶ちゃんから返ってきたのは予想外の反応で。予想していたものとは違う反応に驚いて彼女の方を見返せば、晶ちゃんは少しだけ困ったような、それでいて酷く申し訳なさそうな表情をしていて。その表情に冷たい手で心臓を掴まれたような気持ちでいれば、彼女は目を伏せてから「……ごめん」と酷く申し訳なさそうに呟いた。
「ごめん、その、さっき三組に写真を撮りに行ったときに一緒にお昼を食べようって誘われてて。でも、良ければ皆で一緒に食べようよ。ボク、今から白石さんたちに言って────」
そう言って腰を浮かせた晶ちゃんの細い腕を思わず掴むと、「い、いいよ!」と引き留める。それに驚いたような表情をする晶ちゃんに対して誤魔化すように「わ、私も本当は由里ちゃんに誘われてて!」と言えば、晶ちゃんはその言葉になにかを察したのか、「……あ、ごめんね」とぎこちなく微笑む。
「……あの、ボクのことなら気にしなくても大丈夫だから」
晶ちゃんはそう言うと、「ボクも君のお陰で友達が出来たから」とか、「写真部の用事もあるし」とかいつもより少し早めの口調でそんな言葉を紡いでゆく。その様子を少しだけ不思議にみていれば、晶ちゃんはひとしきり話し終えたあとで少しだけ気まずそうにぎこちなく笑って、「……あの、ありがとう」と呟いた。
その表情を不思議に思いながらも、なにか会話にすれ違いが生じてしまっていることだけが解って、けれどその言葉の誤解を解こうと思うもののどうやってすれ違っているのかが解らなくて。結局私は「え、あ、うん」としか返せなかった。
結局のところ私はその後に続いた、晶ちゃんの「お昼楽しんで」という言葉に、情けないながらにも自分が晶ちゃんのお誘いを断ったと解釈されてしまったことと、弁解のタイミングを完全に失ってしまったことに気がついて。それでも結局どうすることも出来ないまま「ありがとう」としか返せなかった。
お昼前最後の競技として行われる二人三脚を晶ちゃんと一緒に応援しながら、私は何度か晶ちゃんに対する弁解のタイミングを窺っていて。それでもいざそのタイミングが来るものの、話す前に不用意に口を開いてまた拗れさせてしまうのではと躊躇してしまって。結局何も伝えることが出来ずにため息をつけば、晶ちゃんは少し心配そうにこちらを見ると「大丈夫?」と声をかけてくれる。
「大丈夫? 体調でも悪い?」「えっ、ううん! ちょっと考え事してて」
まさか「晶ちゃんの好きな女の子のことで悩んでいる」とも言えなくて誤魔化せば、晶ちゃんは心配そうな顔で「何もなくても良いから、もし良ければ相談してよ」なんて言って優しく笑う。自分は相談してくれないくせにと思いながら、それでもその気持ちが嬉しくて────だからつい、口が滑ってしまった。
「……晶ちゃん」「ん、どうしたの?」
少しだけ頼りなげに晶ちゃんの名前を呼べば、晶ちゃんは相変わらず優しく聞き返してくれて。それはきっと、他の女の子に対してもそうなんだろうなと思いながら、小さく深呼吸を繰り返すと、彼女の目を見て尋ねる。
「……晶ちゃんってさ、」「ん?」
心臓は口から飛び出してしまうのではないかと思うくらい動いて、鼓動は痛いくらいに早鐘を打つ。緊張で乾いた口腔を潤すようにこくりと唾を飲むと、ゆっくりと口を開く。頭の中は『どうして』とか、『私の方が先なのに』とか、そんな言葉でいっぱいになる。
どうして私じゃないんだろう。私の方が先に、晶ちゃんのことを見つけたのに。私の方が先に、晶ちゃんを好きになったのに。どうして、どうして、どうしてどうしてどうして────
────どうして、私じゃないんだろう。
「……莉菜ちゃん?」
訝し気にこちらを見る晶ちゃんの表情に、こくりと小さく息を呑んで。伝えようか、それとも伝えまいかと悩んでいれば、晶ちゃんはまるで小さな子供をあやすように優しく笑いかけて。自分に向けてくれる優しい視線を失いたくないなんて思いながら、当たりさわりのなさそうな言葉を探して、震える言葉を押し込めるように口を開く。
「────あ、晶ちゃんって、さ」「ん?」
晶ちゃんは変わらずに穏やかで優しい表情をして、その表情を見れば何だって言ってしまいたくなってしまう。どうしようもなく、甘えてしまいたくなる。
