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F→C

 俺は、あることをウィストさんに確認してから、執務室を後にした。

 因みに、従魔を街中で使役する際は、本来【従魔証明】なるものが必要らしく、召喚士は数が少なく普段はあまり需要ない為、急遽作成してくれるとのことだ。


 俺達が階段を降りて、受け付けがあるギルド1階へ戻ると、いきなり女性三人組に声を掛けられる。


「ねえねえ。君が噂のルーキーくん?」

「……はい?」


 冒険者ではあるのだろうが、何と言うかギャルっぽい三人組で、俺の最も苦手なタイプの一つの女性である。

 正直、あまり関わりあいたくなかったが、俺の心中を余所に、その内の一人がスっと一歩前に出る。


「うふふ。初めまして。君召喚士何だってね?何だったら、お姉さん達がパーティー組んであげてもいいわよ?」


 そして、何故か上から目線でそんなことを言ってくる。


「はあ…………」


 俺は曖昧に答えるしかなかった。

 いきなり何を言い出すのか理解出来なかったし、さっさと話を打ち切ってこの場を離れたかった。

 けれど、俺のその生返事を、何をどう勘違いしたのか、一番ギャルっぽい女がツツツと俺に近付いてきて、ある紙を差し出してきた。


「それじゃ、この申請書に名前書いて。お姉さん達が手取り足取り教えてア・ゲ・ル……ふうー」

「っ?!」


 俺の体を悪寒が走る。

 急に女が、俺の耳に息を吹きかけて来たのだ。

 気色悪いにも程がある。

 もしかして、こんなんで男が落ちると思っているのだろうか?勘違いも甚だしい。

 俺にあるのは、この女への嫌悪感だけだった。


 すると、それに見兼ねた焰華が、俺から女を引き離すと、ニコリと微笑んで、俺の代わりに女に言ってくれた。


「失礼ですが、マスターが困っております。お引き取りを」


 焰華は笑っていたが、目が笑っていなかった。

 他の三人も、俺と女の間に割って入り、俺を庇うように立ってくれる。

 キラリの顔からは表情が消え、テンは毛が逆立って「フーーー!!」と言って女を威嚇し、陸はまるで射殺さんばかりに女を睨んでいた。


 皆の行動を嬉しく思うが、これはどう見ても、傍から見たら女に守られている情けない男の構図にしか見えないだろう。

 実際にそうなのだから、何とも言えない。


「な、何よ!!あんた達!!あんた達ただの従魔なんでしょ?!従魔が出しゃばった真似してんじゃないわよ!!」


 ギャル女は四人の威圧に一瞬たじろぐも、すぐに持ち直して皆に食ってかかる。

 そして、右手を挙げたかと思うと、あろう事か、焰華目掛けてその手を振り下ろしたのだ。


「っ?!」


 俺はそれに気付いて、焰華の前に一歩前へ出た。


 バシンーー。


「な?!」

「「「「マスター?!」」」」


 焰華達が悲鳴を上げる。

 俺の左頬がヒリヒリしていたが、もしかしたら赤く腫れてるかもしれないと思った。

 けれど、俺はそんなことを気にせずにギャル女を睨む。


「っ?!な、何よ……」


 俺の予想しなかった行動に、ギャル女は気勢をそがれたように、おろおろしていた。

 従魔を庇うなど、考えもしなかったに違いない。


「……彼女達は、確かに従魔ですが、俺にとっては大事な仲間で家族です。もし彼女達に何かをすると言うなら…………俺は決して貴女を許さない」

「「「「っ?!」」」」


 俺は精一杯の睨みを利かして、女に言い放った。

 後ろで皆が息を飲むのが聞こえた。

 俺の睨みなど、きっと対して効果が無いだろうと思ったが、女は有り難いことに悪態だけついてその場を離れくれたたのだった。

 女達が立ち去るまでそうしていたが、三人組が居なくなった途端に、俺は体の力を抜いてよろめく。


「「「「マスター?!」」」」


 焰華が俺を支え、皆も俺を囲うように傍に寄って来る。

 あの三人組のステータスを見てみたが、一番ギャルっぽい女がレベル六十二で、他の二人も五十を超えていた。

 能力値も、昨日の大男(名前は忘れたが)よりも上で、正直俺一人で勝てたかどうかも怪しかったのだ。

 だからあれだけ強気で来れたのかもしれないが……。

 この世界での常識もまだ分からない以上、皆にも出来るだけ人を傷付けて欲しくはなかった。