私は深呼吸を繰り返して晶ちゃんの澄んだ瞳をじっと見れば、晶ちゃんは一瞬だけたじろいだように目を逸らしてから「ど、どうかした?」と続ける。
生徒会の得点表の読み上げも、応援席のざわめきも、何も耳に入らない。それなのに、痛くなるほどに高鳴る心臓の鼓動だけが、やけにその存在を主張していて。息苦しいほどの緊張に泣き出してしまいそうな感情を押し込めて、「あ、あの……ね?」と震える声で続ける。
「────あ、晶ちゃんは、誰か三組に好きなひと、いるの?」
白いスニーカーがグラウンドの砂利の上を滑って、ざりと言う音を立てる。普段なら対して気にも留めないはずの音なのに、酷く大きく聞こえてしまうのはどうしてなのだろう。
その時の私は、まだみっともなくも晶ちゃんの「そんなことないよ」なんて誤魔化す言葉を心のどこかで望んでいた。その言葉がもらえさえすれば、完全に嘘だと解りきっていたって誤魔化されるつもりでいたのだ。「晶ちゃんに好きな人なんかいない」って、「まだ私のことを好きになってくれる可能性がある」なんて、そんな甘くて都合の良い夢に浸っていられるのだから。
────なのに、
「────へ」
晶ちゃんの口から出た言葉は、普段の彼女にはおよそ似つかわしくない何処か間の抜けた言葉で。途端に赤くなってゆく顔色に、自分がどれほど浅はかな考えをしていたのかを思い知って、頭からさっと血の気が引いてゆく感覚がした。当の晶ちゃんはと言えば、赤くなる頬を隠すように俯くと小さく「あ、あの」とか、もっと言葉にならない声を発してから、少し目を逸らすと酷く小さな声で「────うん」と呟いた。
「────うん、いるよ。……その、さっきは解らないっていったけど」
そう言って俯いた晶ちゃんの頬は赤く染まっていて。さっき三組に行ってる間に何か心境の変化があったんだ、なんて思いながら、動揺する自分を晶ちゃんに悟られないように「……へ、へぇ?」と続ける。
「────だっ、」「ん?」
何で。どうして。私が最初に晶ちゃんを見つけたのに。私が最初に好きになったのに。こんなに大切に思ってるのに、なんで、どうして、なんで私じゃないの、なんで、なんで、なんで、なんで────
ひくりと喉が引き攣るような感覚がした。ひゅっと喉の奥で掠れたような音を立てる。心の中でヘドロのような暗くて重い感情がじわりじわりと侵食しているのが解った。
こんなことを聞くなんて間違ってると、頭の中の私が呟く。こんなことを聞いたらもう戻れなくなるって、もう晶ちゃんに振り向いてもらえなくなるって。だけど、そんなことは私が一番わかってる。わかってる、けど────
「────だっ、」「……はは、ゆっくりでいいよ」
こんなことを尋ねれば、嫌われてしまうって解っているのに。ずっと一緒にいた友人でもない限り、教えてもらえることなんかないのに、なのに口は勝手に言葉を紡いでゆく。
「だっ、誰?」「え」
興味本位だと思われたのか、晶ちゃんはどこか困惑したような表情をして。その表情に、自分が焦りのあまり無遠慮なことを口走ってしまったことに気が付いて、だけど引っ込めようもなくて。自己嫌悪をしながら晶ちゃんの言葉を待っていれば、私と晶ちゃんの間には暫く沈黙が流れて。やがて晶ちゃんは私が折れる気が無いと判断したのか、小さく溜め息を吐くと「……あの、」と呟く。
「……あの、あくまでボクが一方的に好きなだけだから。……その、あまり周りに言いふらさないでくれると、有難いんだけど────でも、莉菜ちゃんならそんなことは無いか」
晶ちゃんはそう言うと少しだけ疲れたように笑ってから、「……耳、貸して?」と囁くように言って。少し低いその声に心臓が高鳴って、信用されていることが嬉しくて顔を寄せれば、晶ちゃんは内緒話をするように手を形作ると私の頬にあてる。少し冷たいその感触と痛いくらいに騒ぎ出す心臓にきゅっと目を瞑れば、晶ちゃんは「……内緒だよ?」と囁いてから、小さな声で続けた。
「……か、川蝉さん」
その瞬間、自分の頭の中がすうっと冷えていくような感覚がした。あれほど騒がしかった心臓の音さえも、何処か遠くから聞こえているような気がする。
晶ちゃんは私の耳から離れると、「……内緒ね?」と照れたように笑って。そんな表情は、私だって見たことが無いのになんて、そんなことを考えてしまう。