「何で……あんな無茶をしたのですか?」

「……え?何でって……」


 焰華が、今にも泣きそうな顔で聞いてくる。

 キラリもテンも陸も、焰華と同じに泣きそうな顔をしていて、それを見て心配してくれたことを嬉しく思う反面、こんな顔をさせてしまったことを、俺は酷く反省した。


「…………体が勝手に動いたんだよ。仕方ないだろ?」


 これは嘘ではない。

 焰華は間違いなく、平手打ちを敢えて受けるつもりだった筈だ。

 それは従魔だからか、俺の今後のことを考えてかは分からないが…………その瞬間、頭より先に体が動いてしまったのだ。

 いつも俺を守ってくれる皆には感謝してもしきれないが、こう言う場合くらいは、皆の主人として格好付けてもいいじゃないか。


 俺が苦笑してそう言うと、焰華が感極まって俺を抱き締めてきた。


「マスター……」


 俺はそっと焰華の背中に手を回す。

 他の三人も、そんな俺達を温かい目で見ていた。


「えっと……あの~…………アスカさん?」


 俺達が、青春ドラマさながらなことをしていると、ユノがおずおずと躊躇いがちに声を掛けてきた。


「…………え?」

「その~……そう言うのはこの場では控えた方が…………」

「あ…………」


 俺は、そこで漸く我に返ると、一気に顔に熱が集まるのを感じた。

 そう言えば、ここはまだギルド内で、周囲には沢山の人達が居たのだと思い出す。

 皆がチラチラと俺達を見ていた。


「そ!そそそそそそそそうだよな?!ごめん!!」

「あ……」


 俺はいたたまれなくなり、勢い良く焰華を引き剥がす。

 焰華は名残惜しそうな目で俺を見てきたが、俺はそれに気付かないふりをして、そそくさと依頼ボードの前まで移動してから、依頼用紙を物色し始めた。


「と、兎に角!まずは当初の目的通りに、ランクアップしないとな!まずは五つのFランク依頼を受けて……」

「そのことなのですが……」


 俺が何か良い依頼が無いか見ていると、焰華が躊躇いながら口を開く。


「ん?何?」

「依頼は四つまでの方が宜しいかと」

「そうね。私もそれがいいと思うわよ?」

「え?何で?」


 焰華の提案に、キラリも賛同するが、俺は理由が分からずに首を傾げる。


「私達はマスターの従魔です。皆が皆別行動をしてしまえば、マスターをいざという時にお守りすることも出来なくなってしまいます」

「ああ…………まあ、俺一人じゃ何も出来ないからな」


 情けない話だが、焰華が言うことは最もなので、俺は苦笑する他なかった。

 けれど、焰華は珍しく慌てた様子で、俺の言葉を否定する。


「それは違います!これは我々従魔の矜恃の問題です!!決してマスターを信じて無いわけではありませんから!!」

「そ、そうなの?」


 焰華のあまりの気迫に、俺の声が上擦る。

 俺が聞き返すと、皆が一斉に勢い良く頷くので、これ以上何かを言うのは野暮だと思い、四人の提案を受け入れるのだった。


 俺がウィストさんに質問したのは、従魔である焰華達が依頼を受けることが可能かどうかである。

 従魔なのだから、当然四人は冒険者登録は出来ないし、俺は召喚士なのだから、従魔を使ってPtを貯めるのは、別に不正ではないのでは?と思ったのだ。

 流石に前例がなかった為、ウィストさんはかなり悩んでいたが、俺の言い分も一理あると言うことで、特例として焰華達も依頼を受けることを許可してくれたのだった。

 ただし、Bランク以上になった場合は、俺が受けた依頼を手伝うことは当然出来るが、個別で依頼を受けることは出来ないと言うことと、これはあくまで特例と言うことで、このアージン辺境区の冒険者ギルド内でのことなので、他の場所でも適用されるかは分からないから気を付けるようにと言われた。


 俺は四つの依頼用紙を手にすると、それをユノの所まで持っていく。


「はい。確かに承りました」


 正式に依頼が受理されると、ここからはトントン拍子に俺はランクを上げていった。

 ものの一ヶ月と言う異例の出世スピードで、俺はCランクまで登り詰めると、近々Bランク試験を受けることとなるのであった。

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