「……い、」「ん?」
いつから、と尋ねようとして、そこまで言ってしまうのはいきすぎだと頭の中で未だ残る冷静な自分が嗜めて。私は口をついて出てしまいそうになる言葉をぐっと飲み込むと「────そ、そうなんだ?」とだけ伝えた。
心臓が酷く痛くて、気を抜けば泣いてしまいそうで。結局私は晶ちゃんの恋が成就するかもしれないお手伝いをしていただなんて、あまりにも滑稽で笑ってしまう。
私が最初に見つけたのに、私が最初に好きになったのに。だってその子、クラス違うでしょ? 晶ちゃんのこと、何にも知らないでしょ? 晶ちゃんと話しててどんなに私が嬉しかったのかなんて、知らないでしょ? なのに、ちょっと会っただけで好きになって貰えるなんて間違ってる。ずるいよ、そんなの。ずるい、ずるい、どうして私じゃないの、どうして。
「……莉菜ちゃん?」
困惑したように私を見る晶ちゃんに、ぎゅっと心臓が掴まれたような気持ちになって。「な、なんでもない」と言えば、晶ちゃんは「そっか」と言って柔らかく笑う。その表情も全部、川蝉さんにも向けているのかなんて考える度に、どうしようもなく嫌になって、苦しくて。それでも、そんなことを晶ちゃんに伝える勇気は無くて。
莉菜ちゃんならなんて、簡単に信用なんてしないで。そんな風に言われる度に、私は自分が晶ちゃんに対して抱いている感情が解らなくなってしまうから。……だから、私を見つけないで、私に信頼を寄せないで────だけど、もしも私のこの感情に「恋」と言う名前がつくのなら、どうか晶ちゃんだけはこの恋に気づいていて。私を好きにならなくて良いから、貴女を私のなかで少しだけ特別な存在でいさせて。
二人三脚の最後の走者がゴールテープを切った。白いテープがぷつりと切れて、放送はお昼休みを告げる。
あと少ししたら、晶ちゃんはあの子のところに行ってしまう。切れたゴールテープがもとに戻らないみたいに、伝えてしまったら最後、私たちの関係はこのままになることもない。……だけど、だけど、だけど────
「……晶ちゃん」「ん?」
私は晶ちゃんの体操服の裾をつかむと、晶ちゃんを見上げるようにして彼女の名前を呼ぶ。少しでも可愛いと思われたくて。
「────ずっと前に、『このもやもやの名前がわかった』って言ったこと、覚えてる?」
そう言えば、晶ちゃんは少し申し訳なさそうな表情をして首を振って。それに仕方ないかと諦めたような気持ちでため息をついてから、「あのね、私、晶ちゃんにそのことでお願いがあるの」と呟く。
「お願い?」「そう、晶ちゃんにしか頼めないお願い」
そう言って晶ちゃんを見つめれば、晶ちゃんは困惑したような表情で「ボクでよければ」なんて言って。やっぱり晶ちゃんは優しいなんて少しだけ笑うと、「あのね、」と呟いた。
「……あのね、今度、晶ちゃんと二人で、放課後に話がしたいの」
駄目かな?なんて言えば、晶ちゃんは困ったような表情をしてから、「構わない、けど……」なんて言って。それに内心笑いながら「嬉しい、ありがとう」と言えば、晶ちゃんは困ったように優しく笑ってから「うん、じゃあ、またあとで」と言って、三組の方へと走って行く。そんなに早く会いたいのかなんて、そんなつまらないことを考えてしまう自分にほとほと呆れてしまった。
「莉菜ー? お昼食べよー」「……あ、由里ちゃん! もちろん」
私はそう言うと、荷物をもって由里ちゃんの方へ向かう。どうせ食べるところだって教室なのだから、そんなに荷物なんてないけれど。
「ん? 莉菜、なんかご機嫌じゃない?」
不意に由里ちゃんが私の顔を覗き込んでそう言って。私はそれに対して、ハチマキを指で弄びながら「えー?」なんて言って笑った。
「────確かに楽しみかも」「ん? なんか言った?」
私の呟いた言葉に対して、由里ちゃんは聞こえなかったのかそんなことを言う。「んー……」と適当に相づちを打てば、視界の端には晶ちゃんと川蝉さんが楽しそうに話している姿が見えて。それを見ながら、晶ちゃんは川蝉さんが好きだけど、川蝉さんはまだみたいだなんて思いながら「んーん?」と由里ちゃんに返す。
「────なんでもないよ、独り言だから」




